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□059 右手がいつも欲しがったもの
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「おい、箸が止まってるぞ」

「あっ」

テレビに釘付けになっていたルークが慌てて箸を持ち直した。

それも、すぐまた視線はテレビに移る。

画面の中では猫とカルガモの子供という、自然界ではありえない組み合わせが仲良くじゃれついている。
ほのぼのした光景にルークの頬が緩んだ。

「かっわいいなー!な、アッシュ!」
「まあ、な」
「一生懸命猫にヒヨコがついていってさ。猫のこと母上だと思ってるんだ」
「あれはヒヨコじゃなくてカルガモだ」

ヒヨコといえば。
アッシュは目の前で子どものように興奮して頬を赤らめているルークを目を細めて見た。
その短い後ろ髪がぴこぴこ跳ねるさまはヒヨコそのものだ。

「お前はヒヨコみたいだな」

向かい合わせになって食卓に向かっている二人。
アッシュは右手に箸を持ち、ルークは左手で箸を掴んでいるから一枚の合わせ鏡にもみえる。

けれど互いに受ける印象は随分と違った。

「んとそういえばアッシュは猫に似てるよな。血統種のやつ」

気まぐれで誇り高いところなんかそっくりだ。
ひとなつこくルークは笑った。

そんな顔をしていると子犬にも見えるな、なんて。
アッシュは尻尾を嬉しそうにふるルークを想像してしまって、思わず吹き出した。

「どうしたんだよ」
「なんでもねえよ」
「ふーん変なアッシュ」

くすくすと無邪気な声が転がるように空気にとけていく。

胸の中で柔らかなものが満ちるような、小さなあぶくがはじけるような。
くすぐったい気持ちがしてアッシュはなぜだか胸が詰まった。


「なーアッシュ」
「なんだ?」
「こういう何でもないことが楽しいのを幸せっていうんだろ?」

ストン、とその言葉が胸の中におさまる。

「-…そうだな」

今が幸せだからきっと泣きたくもなるのだろう。

欲しいものがわからなくて、あがいていた焦燥感はもうたくさんだ。
ずっと欲しがり続けた右手がつかんだ今を逃すまい。



「こんな日がずっと続くといいよな!」



まさに思っていたことを言い当てられて、アッシュは目を奪われる。

「続くに決まってるだろう。屑が…」

そう言ったアッシュの目は柔らかく微笑んでいて。
いつものキメぜりふは、迫力のないものだった。













059 右手がいつも欲しがったもの


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