裏置き場に行ってみたい!
□夢魔
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「・・・っ・・・!」
薄暗い部屋の中、天井を睨みながらアデルは小さく歯噛みした。
何とか身じろぎをしようと力んでみるが、指一本すら動かなかった。
もう小一時間程この状態が続いている。
「・・・・・・」
わずかに動くのは目と口だけ。
後はどれほど動かそうとしても金縛りにでもあったかのようにピクリともしない。
「・・・随分頑張るわね?」
不意に上方から声が響く。
ベッドの枕元に腰掛けていたエレノアが薄く笑いながらアデルの方を見下ろしていた。
「・・・・・・うるせえ・・・!」
ギリッと歯を軋らせて睨むアデルを小気味良さそうに見つめ、エレノアはクスクス笑った。
そんな彼女の真意をはかりかね、アデルは苦々しげに口を開いた。
「・・・お前・・・一体何がしたいんだよ・・・!」
いつものように自室で眠りについたはずなのに。
深夜、アデルが目を覚ました時にはすでに体が動かず、枕元に腰掛けたエレノアが彼を後ろ目で見下ろしていた。
「突然現れたと思ったら、こんな真似しやがって・・・!!何が目的だ?」
無論、体が動かないのはエレノアの誘惑の術によるものだということはわかる。
だが、アデルの身の自由を奪っておきながらエレノアは彼に何をするわけでもなく、のんびりと腰掛けたままアデルの様子を見ているだけだった。
「いくら力んでみても意味がないわよ?感覚は残っていても、体の機能は全部まひしてるはずだから。」
アデルの問いには答えず、エレノアはのんびり返す。
「おい!答えろよ!!一体何のつもりだ!!」
アデルはイラついたように声を荒げた。
「人の寝込みをついて卑怯な真似しやがって・・・!!今更まだ自分と契約しろなんていうつもりじゃねえだろうな!!」
「いいえ。今更そんなことは言わないわ。・・・今の貴方にはもう知りたいことなんて無いんでしょうから。」
「・・・・・・?」
怪訝な表情を見せるアデルを見下ろし、エレノアは静かに言った。
「両親のことも知ることができて、ヴェルダイムの呪いも解いて、大切な家族に囲まれて、随分満たされているみたいね?」
「・・・・・・だったら、何だよ。」
エレノアの意図がわからず、アデルは少しばかりためらったような口調になった。
「・・・別に。」
「・・・何もないんなら、この術を解け!!いつまでこうしてるつもりだ!?」
再び声を荒げたアデルをついっと覗き込み、エレノアはニヤリと笑って言った。
「・・・そうね、もうそろそろ始めてもいいかしら。」
「・・・・・・?」
「もう効果も出てくる頃だしね。」
「・・・効果・・・?」
エレノアの言葉にギクリと嫌な予感を感じ、アデルは問うような目で彼女の目を見返した。
「ええ。貴方が寝ている間にたっぷり吸い込んでもらった媚薬の効果がね?」
「媚・・・薬・・・だと?」
その言葉の意味が理解できるにつれ、アデルの目が驚愕に見開かれていった。
いつの間にか自分の体温が上がり、妙な感覚が身体に渦巻いていることに気づく。
フフッと微笑むと、エレノアはついと手を伸ばし、試すようにアデルの胸元を軽く撫でた。
「・・・・・・!!」
びくりとアデルの身体が反応するのを眺め、満足そうに笑みを深める。
「・・・もう充分みたいね。それじゃ・・・」
エレノアの目が猥らに光った。
「あの時の続きを始めましょうか。」