闇を照らす光

□19
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たくさんの人に支えられ

たくさんの想いに触れられて




【19】






「あの…この島をナワバリにしたというのは本当なんですか?」

「あぁ」

あれから赤髪海賊団のクルーさん達が続々とやってきて、船医さんが凛やその他の遊女達を診てくれることになった

外傷は酷いが命に別状はないとのことでホッと胸をなでおろしながら、私はやっと落ち着き始めた頭で今まで疑問に思っていたことをシャンクスさんに尋ねればあっさりと頷いた

「一体どういう経緯でそんなことになったんですか?」

「それが一番手っ取り早いと思ったからだ」

ニッコリときれいな笑みを浮かべて答えるシャンクスさんに私はますます首をかしげる

手っ取り早いとは何と比べてなのか、そんなことを思いながらシャンクスさんを見据えていれば、シャンクスさんは私の頭を撫でて口を開く


「言っただろ?ユンの望みは俺の望みだと」


優しく微笑んでそう呟くシャンクスさんに、私の胸は高鳴り始め、同時に顔が熱くなるが、そのことと今回の一件の繋がりがどうしてもわからなくて思わず眉間に皺が寄る


「つまりは、裏で海賊に牛耳られているこの遊郭街のたった一つの店からユンを含めた全員を解放するよりも、この島を占拠すれば自動的に他の海賊たちは手出しできなくなり、更にはユン達全員どころかこの遊郭街に住む全員が自由になることができ効率がいい」

「…」

「まぁ、自由にした後の面倒まではみられねぇが、俺たちは縛り付けるつもりはねぇしな」

シャンクスさんの代弁とでも言うように、ベンさんとヤソップさんがそう言って笑う

やっともらえた答えに私は視線を二人からシャンクスさんに移すと、シャンクスさんは相変わらず私の頭を撫でながら嬉しそうに笑っていて、それを見たらなんだか胸の奥がキュッと苦しくなった


「ありがとう、ございます…」

「礼にはおよばんさ」

「好きな女の願いを叶えるのは男としてあたりまえだからな」と恥ずかしげもなく、むしろ誇らしげにそう言って私の額にキスを落とすシャンクスさん

それがくすぐったくって嬉しくて、本当はこんな言葉一つで足りないぐらい感謝の気持ちでいっぱいなのに、それ以上言葉が続かなかった


「それはいいがお頭…よく白ひげが納得したな」

「ん?」

「白ひげさん?」

そんな私たちにルウさんは相変わらず肉を頬張りながらそんな問いかけをしてきたので、私は視線を一度そちらに向けてから、シャンクスさんの顔をもう一度見上げて首をかしげた

するとシャンクスさんは再び私の頭を撫でると、ルウさんの方へ視線を向け口を開いた


「時間はかかったが説得はできたよ」

「へぇ、戦闘になるかと思って期待してたんだけどなぁ」

「え?!」

ルウさんの言葉に思わず声を上げれば、ヤソップさんが呆れた様にため息をつく

「ったく、お頭が白ひげんとこに直談判しに行くって聞いた時にゃどうなることかと思ったが、うまくことが運んで良かったな」

「確かに」

「えっと、あの…」

ポンポンと頭上で会話がなされるのはいいが、その内容の意味が全く理解できない私は、おろおろと視線を泳がせていると、それに気づいたヤソップさんが私を見据えて笑った

「あぁ、ユンには言ってなかったが、この島を今すぐナワバリにするから白ひげんとこに交渉するってお頭は船を降りてったんだぜ?」

「え、えぇ!?」

「ここに来るのが遅くなった原因の9割だと踏んでるが?」

「まぁな。中々承諾してくれねぇから困ったもんだったよ」

口では困ったと言いながらも、だっはっはと愉快そうに笑うシャンクスさんの声を聞きながら、私の頭は今の話を整理しようと必死だ


そういえば初めてエースさん達に会った日に、「戦闘になることもある」と言っていたシャンクスさん

海賊の世界がどういうものなのか深くは知らないが、この島をナワバリにしようとするシャンクスさん達赤髪海賊団と、たまたま停泊しているエースさん達白ひげ海賊団が、場合によっては戦闘になることも頷けるし、シャンクスさん達のナワバリになってしまえば白ひげ海賊団の人たちは迂闊にこの島に近寄れなくなるのだろう

一歩間違えばあの四皇同士で争うことになったかもしれないと思うと驚いたが、それは全て私や凛達を助けるためにしてくれていたのだから、嬉しいけどなんだか申し訳ないような気がして


