神様と遊ぶ。

□追いつけないおいかけっこ。
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多分、私は紅葉にひどい事をしたのだと思う。普段表情をほぼ動かさない彼女が、泣き出しそうな顔をしていたから。もう会いに来こない。それどころか、嫌われてしまった。
胃にドスンと錘が落ちたような気分になって、こちらが泣きそうにになってしまった。泣きたいのは、泣きたかったのは紅葉なのに。
そんなことを考えていても、足だけは無意識に家に向かっていたようで顔をあげると至近距離に玄関のドアが迫ってきていた。

「ただいま……」
「あら、さくちゃんおかえりー。今日は早……どうしたの?暗い顔して。友達と喧嘩でもしたの?」

台所から顔を出した母が訝しげに私の顔を覗きこんできた。いつもは嫌がる「ちゃん」呼びだけれど、今日は反論する気も起きなかった。

「似たような感じ、かな」
「そうなの?早く仲直りしなさいねー」

残念ねぇ、折角いいもの見つけたのに。と母が零して台所へと戻っていく。その「いいもの」が何なのかが無性に気になって、私は母の後を追いかけた。
台所に立っている母は、夕食の準備をしていたようで手際よくまな板の上の具材を鍋の中に入れていたところだった。

「ねえ、お母さん。いいものって何?」
「あ、気になる?ちょっと待っててね」

コンロの火を極弱火にして手を拭きながらテーブルの上のものを探し始めた。テーブルに乗っていたのはどれも古ぼけていて、叩けばホコリが出そうなシロモノばかりだった。
どうやらすぐに見つけたようで、それを片手にニヤニヤしながら私の前へと来る。

「これよこれ」
「何これ、アルバム?」
「そうよー、お母さんすっごくびっくりしちゃったんだから!最後のページとか特に!さくちゃんもきっとびっくりすると思うわ!」
「えっとそうじゃなくて、誰のアルバムなの?」

ぱらり、とページを捲ると随分と古い写真ばかり。電線があるとかいったい何十年前なのだろうか。
母に手渡されてパラパラと捲っていくが何をそんなにびっくりすることがあるんだろう。と、あるひとつのページで手が止まった。そこに写っていたのは、

「それね、さくちゃんのひいおばあちゃんのアルバムなのよ!さくちゃんにそっくりなんだ「お母さんコレ借りるね!」

母の言葉を遮って私は部屋へと駆け込んでいく。先ほど捲ったページにいたのはあの見慣れた金髪で。机に座って、もう一度ゆっくりとお目当てのページを開く。

「紅葉だ……」

ボロボロのアルバムをめくっていくと学校の友達と思われる人たちとの写真が綺麗に収められていた。その中に必ずどこかに写り込んでいたのは、姿形の変わらない紅葉だった。
変わらずの無表情で何を考えているかよく分からない。
ページをめくってもめくってもあの赤色のオーバーオールが何処かにいる。
そして、最後のページを見たとき。

「あ、」

思わず声が出てしまった。
震える手で1枚の写真をそっと取り出す。
その写真に写っていたのは、満面の笑顔で写っている紅葉。そして私にそっくりな少女の姿だった。
見れば見るほど私にそっくりで、似ていないところを探す方が難しかった。
この人が市子。私の、ひいおばあちゃん。

紅葉は、私を見るたびにこの人のことを思い出していたのか。

何となく写真を裏返して見ると、隅の方に掠れた字で何かが書いてあるのを見つけた。

『紅葉と一緒に 市子』
『市子と一緒に 紅葉』

もう一度写真を返してみる。
写真の中の紅葉は笑っている。

この笑顔はこの人のためだけに向けられていたと思うと、何だかとても淋しくなった。だって、私といる時に笑っていたのは私に向けたものではなくて、きっとこの人に向けたものだったと思うから。

「いいなぁ、市子おばあちゃん」

私も、紅葉に見てもらいたかった。
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