裏置き場に行ってみたい!

□渇望
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「・・・ふ・・・・」

不意に、すぐ近くから聞こえた小さな吐息に、アデルはふと目を覚ました。

ぼんやりと目を開けると、自室の見慣れた天井が目に入る。

まだ夜中のようで、あたりは、まだ暗い。

「・・・?」

ふと顔を横に向け、ドキッと心臓が跳ねた。

息がかかる程のすぐ近くに、ロザリンドの顔があったのだ。

安心しきった顔をして、穏やかに寝息を立てている。

(・・・・・・あ・・・)

・・・思い出した。

もう何度目になるだろうか。

今夜・・・すでに昨夜だが、・・・自分たちは、愛し合ったのだった。


「・・・・・・」

アデルはフッと暖かい笑みをこぼし、そっと彼女の頬に手を触れた。

(・・・可愛いな。)

つくづく、そう思う。

優しく彼女の髪を撫で、起こさないように、そっとキスをした。


何度体を重ねても、彼女はいつも恥ずかしそうにし、小さくためらう。

それでも、アデルが彼女に触れると、ためらいながらも、一心に応えようとする。

そんなところが、たまらなく愛おしかった。


不意に胸がキュウとなり、アデルは彼女を腕の中に抱き寄せた。

髪の甘い匂いが鼻をくすぐる。

「・・・・・・」

・・・もし、彼女と出会っていなかったら。

ふと、そんな考えが頭をもたげた。

もし、ゼノンが転生の地をこのヴェルダイムに選ばなかったら。

もし、ママがゼノンを召喚しようと思いつかなかったら。

自分と彼女は、永遠に、出会うことはなかっただろう。

・・・こんな風に、愛し合うことも。



そう考えると、アデルは切なげに眉を歪めた。

・・・離したくない。

無意識に、抱いた腕に力を込めていた。


「・・・ん・・・・」

小さな声と共に、ロザリンドが腕の中で軽く身じろぎをした。

「・・・!」

起こしてしまっただろうか。

そう思って少し焦ったが、彼女は寝ぼけたようにうっすらと目を開け、再び目を閉じると、甘えるように身を寄せてきた。

どうやら、まだ夢の中にいるらしい。

「・・・・・・アデル・・・。」

ポツリと名を呼ばれ、アデルの心臓が再びドキンと跳ねた。

「・・・・・・寝言かよ・・・。」

再び穏やかな寝息を立て始めたロザリンドに、アデルは軽く息を吐いた。

・・・自分の夢を見ているのだろうか。そう思うと、軽い嬉しさと照れくささが湧いてくる。

「・・・・・・」

しばらく、彼女の顔を見つめていたアデルは、不意に頬を染めると、少し腕を緩めた。

身じろぎをした時に、彼女の胸が自分の胸の辺りに密着するような体勢になってしまったのだ。

先刻愛し合った後なため、素肌がそのまま直に触れ合い、肌の温もりがそのまま伝わる。

それを意識してしまうと、段々と、回した腕から伝わる彼女の肌の心地よさや、真近に感じる吐息と甘い香りに、つい、また、男としての欲求が湧いてきてしまったのだった。

(・・・おいおい・・・)

軽く自分の頭を小突いて、たしなめる。

つい数時間前に、たっぷりと愛し合ったはずなのに。

まだ足りていなかったのだろうか、自分は。

しかし、意識するまいとすればするほど、導火線がジリジリと焦げるように、欲望に火が点きかける。

アデルは慌てて彼女から身を離そうとした。

しかし、無意識にであろうが、包まれていた温もりが離れるのを感じ取ったロザリンドが、いやだ、というように、アデルにきゅうとしがみついてきた。

「・・・っ・・・!」

アデルは小さく息を呑み、硬直した。

すうすうと、穏やかな寝息が肩口にあたる。

「・・・おい、ロザリー・・・」

これでは、生殺しというか、精神的に拷問だ。

「・・・これじゃ、眠れねえ・・・。」

そんなことは知らぬ、とでも言うように、ロザリンドは心地よさ気な表情のまま、しがみついた手を放さない。

「・・・・・・」

そっと寝かせておいてやりたいという想いと、もう一度彼女を貪りたいという欲望がせめぎ合う。

アデルは困り果てた顔で悩み込んだ。
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