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□ヤキモチ
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シュッ、シュッと空気を切る音が響く。
「・・・・・・」
アデルは突き出した拳を止め、フウと息を吐いた。
先程から庭に出て何度も素振りを続けているのだが、どうも気が晴れない。
(・・・ったく、何なんだよ一体・・・。)
一息つくと、さっきの光景がまた頭に浮かんで、何やらムカムカとしてくる。
恋人である自分には、一度もあんな風に優しく笑って触れてくれたことなどない。
(・・・いや、タローはまだ子供なんだし、別にいいだろ。こんなことで何をいつまでも気にしてんだ俺は。)
そう自分に言い聞かせ、軽く頭を振る。
子供相手にヤキモチを感じている自分が、ひどく情けない男になったように思えて、アデルはまたしても溜息を吐いた。
「兄ちゃ〜ん。」
「!・・・ああ、タローか。」
家の扉が開き、中からタローがひょいと顔を出していた。
「もうすぐ夕飯だよ。ママが兄ちゃん呼んで来いって。」
「ああ、そうか・・・。わかった。ありがとよ。」
フッと笑って、アデルはタローと一緒に家に入った。
「へへ〜、今日の夕飯何かな〜。楽しみだな〜。」
「・・・そうだな。」
無邪気に笑いながらアデルを見上げて言うタローの顔を見つめ、アデルはくしゃくしゃとその頭を撫でた。
(・・・馬鹿だよな、俺も。)
こんな無邪気で可愛い弟にヤキモチなんて、我ながら格好悪い。
「さっきのたんこぶ、もう大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫だよ。すごい痛かったけど、姫様がずーっとよしよしってしてくれたから。」
デレッと頬を緩めて嬉しそうに言ったタローの横で、ピクッとアデルの足が止まった。
「・・・へぇ、そうか。・・・良かったな。」
声のトーンが、ほんの少し下がる。
「・・・・・・」
ふと何かに気づいたように、タローはチラッとアデルの顔を覗きこむと、ニッとイタズラっぽい笑いを浮かべた。
「あれ、もしかして兄ちゃん妬いてるの?」
「・・・!・・・バッ・・・」
「ヤキモチだー!兄ちゃんのヤキモチ妬きー!」
「・・・お・ま・え・・・・!」
アデルは頬をヒクくかせると、ピキッと青筋を浮かべた。
ゼノンの呪いは解けても、弟のこういう小悪魔じみた性格は結局変わらないらしい。
「・・っ・・・そんなんじゃねぇよ!ったく、そういう悪魔じみた発言はよせっていつも言ってるだろ!」
「やーい、姫様に言ってやろー!!」
「こっ・・・」
アデルの頬が一瞬でカァッと赤く染まった。
「おまえなぁ!兄貴をからかうんじゃねぇっ!!」
ニヤニヤとはやしたてるタローの頭をグワシッと掴み、恥かしさをごまかすようにヘッドロックをかける。
「いたたたたっ!何すんだよぉ〜」
「これ、アデル!!何をしておる!!」
振り向くと、腰に手を当てたロザリンドが怒った顔で立っていた。
「ふえぇ〜ん、姫様〜、兄ちゃんがいじめるよ〜」
それに気づいたタローが、ここぞとばかりにささっとロザリンドの背後に隠れ、ベェッと舌を出す。
「タローは子供じゃぞ?全く、兄のくせに弟をいじめるとは何事じゃ!」
「・・・・・・」
ロザリンドがそう言うとアデルは何か言いたげに口を開きかけたが、途中でフウと息を吐き、口を噤んだ。
「・・・・・・悪かったよ。」
むすっとした口調でそう言うと、ぷいと踵を返して先に歩き去る。
「・・・・・・何じゃ、一体?」
きょとんとした顔でアデルの去った方を見やり、ロザリンドは訝しげに呟いた。
意外に鈍感なロザリンドをチロッと見上げながら、タローはちょっとやりすぎたかなとココロの中でほんの少しだけ反省した。