神様と遊ぶ。

□ゆびきりげんまん
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秋もすっかり深まり、足元に寒さが忍び寄ってきた今日この頃。
使い魔の熊谷がコンビニで買ってきた酒のつまみを齧りながら私はひとり、リビングで晩酌を楽しんでいた。熊谷も誘ってみたのだが、今日は気分が乗らないと言ってさっさとクローゼットの中へと引っ込んでしまった。薄情者め、とも思ったが酒の量が2倍になったのでまあ良しとしよう。
早速1本飲み切り、次へと手を伸ばそうとした時、廊下の方からフローリングの軋む音を聞いた。使い魔は不在。猫ちゃんだってまだ子供であるから、音の主はこの家の主だろう。予想と違わず、ドアを引いて表れたのは市子だった。

「おや市子、まだ寝てなかったんですか?」
「喉乾いたからお茶飲みに来ただけよ。……ひとりで晩酌してんの?」
「ええ、熊谷に振られましてね」
「タマちゃんにとられちゃったと」

……今、へんなのが聞こえたような。

「タマちゃん?」
「なんか、今日は熊谷と一緒に寝るんだーって、さっき一緒にクローゼットに入っていったわよ」

熊谷が。タマちゃんと。一緒に。
まだ子供のタマちゃんと一緒に。

「……あいつロリコンか……?」
「何か言った?」
「いえ、何も」

市子には伏せておこう。使い魔がヒトガタを使えることを。ヒトガタの熊谷が見た目おっさんだということを。市子はのんきに、ぬいぐるみと小動物が一緒にいるのって可愛いわよねーなどどのたまっている。
今度熊谷に事実を確認しておこう。ただ単に動物好きというのもあるのかもしれないし。何かあれば市子に知られる前に私が始末しておこう。相棒としての情けだ。
そんなことを考えながら2本目をようやく手に取り、プルタブを開ける。炭酸が抜ける音と共に小さなしぶきが弾ける。口をつけるとアルコールと麦の匂いが鼻を刺激して、缶を傾けると炭酸の泡が喉を流れ落ちていき、すこしぴりっとした。

「……あー、うっめ」
「それ、ホントに美味しいの?」

いつの間にやら市子がとなりに座っていて、手元にあるビールを見つめていた。まずいぞコレ。未成年によくあるアレだ。

「ねー、ちょっと「ダメです。」……まだ何も言ってないじゃん」

むすっとした顔でこちらを睨めつけてくるが、大して効果はない。なんだソレは。怒っているのか。

「あなたね、未成年なんですから我慢しなさいな。もうあと数年でしょうに」
「……あんたから未成年が云々って言われると何か変な気分」
「なんだと喧嘩売ってんのかコラ」
「そういうつもりはなかったんだけど、……あんたと飲んでみたいなー、なんて」

市子はそれきり黙りこくって、うつむいてしまった。なんだこの生物。このままではまるで私が悪者みたいではないか。くっそ良心的な何かを刺激しやがってこんちくしょう。
はあ、とわざとらしい溜息をつくと肩をぴくりと震わせたのがなんだかとてもおかしかった。

「ちょっと待ってなさいな。すぐ戻りますから」

そう言って、市子の部屋へ行くと熊谷に言付けてアイテムをいただいてきた。撫子さんの家へおじゃました時に使ったものだ。
リビングへ戻ると、所在無さ気な市子がソファーに座って待っていた。

「ほらジュースでも持って来なさい。コレ使えばお酒飲んだ気になるでしょう?」

プラプラと『Let's 桃源郷』を振ると、なんともまあ、嬉しそうに持ってくる!なんて言って台所へと入っていった。
個人的な事情でアイテムを使うのはあまりよくはないだろうが(まあそこまで模範的な貧乏神ではないのでよくやるが)、あの子が嬉しそうなのでチャラだ。
さあ、ふたりっきりの酒宴の始まりだ。
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