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□tu sei cosi` speciale
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頬を撫でるくすぐったさに目覚め薄っすらと瞼を開けると
緩やかな風に香る甘い匂い。

体を横たわらせた状態で何とか半分ほど意識が戻り
ふと背後に人の気配を感じた。

マフィアのボスともあろう者が人の気配にも気づかぬ程熟睡してたなどと
10年経ってもいまだ頭のあがらない、いやきっと一生あがる事はないであろう
あの鬼教師が知ったなら------
それは嬉しそうに引鉄を引くその姿が容易に想像でき、苦笑った。

「10代目?」

お目覚めですか?

耳慣れた柔らかな声。10年前に比べ幾分か低くなった声は
彼が纏う香り同様、時に甘くこの身を包み込む。

「ん。隼人の香りがしたから」

愛しい彼のその端正な顔を拝ませて貰おうと体を反転させようとし

「あぁ!ま、待ってください!」

突然叫ばれ、思わず体が固まった。

「え?」

待てと言われて。って犬じゃないんだけど・・・;;;

仕方なく言われるままに体を動かさずに気配を伺うと
右腕の慌てる様子が背中から伝わってくる。

「?ねぇ?何してるの?」
「す、すみません!;;;もう少しだけお待ちください;;;」

その声に昔と変わらぬ彼のテンパリ具合が読め
必死の表情が浮かび思わず笑いが零れる。

「なにを笑ってらっしゃるんですか?」

少し眉間に皺の寄ったその表情もきっとよく知るあの顔で
「何でもないよ」と笑いを堪え返す声もつい震えてしまう。

それより

「ねぇ、まだ〜?は〜や〜と〜」

わざと甘えるように背後へと声を掛ける。

----- きっと彼の綺麗な顔は真っ赤なんだろうな〜

10年経っても変な所でピュアと言おうか
その初心で照れる所も可愛いんだけど。
などとは決して本人には言えない。
言ったら最後なぜか妙なスイッチが入るらしく
強気な彼へとチェンジすると
こちらが大変な目に合ってしまうのだから。

これまでに体験させられた数々の”大変なこと”が走馬灯の様に思い出され
小さくふるりと肩が震えた。

「お待たせしました10代目!」

嬉しそうな声と共に俺はやっと拘束から開放され
体を起こし向かい合う様に座る。
案の定、俺の右腕であり恋人である隼人の顔は
薄っすらと朱に染まっていて嬉しそうに笑っている。
その笑顔が何だか子供っぽくて可愛いな〜、などと思いつつ
俺はこれまでの疑問を思い出し問い掛けた。

「で、何してたの?」
「気がつきませんか?」
「?」

意味が分からず首を傾げると
いつもは胸元に落ちている蜂蜜色がない事に気づいた。

「え?」

背後に手を伸ばし首元を探れば、手に触れる纏められた髪の感触。

「編んでくれたの?」
「はい、一度やってみたかったもので、その・・・」

勝手にすみません!と頭を下げる彼の銀髪が風に揺れた。

「なんで謝るの?俺、嬉しいよ?」

ニッコリ微笑めば、上げた顔が朱に染まる。

「じゅ、じゅうだいめ〜v」
「うわぁ!」

勢いよく抱きつかれ思わず後ろへと倒れた。

俺の顔の横に両腕をつき体を起こした彼の顔を見上げれば
キラキラと綺麗な銀髪が輝く。数本の銀糸がサラサラと落ち

「10代目」

低く甘い声の囁き。
近づく端整な顔に瞳を閉じれば唇に触れる暖かな温もり。

角度をかえ何度も口付け甘く深く求め合う。

ゆっくりと唇が離れ見つめあい

「愛してます」
「うん。俺も」

彼の首に腕をまわす。指先に触れるサラサラとした銀糸。

「隼人も伸ばせばいいのに」
「俺も、ですか?」
「うん、だってこんなに綺麗な髪なんだもの。
 きっとスクアーロみたいに『10代目』」

あれ?・・・なんか怒って・・・る?;;;

眉間に皺を寄せ重なる碧はスッと細められ

----- ひさびさに怖いんですけどーーー!!!;;;

「あ、の、・・・」
「10代目、俺の前で他の男の名を出すとは、いい度胸ですね」
「え、あ、いや・・・;;;」

視線を逸らすのを許さないとばかりにグッと端整な顔が近づき

「ヒッ!」

耳をペロリと舐められ吐息を吐くように

「覚悟は、いいっスよね」

熱を含んだ低い声色。腰にくる甘い囁き。

顔を真っ赤に染め睨むもののいつもの如く
「煽るだけっすよ」とニヤリと質の悪い笑みを浮かべられ
何も返す事が出来ないまま、気づけば軽い体は抱き上げられていた。




貴方が俺の前で誰かの名を口にする。
そんな小さな事、と貴方は笑いますか?呆れますか?
でも俺はイヤなんです。貴方の声が俺の前で誰かの名を口にするのが。
貴方の心も体も、その綺麗な琥珀色の瞳も柔らかな髪も唇も声も
俺は全て、俺だけのものにしたいんです。

それほどまでに貴方は俺にとって


「tu sei cosi` speciale。tesoro」


こんなにも特別なんです



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