□天敵
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「成功ッス!!例の本盗って来たッスよ!!」

学園の中にある一棟の校舎。その一角の使われていない凶室の扉が開き、一体のプリニーが弾んだ声で飛び込んできた。

「ほ、本当ッスか!!?」

凶室の中にいた無数のプリニー達が一斉に振り向き、驚きの声を上げる。

「勿論ッス!!ほら、これッス!!」

飛び込んできたプリニーはそう言うと、得意げに手に持っていた赤い本を掲げてみせた。

おお〜という歓声と共に他のプリニー達がわらわらと群がる。

「これが、全知全能の書・・・」

「間違いないッス!!今朝、理事長の部屋からこっそり盗って来たんスよ!」

「あのマオとかいう理事長の部屋ッスか?どうやって?」

「理事長の家来のプリニーが理事長を起こしに行ったのに紛れ込んで行ったンス。俺らプリニーは基本的に皆同じ外見ッスからね。バレっこないッスよ。」

「な、成る程・・・!!」

プリニー達はうんうんと頷きながら顔を見合わせた。

「と、いうことは、この全知全能の書に願いを書き込めば・・・」

「俺達はエトナ様の超重労働から解放されるんス!!」

わぁっという歓喜の声が湧く。その中で、不意に低い声が響いた。

「・・・成る程な。」

全知全能の書・・・もといゼタがいつの間にか目を開け、苦々しい顔でプリニー達を見下ろしていた。


「あの魔王ラハールと一緒に居た魔神・・・確かエトナとか言ったか。貴様らはあの魔神の家来なのだな?」

この魔界には何か異界の者を引き付ける性質でもあるのか、近頃は様々な別次元の世界から多くの悪魔が集まってきている。

その中には、ゼタが以前見た顔もいくつか混じっていた。

もっともゼタも例に漏れず、別次元からここへやってきた内の一人なのだが。



「わっ・・・いつの間に起きてたんスか!?」

「聞いていたなら話が早いッス!俺らの願いはただ一つ、我らが主人エトナ様の地獄のようなこき使いから解放されることッス!!」

「さあ、願いを叶えるッスよ!!」



「・・・・・・」

矢継ぎ早にしゃべりだすプリニー達に、ゼタはギリッと忌々しげに歯を食いしばった。

かつては最強魔王と呼ばれ、会う者は皆ひれ伏した。

馴れ馴れしく口をきいてくる者など、それこそ魔王クラスの者くらいだったのだ。

そんな自分が、今では雑魚中の雑魚プリニーにすら舐めたような口をきかれ、反撃することも叶わない。

屈辱と悔しさに歯噛みすることしかできない我が身を恨みながら、ゼタは口を開いた。



「断る・・・」

「え?」

「断ると言ったのだ!!誰が貴様らの願いなど叶えてやるか!!プリニーごときが、勝手に人をさらって来て勝手なことを言いおって!!誰に口をきいていると思っている!!我は宇宙最強の魔王ゼタであるぞ!!」

「・・・・・・」

ポカンとした顔をしているプリニー達を睨み付け、ゼタはさらに怒鳴った。

「今すぐ我を解放しろ!!さもなくば・・・!!」

そういうや否や、その目がギラリと光る。

「ゼタビィィィィーーム!!!」

目から凄まじい閃光が走り、大きな音が校舎をつんざいた。



しかし、その閃光は当のプリニー達に当たることは無く、校舎の天井にぽっかりと穴を開けていた。

ゼタを手にしていたプリニーが咄嗟に彼を天井に向けたのだ。

「ふっふっふ・・・。あんたが目からビームを出すのはもう皆が知っているっスよ。生憎ッスね。」

「ぬ、う・・・!!」

悔しげに歯を軋らせたゼタに、周囲のプリニー達はニヤリと悪い笑みを浮かべ、スッと赤いものを取り出した。

「なっ・・・」

その手に握られていたのは、じんわりと燃える松明であった。

「俺らの願いを聞かないというなら、こっちにも考えがあるッスよ。どんな力を持つ本でも、紙は紙。火をつけられたらどうなるっスかねぇ?」

「っ・・・ふ、ふざけるな・・・!!」

「俺らも死活問題なんスよ。このままエトナ様にいびられ続けたらもうさすがに身がもたないんス。意地悪言わないで願いを叶えてほしいっスよ。」

プリニーの中の魂は元々罪人の魂である。

このような強硬手段も躊躇無く使う輩も珍しくはない。

「っ・・・!!」


まずい。



ゼタがそう思った瞬間。


ビシャッという鋭い音が響き、突然その場が巨大な冷気に覆われた。
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