「だが、戦闘にはならないことは確信していたさ」

「何を根拠に?」

感謝してもしきれなくて、それをどう表現すればいいか分からずにただシャンクスさんの話を聞いていれば、不意にそう呟くシャンクスさんに私を含めベンさん達も首をかしげる

するとシャンクスさんはベンさん達に向けていた視線を私の方へ向けると、とても優しい笑顔をして呟いた


「ユンがそれを望まないからだ」

「え?」

言ってる意味が分からなくて、だけど優しく微笑むシャンクスさんの表情から目が離せなくて、私はただただ首をかしげるしかなかった

だけど考えたっていつまでたっても答えは出て来なくて、シャンクスさんも一向に教えてくれそうにはないので私は考えることを止めた


そして代わりに浮かんできたのはエースさん達のことで


「シャンクスさん、あの、エースさん達はもう出航してしまいましたか?」

「…いや、日の出と共に出航すると言っていた」

シャンクスさんの返答に私は驚いた

ここで宣言したことによってこの島は今から赤髪海賊団のナワバリとなり、それによって白ひげ海賊団は明日の朝島を出るという

それは当たり前のことで、白ひげさんも了承済みなのだから仕方がないのだが、私はまだエースさんにきちんと伝えなければいけないことがある

「シャンクスさん、私…」

今から海岸へ向かえば日の出までに間に合うと思い、私はシャンクスさんへこの想いを伝えようと顔を上げた

だけど、私の言葉は唇に触れた暖かい温もりによって塞がれてしまった

サラリと目の前を流れる綺麗な赤い髪と周りから聞こえる冷やかしの声、そのすべてに驚き一気に顔に熱が集まる


「よしっ、行くか」

「…っ、シャ、シャンクスさん!急に何を…」


軽く触れただけのキスだったけど私にとっては不意打ちと公衆の面前だということに顔がこれでもかと言うぐらい熱くなっているのに、何でもなかったように私の手を引いて歩き出すシャンクスさん

「何をって…予行練習?」

「よ、予行練習?」

「一体何の…」と言う私の言葉は聞く耳持たずといった感じで、シャンクスさんは私の手を引いてズンズンと歩き出した

分けが分からず後ろを振り返ってはみたものの、そこには呆れた様に笑うベンさんと、冷やかしながらニヤニヤしているクルーさん達がいるだけだった

「シャンクスさん、一体どこに…」

「エースに会いに行くんだろ?」

無言で歩いていくシャンクスさんに問いかければ、すぐに返ってきた返答にドキッとする

ギュッと繋がれた手は痛いぐらい握り締められていて、私はその手を見ながら小さく「はい」とだけ言う

「俺も一緒に行く」

「え?」

「どうもエースの元へ一人で行かせるのは不安だ」

「なぜですか?」

「…いいか、世の中には勢いってもんがある」

「はぁ…勢い、ですか?」

「勢いほど怖いものはない。だから一緒に行く」

「えっとそれは…私がエースさんの勢いに飲まれてエースさんの元へ行ってしまうかもしれない、ってことですか?」

「…」

シャンクスさんは返事はしなかったものの、代わりに無意識であろうが私の手を握る手に少しだけ力がこもったので肯定と受け取った

勢い、確かにエースさんには人を惹きつける力というか勢いがあるしそこに救われたのも事実


だけど、何というか…ちょっとだけ面白くないと思ってしまって、同時に足が止まった


「ユン?」


突然足を止めた私に倣って足を止めたシャンクスさんは、驚きながらも私の顔を覗き込んできたので、私は思いっきり顔を上げて口を開いた


「心外です」

「ん?」

突然顔を上げた私に驚きながらも首をかしげるシャンクスさんに、私の口は止まらなくなる


「そんな、勢いで変わるほど私の気持ちは弱くないです。シャンクスさんは知らないんです…私がどれだけ、どれだけ…」

「どれだけ?」


かなり早口で言ったけど、そこまで言って少し冷静になってシャンクスさんの顔を見据えれば、そこには何だか嬉しそうな顔をするシャンクスさんがいて

あ、もしかして私ははめられたのかも、と頭の中では思っていも、もう言い出した気持ちは止められなくて、私は一度小さく息を吸ってシャンクスさんを再び見据えた


「どれだけシャンクスさんを好きなのか!」


「勢い何かに飲まれる想いじゃないです」と叫ぶように言い切れば、それはそれは嬉しそうに歪むシャンクスさんの顔


「あぁ、知ってるよ」


そういって額にキスを落とされ満足そうに笑うシャンクスさんに、私は一生敵わないんだろうと思いながら、歩き出したその大きな背中を追って足を進めた




「それじゃあ、行ってきますね」

「あぁ」

海岸に辿り着き、目の前にはあの日治療のため一度だけ乗り込んだ大きな船、あの時は気づかなかったけど、船はクジラの形をした船首で中々可愛らしい

シャンクスさんは船から少し離れた場所で待つと言い、繋がれていた手を放して私は一人船の方へと足を向けた


夜中だというのに船の上にはまだ明かりが灯っており、出航の準備でもしているのだろうかと考えながら歩く


「…さすがに急にお邪魔したら悪いよね」

船の目前まで来たはいいが、船から垂らされている梯子を黙って登っていいものかと思案する


それにかなりの高さもあるし、手を放してまっさかさま、何て事態も想像するとどうも怖くて登る気が起きない(前はエースさんが運んでくれたし)

「誰だ?」

「!」

どうしたものかと思案していると、不意に聞こえた頭上からの声に思わず肩が竦み、そして恐る恐る見上げた
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