夢また夢
□背中
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無性に背中に抱きつきたくなるときがある。
その瞬間がまさに今訪れ、先を歩く高遠さんに飛びつこうとしてしまったがぐっと堪える。
こんな道端で抱きついたら目立つし恥ずかしい。
「紅朱?置いていきますよ」
「あ、すみません」
立ち止まってしまったわたしを見て高遠さんが声をかける。
慌てて駆け寄ると手を取られた。
「何をぼーっとしてたんです?」
心配そうに高遠さんがわたしを見る。
「いえ、大したことじゃないんです。ただちょっと私の中の変態が顔を覗かせただけで……」
「何ですかそれ」
目元を緩めて高遠さんが笑う。
絡められた指をきゅっと握り、わたしも笑みを返した。
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家につき、玄関を閉めたところで、わたしは立ち止まった。
そんなわたしに気づかない高遠さんがリビングのドアを開けようとしたとき、駆け出してその背中に抱きついた。
「どうしたんです?」
高遠さんは少し驚いてたみたいだけど、わたしは構わずお腹の方へと手を回してしっかりと抱きつく。
「……なんか抱きつきたいなぁって思って」
「後ろから?」
「後ろからです」
高遠さんの背中って、なんか抱きつきたくなる。
そう思いながら、頬をあたたかいそこに寄せた。
「そうですか。
ですが、あとにしてもらえますか?」
高遠さんはわたしの腕を離すとそのまま部屋へと消えてしまった。
「……?」
なんとなく、なんとなくだけど、高遠さんの機嫌悪くなかった?
いやでも、家入る前までは普通だったんだから……え、もしかして後ろから抱きついたのがいけなかったということ?
それとも抱きつかれることそのものが嫌だということなんだろうか。地獄の傀儡師だし。
なんで?
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