小説1 (男主)
□鈴の瞳に
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「黒怜、あの店入ろうよ」
(あっあぁ……)
店に入るなり鈴はお客の注目の的になっていた。三人の大男を小柄な青年が一人、素手で負かしたからだ。鈴が椅子に座るなり少年が目を輝かせて駆け寄ったのだ。
「ん?何かな?」
(何だ、このガキは??)
「お兄ちゃん強いね!!ただ者じゃぁないよね!?」
好奇心いっぱいの顔をして聞いてくる少年に鈴は苦笑いしていた。
「俺は、ただの旅人だよ?」
(嘘つけ〜!!)
「そうなの??でも強いね!!」
料理を食べたいのに痺れを切らした黒怜は少年の顔、近くでバタバタと暴れだしたのだ。
「あ〜〜〜!手乗り龍だ!!」
「見るのは初めてかな?」
「うん!それも、こんな間近で見たことないよ!凄いなぁ〜」
少年は黒怜のことをむにむにと触っていた。黒怜はいかくしてるのに鳴き声はキュルキュルと可愛い声で鳴いてるしか聞こえない。
(貴様〜!!馴れ馴れしく触るな〜!!)
そんなやりとりをしていると、少年はお店の叔母さんに拳固をお見舞いされていた。
「イッテ〜〜!何すんだよ〜母ちゃん!!」
「ったく、お前は!お客様に注文待たせてどうすんだい?本当、内のガキがすみませんねぇ」
叔母さんはとても優しそうな人だった。
「あっ、いえいえ。俺達のことはお構いなく♪」
「あら、可愛らしいだけじゃなくて優しいのねぇ。あと強いし」
「可愛いって……あはは」
鈴は叔母さんに可愛いと言われ苦笑いして頭を掻いていた。俺、男なのに……
「コラ、ミンタ!ボサッとしてないでお客様に水持って来なさい!」
「あっうん!」
ミンタと言う少年らしい。ミンタが水を取りに行こうと席から離れようとした時、黒怜がミンタの服の裾を噛んで引っ張ったのだ。叔母さんと鈴はまだ話しをしていた。
「どうしたのかな?子龍君」
(小さいからってそんな名前ではない……まぁ、それは置いといて…)
黒怜はメニューのある食べ物を指さし小さい手で2とジェスチャーしたのだ。
「エビチリチャーハン、二人前だね!君、頭良いんだね♪」
(ふん!当然だ)
黒怜が威張ったように小さい炎をフッと吐いていた。ミンタはそれを見てニコッと笑うと厨房の方に駆けて行ったのだ。
「じゃあ、ムルクさんは長く此処に居るんですね?」
「まぁね♪鈴ちゃんは旅人かなんかかい?」
(いつの間にこの二人仲良くなったんだ?)
黒怜が注文している間に二人は打ち解けていたのだ。
「ただの旅商人とでも言っときますよ」
「そうかい。まっゆっくりしてきな!蝶光街には変な奴も居るけど、そんな奴らだけじゃないからね♪」
「はい!」
叔母さんはせっせと仕事に戻ったのだ。鈴はニコッリと見送っていた。
「あの叔母さんいい人みたいだな」
(ふん……俺は易々と人間なんか信用しないぞ。しょせん他人は他人。立場が危うくなれば裏切るもんだろ?)
「あはは。黒怜の言う通りかもね〜」
(だろ?)
「でもさ、例外ってあるもんだよ?」
蝶光街には怪しい輩の集う隠れ家があった。
「で?お前らそいつに負かせられてのこのこと帰ってきたのか?」
鈴と同い年くらいの青年は椅子にゆったりと座り三人組を睨みつけていた。
「短めの黒髪に真っ赤な瞳で………ふ〜ん」
特徴を聞いた青年は神妙な顔つきになったかと思うとニヤリと笑ったのだ。
「………調べる価値ありそうだな……」
「旦那……?」
「まさか料理だけじゃなくて、宿屋もやってるとは!」
鈴はムルクを凄いという眼差しを送っていた。
「凄かないよ〜。内の主人を早く無くして、このぐらい経営しないと食べてけないからねぇ」
「苦労してますねぇ……」
「食べ盛りな子を養うためだ、苦労なんて思ったことないよ」
ムルクはニカッと笑うと二階に鈴達を促した。鈴はムルクにお世話になりますとお辞儀をして部屋に入って行った。
「黒怜、今日の寝床が見つかって良かったね♪」
(まぁな。おい鈴、上界から下された仕事のことは忘れてないだろうな?)
「もちろん、覚えてるよ?邪獣(じゃじゅう)の使用、邪教者(じゃきょうしゃ)を捕まえるのが俺達の役目でしょ?」