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□天敵
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「な・・・?」
ゼタがゆっくりと目を開けると、たった今ゼタに火を近づけていたプリニーをはじめ、凶室に集まっていた全てのプリニー達が、頭だけを出した状態で巨大な氷柱に固められていた。
「な、何事っスか・・・?」
急に身体の自由を奪われたプリニー達が顔を見合わせておろおろし始める中、凶室内に充満した冷気がゆっくりと集まり、形を帯び始めていた。
「・・・校内で火遊びなんて、良くないわよ?」
不意に、プリニー達とゼタしかいないはずのその場に似つかわしくない可愛らしい声が響いた。
「・・・・・・?」
状況が把握できずキョトキョトするプリニー達に対し、ゼタはピキッと顔を引きつらせた。
忘れようもない、出来れば二度と会いたくない人物の声だ。
冷気の中に白い光が集まり、その中から純白の少女が姿を現していた。
「プラム・・・!」
プリニーの手から放り出され、床でひっくり返ったままのゼタに目をやり、プラムはクスッと笑って言った。
「いい格好ね、ゼタ。」
「やかましい!!一体何をしに来た!!」
「ご挨拶ね、助けに来てあげたっていうのに。」
「誰が貴様になど助けを求めた!!余計な世話だ!!」
ギャアギャア怒鳴るゼタを軽くいなし、プラムはクルリと向き直ると、固まっているプリニー達に視線を向けた。
「これは私の本よ。勝手に壊すことは許さないわ。」
場の空気が先程よりもさらにピンと冷え込んだ。
冷たい怒りの籠もった視線。
「・・・・・・」
・・・とりあえず、「ごめんなさい」と言って許してもらえる雰囲気ではなさそうだ。
プリニー達全員がそう感じていた。
「・・・す、すいませんっス。あ、貴方様のものだとは露知らず、つい・・・」
「・・・そう、知らなかったのね?」
「そ、そうッス!!全然知らなくて・・・」
身動きの取れないまま慌てて弁解を始めるプリニー達を見つめ、プラムは残忍そうに微笑み静かに言った。
「・・・知らなかったなら仕方ないわね。それなら、今ここでしっかりと教えてあげないといけないわ。」
「・・・え・・・?」
「・・・魔王の物に手をかけるってことがどれ程大それたことか。・・・その身にたっぷりと覚えこませてあげる。」
プラムが冷たい笑みを浮かべてそう言った途端、凄まじい音が響き、彼女の背後に巨大な氷のドラゴンが召喚されていた。
「ちょっ・・・」
プリニー達の顔が青ざめ、引きつったものに変わる。
「じょ、冗談っスよね?そ、そんなもの喰らったら怪我じゃ済まないような気がするんスけど・・・」
引きつった笑いを浮かべ、恐る恐る訊いたプリニーにプラムは容赦のない声で答えた。
「もちろんよ。・・・元から怪我で済ませる気なんて無いもの。」
ヒキッと息を呑んだプリニー達を見つめ、さすがのゼタも少しばかり気の毒になった。
プラムはああ見えてかなり気性の激しい娘だ。
本気で自分を怒らせた相手には容赦はしない。
おそらくあのプリニー達はこれから、生きながら皮を剥がれた方がマシだというくらいの目に会うに違いなかった。
「・・・・・・」
(我に害をなそうとしたプリニー共がどうなろうと知ったことではない。・・・・知ったことではない、が・・・・)
怯えたプリニー共の顔が目に入る。
その目はすでに屈服していた。
「・・・・・・・」
ゼタは、フゥッと深い溜息を吐いた。