闇を照らす光

□17
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約束を守れなくてごめんなさい





【17】







「シャンクスさん…」

甲板の船縁に背を預け、満月の浮かぶ夜空を見上げ、シャンクスさんのことを想う

シャンクスさんが船を去ってから丸1日が経っていた

あれから、ベンさんが船に戻ってきたと思ったらヤソップさん達にシャンクスさんの話を聞いて、何を思ったのかベンさん達も同じように船を降りて行った


「いったい、何をしようとしているの、シャンクスさん?」

満月を見据えながら「信じて待て」といったシャンクスさんを思い返しながら、何をしようとしているのかわからず不安と焦りで頭の中がいっぱいになる

一刻も早くハルや凛や皆の無事を確認したいというのに、シャンクスさんは船を降りるなというし、何か考えがあるなら教えてほしかった

「ユン、こんなとこにいたのか」

「夜は冷えるぞ、中に入れよ」

そんな中現れたのはクルーさん二人で、私はその姿を目に捉え、その優しい言葉に笑みを返すがその場を動くことはしない

そんな私を見てクルーさん達は顔を見合わせ困ったように笑い、手に持っていた毛布を差し出してきた

「これは…」

「風邪ひいてお頭にどやされるのは俺たちなんだぜ?」

「あ、えっと…すみません」

「ま、気にすんな!お頭のわがままと気まぐれと餓鬼っぽさには慣れてっから!」

「は、はぁ…」

「まぁ、慣れたとはいっても、あん時のお頭は手に負えなかったよな」

「あぁ、あの時な…全く、我らがお頭ながら恐ろしいぜ」

「あの…あの時って?」

手渡された毛布をかぶりながら、何やら思い出したようにげんなりして話し出すクルーさんの話に問いかければ、二人は再び顔を合わせると口を開く

「ユンが火拳や不死鳥と繋がりがあるって知った時だよ」

「火拳?不死鳥??」

「私そんなたいそうな名前の人は知りませんけど?」と答えれば、二人は目を丸め、そして悪い悪いと苦笑しながら教えてくれた

火拳はエースさんのこと、不死鳥はマルコさんのことだと

何でもあの噂に聞く悪魔の実というものを食べた能力者で、エースさんは炎になれる能力、マルコさんは不死鳥の能力を持っているらしく、通り名としてそう呼ばれているらしい

初めて知ったことに驚きながらも、そんな通り名があるということはやはり彼らもすごい海賊なんだと改めて思い知らされる

「んで、最初に繋がりがあるって知った時もすごかったけど、ありゃいつだったか…ある日帰ってきたお頭の覇気のすげぇこと」

「あぁ、あん時は俺たちも気絶したもんな」

「…そうだな、確かユンが風邪ひく前だったか」

「風邪ひく前というと…そういえばエースさん達を接待している時に一度シャンクスさんがいらっしゃいましたけど…」

「あー、じゃあその時だな。ユン、お前その時お頭の気に障ること火拳か不死鳥にされたんじゃねぇのか?」

「気に障ること…」

ん〜、とあの時のことを順々に思い出しながら、私はふとある光景を思い出し顔が熱くなった


「あったんだな」

「あったんだろ?」

「えっと…あの、はぁ…たぶん」

そんな私を見て問い詰めてくる二人に、私は言っていいものか視線を泳がせながら口を濁していたが、あまりにも詰め寄ってくる二人に思わず言ってしまった


「エースさんに告白されて…その、キスも…されまし…」


「「それだー!!」」

すっごく勇気を出して呟いたのに、二人はそれを聞き終わる前にそう叫び納得いったように頷いていた

「これで納得いった」

「あぁ、そりゃお頭耐えられるわきゃねぇ。好きな女が目の前でほかの野郎にキスされちゃ不機嫌にもなるわな」

「で、でも、あの時は特に変わった様子はなかったですが…」

「火拳や不死鳥の前で取り乱したくなかったんだろう」

「変なところで見栄っ張りだからな」

「普段はあんまりそういうところねぇんだけどな」

「は、はぁ…」

ゲラゲラと笑っている二人を見て、最初は唖然としていたけど、よく考えたらそれは焼きもち?を妬かれていたわけで、ちょっとだけ嬉しい気持ちにもなった

「でもま、冗談抜きであんな状態にはもう絶対にしないでくれよ」

「え、そんなに酷かったんですか?」

「酷いなんてもんじゃねぇ!その日はもう地獄のような船上だったんだからな!」

「な、なんかすみません…だけど、私は一体どうすればいいんでしょうか?」

血相変えて真剣に懇願してくる二人に、申し訳ないような気持ちになりながらも、私はシャンクスさんがどうしたらそんな状態になるのか、そしてその状況になることを防げるのか、その術を知らない

