裏置き場に行ってみたい!
□彼女の逆襲
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「・・・・・・」
しばらく抱き合った後、ロザリンドはゆっくり腕を離すと身を起こし、ベッドの上に座って、アデルを見つめた。
「・・・何度、された。」
「・・・へ?」
「何度、バーの女悪魔どもにキスされたのかと訊いておるのじゃ!」
厳しい目線でギヌロと睨みつけられ、アデルはたじろいた。
どうやら、まだ完全に許してくれたわけではないらしい。
「いや、だから、あのキスマークは、あいつらに面白がって付けられただけでだな・・・。」
「・・・どこに、何度された。正直に言え。・・・お主、嘘は吐かぬ男じゃったな?」
静かだが、キツイ口調だ。
アデルはたじたじと汗をかきながら、静かに答えた。
「・・・頬と、額と・・・あと、首筋と・・・胸元にも何度か・・・。回数は、はっきりとは覚えてねえ・・・。」
馬鹿正直に答えてしまう。
あの時は、拒もうにも何人もの苦手な夜魔族の女に押さえつけられ、「特別料金よ♪」などと言いながら散々キスをくらったのだ。
ロザリンドはピキッと額に青筋を立てると、アデルの襟首をガッシと掴み、グイと引き寄せた。
殴られるのを覚悟し、グッと目をつむったアデルは、頬に触れた柔らかい感触に、一瞬きょとんとした。
「・・・・・・?」
目を開けると、ロザリンドの怒ったままの目が間近にあった。
何か言いかける間もなく、頬に、額に、続けさまに彼女の唇が触れてくる。
「お、おい・・・」
ちゅ、ちゅ、と啄ばむように、柔らかい彼女の唇の感触が何度も顔に落とされ、アデルは慌てた。
襟首をグッと掴まれて上手く身動きできず、困ったように彼女の肩を抑える。
「ど、どうしたんだよ?」
「・・・うるさい。」
怒った声のまま、今度は喉元にそっと口付けられ、アデルはギシッと固まった。
「お、おい、ロザリー・・・。待てって・・。」
「・・・うるさい!!」
ロザリンドはグイとアデルの襟元を引き寄せ、押し倒すように彼に抱きついた。
ベッドに仰向けに倒された彼の上に、ずいとのしかかる。
「・・・後は、胸元であったな?」
「ちょっ・・・お、おい!!」
半分はだけられた胸元に、ロザリンドはつっと口付けた。アデルの体が、硬直するのがわかる。
彼が戸惑うのも無理はない。普段の自分なら、きっとこんなことはしない。
・・・でも、今は。
ゴンゴンと突き上げるような衝動が、ロザリンドの胸の内に湧き上がっていた。
自分以外の女の唇が彼に触れた。・・・そう思うだけで。
「・・・気に食わぬ。」
幾度もの口付けの中、ポツリと呟かれた声には、もう先程までの怒気は消えていた。
「・・・ロザリー?」
アデルは、胸の辺りに押し付けられた彼女の顔に手を添え、そっと上向かせた。
「・・・・・・」
彼女の目には、うっすらと涙が浮いていた。
「・・・他の女が、お主に触れることが気に食わぬ。・・・嫌じゃ。」
「・・・・・・」
「・・・例え不可抗力であっても、嫌じゃ。」
「・・・ごめん。」
今日だけで一体何度謝っただろう。・・・それでも、アデルは他に言葉が思いつかなかった。
腕を回し、彼女をギュウと抱きしめる。
もし逆の立場で、彼女が他の男に触れられたとしたら。
・・・きっと自分も、我慢ならなかっただろう。例えそれが、不可抗力でも。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばしの間見つめ合い、どちらからともなく、そっと唇を重ねた。
「・・・ん・・・・」
ゆっくりと口付けを深めながら、不意に、たどたどしく彼女の舌が触れてきたのを感じ、アデルの心臓がドクンと鳴った。
こんな風に、彼女の方から求めてくることは、これまであまり無かった。
妙な緊張と照れくささに、体がぎこちなく固まる。
ようやく唇を離し、彼の肩口に顔を埋め、ロザリンドは目を閉じた。
抱きしめられた腕が心地よく、少しづつ心が落ち着いて来る。・・・しかし。
心臓の動悸はまだ治まらない。
切なさと、安堵感と、彼への愛おしさと、まだわずかに残る嫉妬心。
そんな色々なものが彼女の心を煽っていた。
彼の頬に、そっと顔を寄せる。
今夜は、彼と離れては眠れそうもなかった。