□天敵
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「・・・ゼタがいなくなった?」

邪悪学園理事長室・・・すなわち現理事長マオの自室に、プラムの驚いた声が響いた。

「・・・うむ。」

マオは腕組をしながら不快そうに頷き、フウと溜息を吐いた。

「・・・どういうこと?」

プラムはマオにすいと歩み寄り、幾分真剣になった声で聞いた。


先日の経緯により、ある理由で彼女が邪悪学園に入学して3日目。

今日はホームルームの予定も無く、のんびりとマオの部屋に遊びに来てみたのだが、予想していない状況だった。

「昨晩までは確かに居たのだ。本棚に入れると狭い狭いとうるさいので机の上に放置しておいたのだが。」

「・・・朝起きると、無くなっていたというわけ?」

「・・・そうだ。」

「・・・・・」

プラムは考えるように口に手を当て、ゆっくりと理事長室の中を見渡した。

「・・・ゼタが自分で逃げ出したとは考えにくいわね。あの本の身体ではろくに身動きできない筈だし、貴方に気づかれずにドアや窓を開けて部屋の外へ出られるとは思えないわ。」

「・・・むう・・・。となると、またしても新手のドロボーか?」

「・・・その可能性が高いわね。」

そう答えると、プラムはフウと溜息を吐き、ココロの中で呟いた。

(折角、ゼタで遊ぼうと思って来たっていうのに・・・)

「ゼタと」ではなく、「ゼタで」というところが非常にプラムらしいところであった。

「・・・心当たりは無いの?」

「我の部屋に自由に出入り出来る者といえば、世話係のプリニー達くらいだが・・・我のプリニー共の中に、我の所有物を盗るなどという度胸のある奴がいるとは思えんな。」

色々と経緯があり、今、ゼタ本はマオが手にしている。

プラムがそのことを容認しているのは、プラム自身がマオのことをひどく気に入ったからであった。

この学園にやって来てたまたま見つけたこのマオという少年は、内に秘めた魔力の大きさもさることながら、その性格も大変遊び甲斐がある面白いもので、ゼタ以外に新しく見つけた近頃特にお気に入りのオモチャなのだ。

彼がゼタ本を手に持っていれば、新しいオモチャと古いオモチャを並べて同時に眺めることができて、プラムにとっては一粒で二度美味しいというわけなのだった。



「何にせよ、早く見つけ出さねばならんな。」

そうポツリとマオが呟くと、プラムはからかうように笑って聞いた。

「あら、心配なの?」

「ちっ・・・違う!!誰があんなわけのわからんメモ帳の心配などするか!!」

マオは慌てたように顔を赤らめ、フンとそっぽを向いて怒鳴った。

「しかし、確か・・・あれに願い事を書き込むと、何でも叶うのだろう?おかしな奴があれを盗んで、この邪悪学園の魔王になりたいとでも書いたりしては困るからな!」

「その心配はないわよ。いくら願いを書き込んだって、全知全能の書に憑依しているゼタが認めない限り、叶わないんだから。」

「しかし、盗んだ奴がたまたまあの本と気が合う奴だったら、その願いを叶えてしまうかもしれんではないか。」

「かもね。・・・だけど、ここの魔王になりたいっていう願いだとしたら、その願いを書き込む者は、貴方以上の魔力を持ってないといけないわ。」

「・・・何?」

きょとんと聞き返したマオに、プラムはフフッと笑って続けた。

「願いを叶えるにはそれ相応の魔力が必要だってことよ。大きな願いを書き込めばその大きさに応じた分のマナが、願いを叶える代償として奪われることになるわ。・・・例えばろくに魔力も持ってないレベル1の雑魚が「魔王になりたい」なんて書き込んで、ゼタがそれを認めたとしたら・・・」

「・・・どうなるのだ?」

「代償となる魔力を根こそぎ奪い取られ、願いに負けてぺしゃんこに潰されるわね。・・・下手をすると死人が出るかも。」

「・・・な、なかなかヤバイ代物だな・・・」

マオはやや顔をひくつかせ、少し後ずさった。

「・・・心配しなくても、大丈夫よ。あの本は、近い内に戻ってくるわ。」

プラムは静かにそう言うと、くるりと背を向け、部屋の扉に向かった。

「お、おい、どこへ行く?近い内に戻ってくるって、何故そんなことが確信できるのだ?」

「あら、私が誰だか忘れたの?・・・私は予言者プラム。・・・私に見通せない未来なんて、無いんだから。」

「む・・・」

自信満々に言い放ったプラムに気圧されたように、マオは口ごもった。

(こいつの予言は当たるのか当たらないのか、いまいち確証が持てないのだが・・・。)

プラムはそんなマオをチラリと振り返り、小さく微笑むと、白い光を放ってフワリとその場から飛び去った。


(・・・さてと・・・私の大切なオモチャに勝手に手をつける身の程知らずは、一体どこの誰かしら。)
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