図書

□六いと六はの枕投げ
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「やったー! 僕の勝ちー!!」
 善法寺伊作が両手を挙げて喜ぶ向こうで、食満留三郎は天井と睨めっこをする。
「ふふん。見たか留三郎! 僕だってやる時はやるよ!!」
 得意気に胸を反らせる彼に視線を合わせ、顎を擦りながら起き上がれば、がっちりと固い握手を交す潮江文次郎までもこちらを見下ろしているのが気に喰わず、脇に落ちていた枕を投げつけた。とは云っても軽く放った程度、大した威力はない。
「往生際が悪いぞ、ヘタレ用具委員長が!」
「…るっせぇ!」
 伊作に言われるならまだしも、文次郎に言われるのはどうも腹立たしく、留三郎は大きく息を吐いた。二人も忙しなく肩で息をしながらその場で動かない。というより動けない。立つか座るかの違いはあれど、全員呼吸を整えるべく、押し黙った。ことに戸口の傍らで仰向けに倒れたままの立花仙蔵など、ひたすら胸を上下させている。
 熱気の籠もる部屋に四人分の息遣い。室温も体温も、先程迄の白熱バトルで二割増な気分だ。
「あー……くそ」
 顎がまだ痛い。



 昼食時、七松小平太が言いだした明日の昼飯賭けての枕投げ。いろはが互いに別れての対抗戦で仙蔵と同じチームになった時、留三郎は正直「勝った!」と思った。
 普段から宝緑火矢を得意とするだけあって仙蔵のコントロールは抜群だし、身が軽く六人の中では的の小さい彼に枕を当てるのは難しい。と、なればもうこれは俺達の勝ちだと内心ほくそ笑んだわけである。
 しかし誤算があった。
 素早い動きで敵を撹乱し遠距離から宝緑火矢の雨霰で致命傷を与えるのを常とするのが仙蔵だが、今回はあくまで「枕投げ」。手玉は彼の懐から無尽蔵に出現する宝緑火矢ではなく、消滅こそしないものの双方併せて六つしかない枕なのだ。手持ちの枕が無くなれば相手のを受け止め自分のものにするしかない。されど、無闇にくらうとダメージに変換されるそれは、威力のある文次郎の攻撃ならば尚更で、また伊作は伊作で威力こそ低いものの、確実に急所に当ててくるため油断ならない。
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