神様と遊ぶ。

□神様はご立腹のようです。
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白飯。

「ほら米でも洗いなさいな」
「これで?」

手に持っていたのは食器用洗剤だった。

「違う!水で研ぐんです!」
「え、それじゃ汚れとれないんじゃないの?」
「周りについてる糠落とすだけなんですから洗剤なんて使いません。むしろ汚してどうするんです」


味噌汁。

「まずは鍋に水を張って、ああ余り入れすぎてもいけませんよ」
「わ、わかってるわよその位!」

嘘だ。それは絶対嘘だ。顔に出ている。

「だしのいりこを入れて、具材を切っておいてください。豆腐はさいの目切りに」
「えと、さいの目切りってのはこうよね?」
「ちょ、そんな切り方をするな!指をきり落とす気か!」


焼き魚。

「これはさすがに分かるでしょう」
「当たり前よ!まずはマッチで火をつけるんでしょ」
「待てオイやめろ」

いつの時代の人間だ。


以下略。





任務は困難を極めた。まさかこれほどとは思いもしなかった。

料理という単語以前に常識というものが無い。
包丁を持たせれば具材以外を切る。
火を使わせればいつの間にか大惨事への第一歩を踏み出す。その他もろもろエトセトラ。
肉体的な疲労よりも精神的な疲労の方が強い。
これは超過労働ということで山吹姐さんに剰余分の給与を支払ってもらわねばなるまい。

「出来た…!」

少し興奮しているのか、隣にいる市子の声はうわずっているように聞こえた。
彼女の目の前にあるのは器に盛られ、並べられた料理たち。
そう、それはまさに彼女が思い描いていた"料理"そのものだったのだ。

「と、言うか、思ったよりも庶民的なもの食べてたんですねえ」

そう。今あるメニューはどこの家庭にでも作れるようなシロモノばかりだ。

「あんたあたしが何食べてると思ってたの」
「いや曲がりなりにもいいとこのお嬢さんですし、そりゃあ庶民が手が出ないようなものばかりかと」
「そういうのも食べてたけど…まあ半々ぐらいの割合でこういうのも食べてたわよ」

じゃあ半分はいいものだったんだな。
だからそのボールみたいな乳になったってワケだ。クソッタレその余ってる脂肪寄越せや。

「おし、じゃあ食べよう」
「…そうですね、いただきましょうか」

いけない。思考を目の前の料理に移す。そこには市子と私、二人分の配膳が済んでいた。
ちなみにコレは市子からのお礼らしい。彼女曰く、

「べ、別にお礼ってワケでも、ああいやお礼なんだけど…とにかく!教えてもらった身としては何もしないってのもアレだし!」

というわけで。今日は本当に珍しく彼女からの許可があって食事をいただくのだ。
まあいつも許可があろうとなかろうと勝手に漁って食べているので大した違いはない。

両手を合わせ、食前の呪文二人一緒に唱えた。

「「いただきます」」





並べられた料理に次々と箸をつけていく。見てくれは悪いが食べれるレベルだ。
いや前回と比べるのは些か酷だろう。あれは本当に酷かった。

「ね、ね、どう?」
「どうって…」
「そのおいしいとか、そういうの」

市子が不安を滲ませた目でこちらを見ながら返答を期待していた。
こちらを見上げるような形になっているのでちょうど上目遣いのように見える。
やめろ、そんな目で私を見るんじゃない。

「まあ、おいしいですよ」
「ホント?!」

小さくガッツポーズをする彼女を見て教えてよかったなと、思った。

「そっかぁ、」

じゃあ、もっと練習して嵐丸とかつ、石蕗とかに食べておいしいって言ってもらえるようになろう。

そう言われるまでは。
教える前にも感じたあの不快感が何倍にもなって身体中を問答無用でかけずり回る。
胸に何かつっかえるというよりも、錘を押し付けられているようだった。

何だコレ。
微笑んでいる彼女を見ていると無性に腹がたった。
いつもはそんな顔をしないくせに。

「…………」
「あっ、ちょっと何すんのよ!」

私はテーブルに並べてある器を引っつかむと一気に掻き込む。お世辞にも美しいとは言いがたい料理がどんどん胃袋へと収まる。
いや、見かけはどうでもいいのか。この場合。
器に盛られていようと胃に入っていようと似たようなものなのだから。

もむもむも、ガリ。
…オイ今石みたいなの噛んだぞ何いれやがった。
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