□軽いケンカと仲直り
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「・・・・・・。」

暗いまどろみからふっと意識が戻り、アデルは小さく息をはいた。

すぐには体が動かせず、ぼんやりする意識をゆっくり覚醒させていく。

「・・・・・・?」

ふと、すぐ近くに誰かが居る気配がすることに気づいた。

軽く頭を動かし、ゆっくり目を開けてみる。

「・・・ロザリー?」

「・・・・・・!」

アデルが目を開けたことに気づき、ロザリンドは慌てて彼の側から跳ね退いた。

「何してんだ、お前・・・?」

「そっ・・・べ、別に余は何もしておらぬ!お主こそ突然目を覚ますでない!」

「んなこと言ったってよ・・・」

困ったように頭を掻きながらゆっくり身を起こし、アデルはふとロザリンドの手元に目をやった。

「・・・!!」

ロザリンドはギクッとしたように持っていた毛布を後ろに隠そうとした。

もっとも、隠す前にアデルの目にはバッチリ入ってしまっていたが。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

軽い沈黙の後、アデルはプッと吹き出した。

「・・・くれよ。」

「・・・何をじゃ。」

「それ、かけてくれるつもりだったんじゃねえのかよ。」

ロザリンドはカァッと顔を赤らめ、そっぽを向いた。

ムスッとした表情のまま、ついっと毛布を差し出す。



相変わらず素直でない彼女の好意の示し方に、アデルは暖かい笑いが込み上げてくるのを感じた。

差し出されたロザリンドの手を不意打ちのように捕まえ、ぐいっと引き寄せて抱きとめる。

「・・・・・!」

ギシッと彼女が硬直するのがわかるが、構わず腕に力を込める。

「・・・まだ、怒ってんのか?」

「・・・・・・いや・・・。」

「・・・さっきは悪かった。」

「・・・・・・」



アデルの腕の中に収まったまま、ロザリンドは困った顔で固まっていた。

自分から謝ろうと思っていたのに、先に謝られてしまったらどうすればいいのか。

背中に回されたアデルの腕から心地よい温もりが伝わってきて、思わず胸がキュウとなる。

「・・・よ、余の方も、さっきは少し怒りすぎた。・・・・・・済まぬ。」

思いのほか素直に謝罪の言葉が口から出たことに、ロザリンドは自分でも少し驚いた。

「・・・ああ。」

少し笑みを含んだ、穏やかなアデルの声にまた胸の動悸が上がる。

「・・・・・・。」

抱き寄せられたアデルの胸から少しだけ体を離すと、ロザリンドはおずおずと彼の顔に手を伸ばした。

先程ひっぱたいた頬のところに、そっと触れてみる。

さすがにもう腫れは引いていたが、やはり気にかかる。

「・・・・・・い・・・痛かったか・・・?」

「・・・・・・」

少しばかり驚いた顔をした後、アデルは嬉しそうに笑うと、頬に触れているロザリンドの手にそっと自分の手を重ねた。

「今はもう痛くねえよ。・・・気にすんな。」

「・・・・・・」

ロザリンドはカァッと赤くなったまま黙り込んだ。

アデルの頬に触れたままでいるのが何となく恥かしくて手を引きたかったが、上に彼の手が重なっているので手をどけられない。

見詰め合ったまましばらく沈黙している内、少しづつアデルの顔が近づいてくる。

「・・・・・・!」

そのまま目の前が暗くなり、唇に軽い熱を感じた。

心臓の鼓動が先程の倍ほど跳ね上がったが、そっと目を閉じ、その熱に身を預けているうちにゆっくりと落ち着いてくる。

「・・・・・・」

2度、3度静かにキスを続け、どちらからともなくもう一度腕を回して抱きしめあう。

「・・・覗いちまって、すまなかったな。・・・その、今度からは気をつけるからよ。」

「・・・・・・良い。」

「・・・へ?」

「ちがっ、いや、その・・・!!」

キョトンとしたアデルに、ロザリンドは顔を上げ、慌てて弁解した。

「の、覗き自体を良いといったわけではないぞ!!ただ・・・余は」

アデルの顔から目を逸らし、小さく呟く。

「・・・お、お主のそういう、粗忽で無礼な部分も含めた、お主自身が好きなのであって・・・そんな風に、お主に気ばかり使わせたいわけではないのじゃ・・・。」

「・・・ロザリー・・・。」

「とっ、とにかくっ!こ、今回のことは、余が怒りすぎたのが悪かったということじゃ!!お主が謝る必要はない!!」

「・・・・・・」

ロザリンドはそう一気に言い切ると、恥かしさを隠すようにボスンとアデルの肩に顔を埋めた。

「・・・わかったか。」

「・・・・・・ああ、わかった。」

優しい笑みを含んだ声と共に、アデルの腕がそっと自分を包み込んでくるのがわかる。

(・・・・・・良し。)

その心地よさに黙って身を委ねながら、ロザリンドは小さく息を吐いた。

チクチクと胸を刺していた小さな痛みが、いつの間にか消えているのを感じる。



・・・こんな風に、たまには自分から謝ってみるのも、悪くない。



これから先、彼と共有していくことになるであろう、長い時間。

その中で、今日のような軽いケンカと仲直りをたくさんたくさん・・・きっと経験していくのだから。




終わり。
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