私の質問に二人はキョトンとした後、笑みを漏らして口を開く


「何、簡単なことさ」

「簡単なこと?」

「あぁ、それはな…」

そう言ってニコニコ笑いながら楽しそうにつぶやかれたその言葉に、私は目を見開いた

「そ、そんなことでいいんですか?」

「あぁ、そんなことでいいんだ」

「単純だから、お頭は。おまけに餓鬼だし」

「あれ、それどこかでも聞いたセリフ…」

「副船長がよく言ってるよな」

「そしてそんなお頭が俺は好きだけどな!」

「あぁ!そして俺たちも餓鬼だけどな!」

「いえてらぁ」

そう言って笑う二人は決してシャンクスさんを貶しているとかではなく、信頼しているからこそなのか、本当に嬉しそうに楽しそうに言うのでなんだかこちらまで嬉しくなる


温かいな

今までいた世界とは違う暖かくて優しい世界に、私はなんだか戸惑ってしまった

本当に私なんかがここにいていいのか、汚い世界で生きていたこの私が



「サクラねぇ…」

「!」

そんな歪んだ気持ちに俯いていれば、背後から聞こえる懐かしくも感じるその声に、私はすぐに振り返り船から顔を覗かせる


「ハル!!」

船から陸を見下ろせば、そこにはボロボロの姿でこちらを見上げているハルの姿があった

私はすぐにクルーの二人と船から降りるとハルの傍にかけよりその体を支えた

「サクラねぇ…良かった、無事で」

「バカ!私のことなんてどうでもいいでしょ!ハル、どうしたの、こんなに…」

「…っ」

「とにかく船医に見せよう」

ハルの着物は乱れ、頬には殴られたようなあざがあり、素足でここまで走ってきたのか足は傷だらけだった

私はその姿を見てすぐに思い当った

あいつだ、あいつがハルをこんな目に

そう思ったら私は悔しくてギュッとハルを抱きしめた


「ごめん、ごめんね…」

そんな言葉しか出てこなくて、後から後から溢れ出る罪悪感に私はハルを抱きしめることしかできなかった


ギュっ


「…ハル?」

暫くそうしていると、ハルは私から体を離し、そして私から少し距離をとると戸惑ったように視線をさまよわせ、しかしすぐに視線をまっすぐとこちらに向け口を開いた

「サクラねぇ、お願い…お店に戻ってきて」

「え…」

悲痛な表情で紡がれた言葉に、私は目を見開いた

「凛さんや…お店の皆が…あいつが、店主が、サクラねぇを連れて来なかったら皆を殺すって」

「…!」

「ごめんね、ごめんねサクラねぇ…本当は、サクラねぇのこと自由にしてあげたかった…でも、でも、あたしじゃ皆を守れない…」

「ごめんね」と呟いたのを最後に大粒の涙を流して泣きじゃくるハルに私の胸は締め付けられ、そしてハルを力強く抱きしめた

普段から泣き虫で頼りないハルだけど、その表情や涙からは皆を守りたいと私を自由にしたいと想ってくれていることが痛いぐらい伝わってきて

腕の中で泣きじゃくるハルに、一人逃げた自分が本当に腹立たしく思えた



そして『どんな人間が来ても、絶対に船を降りるな』とシャンクスさんが言っていた意味がやっとわかった

こうなることを予想して、そしてこの現状に私が船を飛び出すと確信していたからだ


『信じて待っててくれ』


そしてすぐにそう言ったシャンクスさんの言葉が頭に浮かんで、だけど、ごめんなさいシャンクスさん、私はやっぱりこのままここを去るわけにはいかないみたいです


「ハルを、頼みます」

「え、あ、おい…ユン!!」

「サクラねぇ!」

私はクルーにハルを頼むと、思いっきり地面をけった


目的地は決まっている

やっと抜け出せたと、解放されたと思ってた

シャンクスさんの手で救い出された暗闇に、私はまた向かっている


怖い、だけど行かなきゃ

凛や皆を救い出せなきゃ本当に暗闇から抜け出したことにはならないから


「シャンクスさん、約束破ってごめんなさい」



シャンクスさんの言葉を思い出したら胸は酷く痛んだけど、私はもう自分を抑えることができなかった


end
 

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