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□軽いケンカと仲直り
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「どうしたの、それ?」
居間に入ってきたアデルの顔を見るなり、ママは怪訝そうに聞いた。
ブスッとした表情のアデルの頬には、くっきりと赤い手形がついていた。
無論この家の中で、アデルに平手打ちを見舞うような人物は一人しか居ない。
「何?痴話げんか?やぁねぇ。」
プッと吹き出してからかうように言ったママを憮然と見返し、アデルはボスッと乱暴にソファーに腰掛けた。
「そんなんじゃねえよ。ったく・・・。」
ハァッと深く溜息を吐き、赤く腫れた頬を痛そうに撫でる。
「あら、でも平手打ちされるくらい怒らせるようなことをしたんでしょ?ロザリーちゃんに。」
「オレはただ、声をかけに行っただけだぜ!?」
ママの方に顔を向け、納得いかねえという表情でアデルは答えた。
「部屋に居るみてぇだったから、茶でも飲まねぇかって。で、あいつの部屋のドアを開けたら・・・」
「開けたら?」
「・・・だから、不可抗力で・・・」
バツが悪そうに顔を赤らめ、アデルはポツポツと状況を説明し始めた。
つまり、何の気なしにロザリンドの部屋のドアを開けたら、そこには・・・着替え中の彼女が居た、というわけなのだった。
「わ、悪い!!・・・の、覗くつもりじゃなかったんだよ!」
慌てて閉めたドア越しにアデルがしどろもどろに弁解をする向こうで、ゴゴゴゴゴという激しい怒りのオーラが伝わって来ていた。
顔に縦線を入れながらアデルはゴクリと喉を鳴らした。
後ろでゆっくりとドアが開く音がする。
そろそろとドアの方に目を向けると、着替えなおしたロザリンドが真っ赤な顔でアデルの方を睨んでいた。
「・・・この・・・無礼者――――――ッ!!!」
バッチーン!!といい音がして、アデルの頬にくっきりと赤い手の跡が浮かび上がる。
「痛っ・・・てぇなぁ。謝ったじゃねぇかよ!」
「やかましい!!レ、レ、レディの部屋を断りもなくいきなり開ける奴があるか!!」
「だ、だからわざとじゃねぇって!こんな時間に着替えてるなんて思わねぇだろ!?」
「うるさい!お、女には身だしなみというものがあるのじゃ!!ノックぐらいするのが当たり前であろう!!この粗忽者!!」
あまりといえばあまりな言いように、アデルも少しばかりムッとした表情になる。
「そこまで言うことねぇだろ!?何もわざと覗こうと思って開けたわけじゃねぇよ!!」
「ひ、開き直るでない!!わざとでなかろうと乙女の柔肌を覗いた罪は前科百犯に値するのじゃ!!」
「・・・・・・!!」
「・・・・・・!!」
お互いにむぅっと口を噤んで、しばしの間にらみ合う。
「・・・っ・・・馬鹿者!!お主などもう知らぬ!!」
「・・・!!・・・わかったよ、勝手にしろ!!このへそ曲がり!!」
そう言い合うと、アデルとロザリーは同時にフンとそっぽを向いた。