short
□la vie en rose
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海沿いに車を飛ばし数時間
漸く見えてきた小さな町。
あと少し、と思いフッと息を吐いた。
僅かにスピードを緩め
横に置いた煙草へと手を伸ばし
「ッ・・・」
その感触に小さく舌打ちし
パッケージを握り潰した。
仕方なく小さな町へと寄り
左右を眺め、ゆっくりと車を進める。
この辺りではあまり眼にする事は無いであろう車のせいか
それとも余所者への警戒か。
向こうから中は見えていないとは言え
あからさまな視線は
やはり心地良いものでは無い。
さっさと目当ての物を手に入れ
おさらばしようと視線を凝らす。
漸く小さな雑貨屋を見つけると
前に車を止めボルサリーノを目深にすると
素早く店内へと入った。
途端、店内に居た女の息を呑む気配や
不躾な眼にも気づかぬ振りで
カウンターに寄ると
愛煙する煙草の銘柄と「1カートン」と告げた。
告げて、ふとおかしくなった。
----- 俺はどれだけ吸うんだ?
たった3日、いや1日かも知れない。
もしかしたら・・・
いや、それはありねぇ、か。
ふわりと髪を揺らし
此方を振り向く姿が思い出されたが
カウンターからの声に打ち消された。
煙草を受け取り金を払うと
入った時と同じ様に
店内を一瞥すること無く店を出た。
カートンの包装を手早く開け、
1本を取り出し口に咥え火を点ける。
傷を確かめる様に脇腹を擦る。
何とか此処までもった事に安堵し
昔馴染みの医者からの餞別が役に立った事に苦笑う。
カチッといい音を鳴らす手に馴染んだ銀のライターと
買ったばかりのカートンを眺め
----- 置き土産には、いいかも知れねぇな
心中で呟き口角をあげた。
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