単発小説
□風とともに
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「・・・木村、はい。・・・佐々木、もうちょっと頑張れよ?・・・佐藤・・・」
どんどんと先生から返される答案用紙に、一喜一憂する生徒達。
「やべぇ・・・補習確定だ・・・」
「うっし!!これで夏休み中も部活に集中できる♪」
「お前何点だった?」
「17点!!お前は!?」
「ふふふ・・・6点!!」
「!!!ま・・・負けた・・・!」
それぞれがそれぞれの反応をしながら、自分の答案を受け取る。
「・・・次は、取之州」
「・・・はい」
カタンッと椅子を引いて、教壇へと向かう。
7月も中程で、教室内は蒸し暑く、サウナ状態のはずなのだが、取之州と呼ばれた男子生徒の外見は、他生徒に比べ、涼しげに見えた。
まわりの騒がしさのなかで、その雰囲気はまさに清閑だった。
「取之州!今回もすごいな!!」
返された答案の右上には赤い文字で、『100』と書かれていた。
答案を受け取ると、フッと口だけで笑い、自分の席に戻った。
ざわざわ・・・
すべての答案を返し終えた教師は、今だに落ち着かない生徒達を制し、内容の復習のため、テストを一問一問、説明していった。
キーンコーン・・・
終業のチャイムが鳴り、生徒達は一斉に先程の百点を取った男子生徒へと集まっていった。
「てめ!また百点かよ!?今回の期末、全部で3つも取ってんじゃん!!」
「他のテストも、95点以下ねぇし、また学年トップか?」
「取之州くん、すご〜い!!」
「ねぇねぇ!今度私に勉強教えてよ♪」
「ずるい!!私も!!」
「あっ!俺も俺も!!」
「おまえら落ち着けよ!羽蝶困ってんじゃねぇかよ!」
「いや、いいよ。大丈夫。俺でいいんなら今度のテストのときはみんなで勉強会でもしようか?みんなでやると勉強も楽しそうだし」
羽蝶は静かに、だがはっきりと、自分の考えをみんなに伝えた。
「おっ、いいねぇ♪羽蝶が教えてくれんなら今度は平均点ぐれぇ取れっかな?」
「羽蝶くん教え方うまいもんね!!」
「約束だかんな、羽蝶!!」
「あぁ。・・・悪い、今日は早く帰らないといけないんだ」
そう言うと、羽蝶はカバンを持ち、席を立った。
「んじゃあ今日は部活出られねぇんだな?」
「あぁ。部長には伝えてあるから。じゃあな」