図書

□竹谷の頭髪でもりあがってみた
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「どうだかねー…。大方、『兵助くんの髪は綺麗だねえ〜。網にして豆腐をこしたら、絹ごしよりなめらかになるねえ〜』とか言われたんじゃないの?」
 得意の早変わりで斉藤タカ丸になった鉢屋が、声も仕草もそのままに、クネクネと身を捻りながらからかう。
「馬ッ鹿。いくらなんでもそんな…。なあ、兵助?」
 いつもながら変装のクオリティの高さに感心しつつ、竹谷はからからと笑いつつ隣を向く。
 「当り前だろ。いくら俺が豆腐好きだからって」。その場にいた全員がそんな台詞を期待したにもかかわらず、久々知の頬にぽぽぽっとあかりが灯った。
「マジで……?」
「………ナニソレ? ククチセンパイったらチョーキモいんですケド?」
「ちょ、三郎……!」
 久々知の委員会の後輩・池田三郎次の顔と声だけを借りた鉢屋が、吐き捨てるように呟くのを不破が宥める。竹谷は苦笑しながら昼食の箸を進めるのに徹することにした。
「俺の髪は関係ない! 今は八左の話!」
 先の名残か、赤い頬を軽く膨らませて睨んでくる久々知に一瞥投げて、鉢屋は再び不破の姿に戻った。その間に空気を変える意味もこめて不破が、
「あ、で、竹谷の髪が何だって?」
 身を乗り出して問うと、
「タカ丸さんがさ、八左の髪は縺れ放題で気になるんだってさ。『いっそボウズに刈ってリセットすればいいのに』って呟いてたぞ。その時のタカ丸さんったら、もう……」
 その様子が思い出されたのだろう。久々知の語尾は半分笑いが混じっていた。
「ちょ、冗談じゃねーぞ!!」
 慌てて両手で頭を抱えた竹谷だが、勢い余って箸を髷の中に突っ込んでしまい、その場にいた全員に吹き出されることになったのだった。



「…―て、ことがあったわけだ」
 放課後の校舎裏。菜箸に似た長い箸を地面の上に滑らせながら、生物委員長代理は話をそう締括った。
「……それは昼休みに三太夫を逃がして、今もまた青木一家の瓶を落としてしまった僕に対する嫌味か何かでしょうか竹谷八左ヱ門先輩?」
 同様の長い箸を黙々と地面と瓶との間を往復させていた伊賀崎孫兵が、視線は地表に向けたまま口を開く。
「や、別にそんなつもりじゃあ…!」
 狼狽える男に、今度こそ顔を上げた伊賀崎が「わかってます」。憎まれ口を叩きながらも、申し訳なさはあるのだろう。眉の縁がやや下がり気味だ。
「あ、先輩。じっと」
「ん? おーおーおー」
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