裏置き場に行ってみたい!
□お互いの想い(アンケお礼イラ追加)
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・・・弱った。
後ろからロザリンドにしがみつかれたまま、アデルは困り果てていた。
先ほどからずっとこの状況である。
アクターレと会ってから、ずっと何やら不機嫌だった彼女が、先刻温泉から帰ってきてから、急に自分に甘えてきたのだ。
極端に照れ屋な彼女は、自分から抱きついてくることなどほとんどない。
予想だにしない状況に、アデルは内心かなりドキマギしていた。
(・・・こいつ、状況わかってんのか・・・?)
ここはいつもの家じゃなくて、旅館の個室で。
いつも同じ屋根の下にいるパパもママもタローもいない二人っきりで。
おまけにお互い湯上りの状態で。
さらには先刻何故か従業員の服を着たプリニーがニヤニヤ笑いながら寝具を用意していった。
勿論プリニーには二人分の布団をひかせたが。
二人で旅行する、という時点で、そういう期待が無かったといえば嘘になる。
しかし、アデルはこの旅行で、まだロザリンドに手を出すつもりはなかった。
なにしろ、彼女はとんでもない恥ずかしがり屋な上に、他人から触れられるのに極端に慣れていないのだ。
お互い想い合っていることをわかっていても、未だに抱き寄せただけで緊張して顔を真っ赤にする。
そんな彼女に突然そんな真似をしても、傷つけてしまうことはわかっていた。
(・・・それに)
アデルは近頃自覚するようになっていた。
自分の中の、深い深い底の部分に、かなり凶暴な性格を秘めていることを。
自分の悪魔としての黒い凶暴性。
普段は出てくることはないが、戦闘している最中などに、不意に自分が抑えられなくなりそうになることがある。
それが怖かった。
彼女を傷つけたくない。・・・絶対に。
その理性が、先程からグラグラと揺らぎ、かなりの限界を感じていた。
ロザリンドは単に甘えているだけのつもりだろうが、この状況下で、好きな女に抱きつかれたままで、健全な男がその気にならないわけがない。
「・・・・・・ロザリー。・・・おい・・・。」
やんわりと彼女の手を引き剥がそうとするが、ロザリンドはいやだ、というようにしがみつく力を強める。
クラッと眩暈がする。
「さっきからどうしたんだよ?・・・なあ」
「・・・・・・」
アデルに困った声で訊かれ、ロザリンドは黙りこくった。
まさか、温泉での告白を、自分が陰で聞いていたなどとは言えない。
それでも、今は恋情が抑えられなかった。まだ、アデルに触れていたかった。
(おい、おい、おい・・・)
自分から離れようとしないロザリンドが、あまりにもかわいくて、アデルは理性が音を立てて崩れていくのが分かった。
(・・・ダメだ。)
彼女が自分にしがみついてくるのは、子供が親のぬくもりを求めているようなものではないか。
今襲い掛かったりしたら、ひどく傷つけるのは目に見えている。
「・・・・・・!!」
残った理性を総動員して、アデルは多少強引に彼女を自分から引き離した。
不意の喪失感に、ロザリンドは戸惑ってアデルを見上げる。
アデルは彼女から目をそむけ、慌てたように立ち上がった。
「・・・あー、その、何だ・・・。何か、湯あたりしちまったらしい。ちょっと外行って涼んでくるよ。先に寝ててくれ。」
とにかく、この場から離れて、頭を冷やそう。そう思った。