神様と遊ぶ。
□神様はご立腹のようです。
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とある日、私は桜市子宅で奇妙な光景を見かけた。
「で、あなたは何をしているんです?」
「見ればわかるでしょう、ていうか何でウチにいるのよこの貧乏神が!」
見ればわかる、と言われたが私にはさっぱり分からない。いやホント。
「すみませんが、どうやら私目が悪くなったようで。何をしているのかさっぱり」
「料理よ、料理」
何と。今ここで繰り広げられているものを料理といったのかこの人間は。
至る所に斬りつけたような跡があり、挙げ句壁には何かがめり込んでいる。
そして彼女の手には包丁と木槌が存在していた。
「お前料理に謝れ。今すぐ。」
神様はご立腹のようです。
どうやら彼女は懲りずに料理を作る、ということをしていたらしい。
前回はたった2分で惨状が出来上がっていたので、それに比べれば今の状況はとてもかわいいものだ。
と、思いたい。壁にめり込んでいるものの正体がかぼちゃの欠片だったなんて断じて認めない。
「あなたねぇ、たかだか料理で何故部屋が一部破壊されているんですか。工事現場じゃないんですよ台所っていうのは」
「言われなくても、分かってるって、の!」
ゴン。ひゅんっ。
「じゃあ今何をしているのか考えてみなさいな」
「だーかーらっ、料、理っ」
ゴン。ひゅんっ。どっ。
「オイ今壁に刺さった」
「…おっかしーわねー、この包丁ダメなんじゃないの?」
「そもそも包丁は切るものであってノミみたいに彫るもんじゃねーぞ」
まな板の上に置かれた立派なかぼちゃには包丁が突き刺さっており、他にもいくつもの穿った穴が散見された。
ち市子は左手に包丁を逆手に、右手には木槌を構えかぼちゃへと振り下ろしていたのだ。
もう、何と言うか、料理をなんだと思ってんだこいつは。すでに人の食い物じゃねぇ。
もっとよく周りを見れば、ゴミ箱からは得体の知れないものがはみ出ていたり、隅に寄せられているものには何故か人の身体の一部の形をしているものがあったり。
そうか、これさっきちょっと片付けたから前回と比べてかわいくみえていただけであってそんなに変わっていない、むしろパワーアップしていたのか。
幸福エナジーを常人を遥かに上回る程持っているのにこちらは遥かに下回るとは。まさに天は二物を与えず。
「かぼちゃってどうやって切るのよ。こんな固いもの…」
ふぅ、とため息をついて手元にある包丁とかぼちゃを交互に見つめていた。
かぼちゃは食べれるんだから切れるに決まってるだろうが。
「…ちょっと貸しなさいな」
「あ」
本当に見ていられない。
彼女の手から包丁をひったくると体重を乗せてまずは真っ二つにした。ほれ見ろ、切れた。
「そういえば、何を作ろうと思ったんです?それによっては切り方を変えなければいけませんよ」
「いや、えとそれは、…いやその前にあんた何やってんの」
「何ってかぼちゃを切ってます。根本的に間違えているあなたに変わって」
「ぬ、」
「で?何を作ろうと?」
「う…えーと…」
「?さっさと言えばいいじゃないですか」
珍しく、もじもじとしている。言いたいことがあればずばずばと言う彼女が。
目線をあちこちにさ迷わせ、心なしか頬も少し赤くなっているような気がする。
それを見て何故か胸がつかえたような感覚を覚えた。多分、気のせいだ。
「………が、………」
「はい?」
「諏訪野が、昔作ってたかぼちゃの煮物、甘いやつ。あといつも作ってたものとか」
ほうほう、おふくろの味ならぬ執事の味ってやつを再現しようと。
ということは…
「あなた、レシピとか知らないですよね?」
「当てずっぽうでやれば何とか出来るかなー、と。味は覚えてるし」
「そんなんで料理が出来たら世の中のお母さんは苦労しませんよ」
「そこはほら、幸福エナジーあたりでぱぱっと「できるかアホ」
ですよねー、と彼女らしくなくネガティブな方へ肯定した。
これではいつまで立っても料理は完成しないだろう。
…しょうがない。
そう、これはしょうがないのだ。
見ていて何だかムカムカする。主に胸のあたりが。いつまでもこの感覚を這いずり回されては困るのだ。
だからだ。
だからこの流れに至るのは当然のことだったのだ。
「料理、教えますよ。特別にね」
さあ、どうやってこの惨状を回復させるのか。責任重大だ。