神様と遊ぶ。

□紅葉と綾目へのお題01
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紅葉と綾目へのお題:愛情のあかし/「おめでとう。」/走馬灯の中で散りゆく http://bit.ly/kqXvnU 3番目ぇぇぇぇ!

愛情のあかし

久しぶりの休暇、ということで今日は神界の綾目の家へとお邪魔していた。ここ最近は神界にも帰っていなかったので綾目の家に来るのは本当に久しぶりだ。懐かしさすら感じる。

「はい、どうぞ。火傷しないようにね」
「分かってますよ。いただきます」

目の前に置かれた湯呑を早速手に取り淹れたてのお茶を啜る。これはいつも飲んでいた緑茶だろうかと思うくらいにそれは美味しかった。隣に座って同じように飲んでいる彼女はさも美味しそうに、いや、楽しそうにお茶を啜っていた。
楽しそうに、というのも何だかおかしいが、本当にそう見えるのだから仕方ない。

「何かいいことでもあったんですか?」
「いいこと?ええ、そうね、あったわ」

すっと私の前に差し出したのは、綺麗に切られ皿の上に並べられている羊羹。

「それ、この間人間界に行った時に買ったのよ。結構人気でね、私が行った時はたまたま空いていたらしくて」

自分の目の前にも同じものを持ってきていてそれを一切れ、頬張った。

「ん、おいし」
「……それで?」
「そうねぇ、後は任務が上手くいったことかしら。山吹さんも褒めてくれたことだし」

にこにこと上機嫌に彼女は続けた。
なんかこう、もっとあるだろう。貴方のとなりに座っているのは誰なんだ。

「……私が帰ってきたことは?」
「そんな当たり前なこと聞かないで頂戴?ねぇ、聞かないで?」

ほんのりと頬を染めた綾目は口元を覆った手のひらからクスクスと小さな笑い声を漏らしながら私を見た。それが何だか子供を相手にされているかのようで、せめてもの抵抗と、綾目から顔を逸らした。
確かに、当たり前のことだとは思っている。だけども言葉にしてほしいのだ。
ふっ、と視界が少しだけ暗くなった。何事かと思い顔をあげると綾目の手が視界いっぱいに広がっていた。

「あひゃめ、なぃしひぇひゅんでひゅ」
「もーみじ」

普段とは違った間延びした声で名前を呼ばれる。同時にぐにぐにと両手で頬を揉まれた。

そんな顔しないで。ねぇ、しないで頂戴?貴方が帰ってきて本当にうれしいわ」

おかえりなさい、と続けられ私は何も言えなくなってしまった。なんでこの神(ひと)は私の言いたいことが分かってしまうのだろう。
心の中を覗かれることを不思議に思うが、そこに不快感はない。むしろ全てを預けられるという安心感があった。

「……ただいま帰りました」

へにゃり、と顔が緩んでしまったのが嫌でも分かった。それに釣られて綾目もふんわりと笑い返してくれた。
それだけでさっきの負の感情が跡形もなく消え去った私はとんでもなく単純で、間抜けな顔をしていることだろう。

「ほら、こっちに」

綾目が両頬から手を離して小さくこちらへ手招きをした。
四つん這いで綾目のそばへ寄ると、びっ、という小さな音と脇腹に小さな違和感を感じた。
そちらを見やると、オーバーオールの端がちゃぶ台から飛び出ていた刺に引っかかって縮れた糸を伸ばしてしまっていた。

「うわー、いっけね」

すぐさま外して寄ってしまった布地を引っ張って整える。
が、やはりというか、伸びてしまった糸は完全には元に戻らず、ビロビロと不恰好な様を晒していた。

「ああもう、綾目ハサミありますか?」
「私がやってあげるわ。見せて」

綾目は糸の端を摘むと、根本に玉結びを作っていつの間にか持ってきていたハサミで余った糸を切り離した。
その余った糸を手に取りじぃっと見つめて、何かを思案するような顔になった。何かおかしいところでもあったのだろうか。
と、おもむろに自身の右の小指に糸を結びつけて、もう一方の端を私の左の小指に結びつけた。

「?一体何をしてるんですか?」
「ほら、赤い糸」

自身の小指と私の小指の間に渡された糸を指差して彼女はたおやかに笑った。
その笑顔が私だけに向けられているものだと自覚すると、たまらなく彼女が愛しく思えた。衝動的に、手を伸ばした。

「綾目」
「なぁにもきゃっ」
「…もきゃって何です、もきゃって」
「い、今のは貴方がいきなりこんなことしてくるからでしょう?ねぇ、そうでしょう?!」

綾目は私の腕の中で若干恨みがましい顔で見上げてきた。それですらとても愛らしい。
何だそれは、狙ってやっているのか。
きっとそんなことはなくて、飾りたてていない素のままの姿なんだろう。そしてそれを見ることが許されているのは私だけだ。なんと幸せなことか。

「綾目」
「ん、」

細い彼女の身体を抱え直して楽な姿勢にし、腕の中に閉じ込めたまま、瞼の上に口付けを落とした。
抵抗は、されなかった。

「綾目、」
「…もみじ」

互いの名前を呼んでどちらからともなく指を絡める。綾目の仄かに熱が篭り始めた視線がジリジリと私を焼き切っていく。
鼻の頭に。耳朶に。唇に。首筋に。
次第に熱を持ち出した口付けを侵食させていく。

「っ、はぁ…」

綾目の吐息が耳にかかって、微かに残っていた何かが遂に崩れ去ってしまった。
ゆっくりと彼女を下にして、それと同時に帯に手を掛けてゆるゆると白い肌を露わにさせていく。
衣擦れの音と口づけの湿った音がそう広くはない部屋の中で跳ね返る。それに反応した綾目が漏れ出す声を抑えようと口を手で覆っているが、むしろ今の私には逆効果だった。
着崩れた着物の襟のそばに一際熱を込めた口付けを穿つ。歪な赤い花はきっと彼女に溶けていくだろう。いっそのこと、私も彼女に溶けてしまえばいいと思った。

(嗚々、貴方が愛おしい)
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