夢また夢

□背中
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お風呂に入ったりして寝る前の僅かな時間。

少しだけ距離を開けて座ると、高遠さんが不思議そうにわたしを見た。

「遠くないですか?」

そんなことはないと首を振るが高遠さんは不満げだ。

「もう抱き付かないんですか?」

「え、抱き付いてもいいんですか」

「身の安全は保障しませんが」

「……え?」

言葉の意味を悟って思わず距離を取る。

ソファから降りて床に正座してそっぽを向く。

……素っ気なかったのはそういうことか。

納得はしたけれど、抱き付いたら身の安全を保障しないと言われたら抱き付けるわけない。

高遠さんはマジだ。

「何故そこまで遠くに行くんです?」

「え、だって……」

「……嫌ですか?」

ちょっとだけ悲しそうな目をして見てくる。

それはダメでしょ…。

しどろもどろになりながら返事に困っているとふと目元が緩んだ。

その目にはとろりとした甘さと熱が孕んでいて、逃げられないなと悟る。

「おいで」

「……ずるい」

酷く優しい響きを落とし手を伸ばされた。

おずおずと近づくと、その腕に抱きしめられる。

「可愛い。
顔、真っ赤ですよ」

「高遠さんのせいじゃないですか」

簡単に可愛いとか言わないで欲しい。

高遠さんの可愛いとか好きとかの言葉にわたしは未だに慣れなくて、言われる度に酷く困惑している。

「ほら、ちゃんとこっち見て」

恥ずかしさに顔を逸らすと頬に手を当てられ強制的に高遠さんの方を向かされる。

視線だけは逸らそうとするが、じっとこっちを見られているのが分かって居たたまれない。

「紅朱……」

「……高遠さ……」

甘い声に視線を向けるとふと高遠さんが微笑んで軽く唇が重ねられた。

何度か啄むように口づけ、ようやく離れた高遠さんはわたしの背中をするりと撫でた。

「んっ」

ソファに座る高遠さんの膝に跨るように座り込む。

するとぐっと腰を引き寄せられる。

「腕、回しても良いんですよ?」

「うぅ……」

絆されて高遠さんの首へと両手を回す。

わたしの方が少し視線が高くなり高遠さんを見下ろすようになる。

「紅朱、キスしてください」

「ぅえっ!?」

「さぁ、早く」

更に腰が引き寄せられ、後頭部にも手が回る。

息が触れるほどに近づき、観念しておでこに唇を落とす。

「……」

「何ですか?」

真っ赤になりながら高遠さんを見下ろすと、高遠さんは不満そうな顔をする。

「そこじゃないんですが」

「……いっぱいいっぱいです」

「ふふ……知ってます」

後頭部に回った手に力が入り再び唇が重ねられる。

「ふ……ぁ」

長く重ねられたそれに酸素を求めて口を開くと、瞬間舌が中に入り込んで来る。

「んんっ……は、」

「……ん、」

苦しくなり高遠さんの肩に手を置き、弱々しく押すとようやく離れる。

滲んだ涙でぼやける視界のまま倒れ込むように高遠さんへと抱き付く。

「疲れるのはまだ早い」

「ん……ちょっと、休憩させ……あっ」

視界が反転したと思ったらソファに押し倒されていた。

唇が首筋を這い、ふわりと触れた髪を緩く撫でた。



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