short
□夏祭り
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---ドーン、と轟音に顔をあげた。
闇空には大きな華が咲き、何処からか聞える歓声。
ふいにその中に懐かしい音を聞いた様な気がして、男は苦笑った。
「はは。幻聴、ってやつ?」
人は死を近くにすると走馬灯の如く記憶が巡るというが
「ヤバイ・・ってことかなぁ」
薄暗い路地裏。壁に背を預け気の抜けた声で呟くと
男---山本は血塗れた腹に手を当てた。
再び轟音が響き鮮やかな大輪の華を視界に映す。
また耳に響く囃しの音。巡るのはまだ少年だった頃の親友の姿と夏祭りの夜。
「かわい、かったよなぁ・・」
浴衣姿の君。綿菓子を頬張り嬉しそうに細めた琥珀色。
人混みではぐれないよう繋いだ手。
いい場所を見つけたからと、裾を乱し駆けた石段。
2人きりで見上げた空に広がる大輪の華。
『うわぁ』
そう声に出したきりずっと空を見上げてた君の横顔。
頬を朱に染めキラキラと輝く琥珀。ふわりと風に揺れた蜂蜜色からの甘やかな香り。
その全てが大切で愛しくて抱き締めたくて。
---けれど
「好き」とは言えなくて
大切過ぎて、愛しすぎて
10年経った今も・・・
「ククッ、らしく、ないよな」
言っときゃ良かった
「ツナ・・・」
そう、たった一言に全ての想いをこめて
「愛してる」
「武」
---ああ
大好きな愛しい声
これも
幻聴?
〜 fin 〜
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