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□ジングルベル、まだ鳴らさないで
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「起きろ真琴」


幾度目かの呼びかけにとうとう千昭はため息をついた。

真琴はすやすやと全くさっきから変わらない形で、ベッドの上に丸くなって眠っている。

「まーこーとーちゃーん!」
「…………んぁ……」

むにゃむにゃと息を吐いて真琴は寝返りをうった。
耳元で大声を出されても動じないこいつの神経はどうなってるんだ…?

いっそベッドから蹴り落として起こす、という選択も浮かんだが、そんなことはしたくない。

だから俺には選択の余地がなかった、というのは優しい。
惚れた弱味かもしれない。

「…起きないと、…キスすっぞ」

むに、と見た目通り柔らかなほっぺたをつねりながら、とっておきの切札を。
我ながら恥ずかしいことを言ってる自覚はあったので、ささやいた声が届いたかはわからない。

案の定、お姫様はまだ夢の中。
あほづらで眠り続けている。
ちなみに、キスくらいで起きるやつじゃないことは実証済み。

「真琴?」

呼んでも反応がないことを確認して、むき出しの肩に、ちゅぅと吸い付いて真琴が鏡では確認出来ない場所に跡をつけてやった。
ちょっと気をよくしながら耳元で懇願する。

「なあ…いい加減起きろって」
「………ぁと五分…」

少しだけ意識が浮上した真琴は、浅い眠りをたゆたゆように、すぐ規則的な寝息になってしまった。
毎朝起こす方の身にもなってほしい。
毎回緩んだ無防備な顔に目を奪われて強く出られない自分も自分だけれど。
目の前で真琴の前髪が頬を滑り落ちる。
まつ毛の影が濃くなり、思わず微かに開いた赤い口元に目がいった。
白い歯が並ぶ奥の小さな舌まで意識してしまい、見てはいけないものを見てしまった気になった。

千昭は誰もいない遠くを、思いっきり目をほそめた見た。

(今は朝。今は朝。俺はこいつを起こさなきゃいけない)

自分の自制心をほめつつ、俺はもう一度真琴を見た。

(なんっか、なあ。変わらないと思ってたけど)

起きている時はやかましいほど元気で気にならないけれど。
真琴は綺麗になった。

伸びた髪も少し丸みをおびた体も、時折見せる微笑みも。

再会した時も綺麗になったと思った。
また一緒にいるようになってからも、毎日真琴は綺麗になっていく。

(女の子って不思議だ)

今これ以上ないくらい好きなのに、明日はきっともっと好きになってるだろう。
うーん、俺ももっと男を磨かなきゃかな、と伸びをした。
真琴の前髪を手で整えてやって(どうせまたすぐグシャグシャになるが)こめかみに口付けすると、俺は立ち上がった。

結果は今日も、俺の負け。
勝者には長き安息を。

一応、赤いデジタルが輝くアラーム時計をセットする。
…僅かな間考えて、セットしたばかりのアラームのベルを切って、軽く枕元に放り投げた。
コーヒーを入れて、朝飯を作り終わった頃に、また俺が起こしにいこう。
ベルなんかにこの役目は譲れない。

毎回真琴は「あっ明日こそあたしが朝ごはん作るから起こして!」とリクエストしてくれるけど、できた試しがない。
本気で起こそうとしていない俺のせいもあるかもしれないけど。

(まあ、今日も起きれなかった変わりに真琴からキス一つだな)

口笛を吹きながら千昭はコーヒーメーカーのスイッチを入れた。


















090 ジングルベル、まだ鳴らさないで


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