神様と遊ぶ。
□神様だって風邪をひく。
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「ちょっと、起きなさい」
肩を少々強めに揺らす。
それでも目の前の彼女は起きない。
日曜日の朝、桜市子に取り憑いた貧乏神・紅葉は早速仕事に取りかかっていた。
「ちっ、せっかく寝ぼけて何も分からないうちに幸福エナジーを取ってやろうと思ったのに」
紅葉は右手に取り付けた巨大な注射器を熊谷のはらわたに戻すと大きくため息をついた。
<寝ている時に取ればいいのでは?>
熊谷はさらさらと本に記すと紅葉にそう示した。
「そこはほら、私にもプライドってもんがありますし」
貧乏神長の山吹にも同じことを言った覚えがあった。
<ガチでやってもダメならそれしか方法がないのでは>
「まだ私は諦めませんよ。決めたんですから」
と、紅葉は市子を起こす作業に再び取りかかる。
伏せられた目。まつげはすらっと伸び、儚さを感じさせる。
閉じられた口。その唇は名字と同じく、桜色。
起きていれば敵意を鋭く飛ばし、見た目とはほど遠い、汚い言葉を吐く。
「………黙ってれば、綺麗なんですけどね」
ぼそりと呟いた言葉は相棒の耳には入らなかったようだ。
<何か言ったか?>
「いえ。起きなさいー」
揺らす揺らす。
彼女は起きない。
「こいつ狸寝入りしてんじゃねーの?」
紅葉が顔を覗き込んだ、その時。
「ん……」
市子が瞼をピクリと震わせ、目を開けた。
「あら起きましたか。今からあなたの幸福…ってあなた何して」
いきなり首の後ろに回された手。
るんです。と言葉は続かなかった。
一瞬だけ、口に触れた、暖かいモノ。
それは先ほど見ていた桜色。
「……もみじぃ…」
普段なら絶対に呼ばない名。
「すき」
寝ぼけて舌っ足らずな声。
向けられた笑顔は、確かに紅葉だけのもの。
「……は?」
そのまま彼女は何事もなかったかのように、ベッドで再び夢の中へと潜っていった。
紅葉は固まったのち、顔をまるで沸騰したかのように赤く染めた。
「くくくく、熊谷!今日はびびびびびび貧乏神業、…………っ休む!」
と、自ら住処にしているクローゼットにバタバタと戻って行った。
<……病にかかったか>
気味の悪いテディベアはさらさらと誰に見せるわけでもなく、書いた。
神様だって風邪を引く。
(何あいつ具合でも悪いの?)<風邪をひいたらしい>(はぁ?神様でもひくもんなの?)<心配?>(んなワケないでしょ)<……………>
→あとがき