―銀―Soul
□憧れの先
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俺はただ綺麗だと思った。
春の風が吹き抜ける窓に散りゆく桜とぼんやりとした明るい月。
そして極めつけ。
その窓べりに揺れる女物の着物、真っ黒なさらさらの髪、はだけた胸元。
それはもはや風景のようだった。
その男は煙管の真っ白な煙を一息吐き出すとゆっくりとこっちに顔を向けた。
「真選組、か…」
にやりと妖艶に笑う唇を見ていると惑わされてしまいそうで危ない。
「高杉…だな?」
ぐらぐらの気持ちを押し込めて自慢の愛刀を向けると、そいつは容赦なくそれを手で握り取りあげて外の闇へほおった。
真っ白な腕に滴る紅い血を同じくらい紅い舌が這うようになめとって、その仕草があまりにも様になっているため頬が染まる。
「まるでうさぎみてぇじゃねぇか」
“俺に食われるか?”
そう聞こえたのは耳の側、聞いた場所は腕の中。
満月の中、兎は踊る。
その腕の中、夜桜を肴に朝まで同じ夢に溺れようか。
(ああ、やっぱり綺麗。
はだけた着物も色めかしくて月さえ妖しく見えやがらァ。)