闇を照らす光

□13
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希望は


絶望へ




【13】






「サクラねぇ」

身なりを整え、部屋を出てすぐ、笑顔で駆け寄ってくるのはハルだった

私はそちらに顔を向けると、ニコッと笑みを向けた


「ハル、おはよう」

「おはよう!良かった、もう治ったんだね」

「えぇ、お蔭様で。心配かけてごめんね」

小走りで近寄ってくるハルを可愛いな、と思いながらその頭を撫でると、ハルは「本当に良かった」とはにかんで笑った


風邪を引いてから3日、私はすっかり体調も良くなり、今日から仕事に復帰することになった

毎日のようにお見舞いに来てくれたハルは、それはそれは毎日心配そうに表情をゆがめていたので、私は早く治さなきゃと思う一方で、不謹慎ながらもこんなに心配されるということを嬉しく思っていた


「それにしても、ハル、約束破ったわね?」

「え?な、何が?!」

しかし、私は風邪が治ったらハルに一つ言わなければいけないことがあった

私の言葉に途端にギョッとするハルに、私はニヤッと笑みを貼り付け顔を近づける


「シャンクスさんに話したわね?」

「え、えっと・・・」

途端に視線を泳がせるハルに、私は「やっぱり」と小さくため息をついた

「言わないでって念を押したのに・・・」

「だ、だってシャンクスさんがしつこく聞いてくるから・・・」

「シャンクスさんが?」

「あたしだって努力したんだよ!」と力説するハルに、私は思わぬ展開に目を見開いた

てっきりハルが口を滑らせたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい

「それに、ハルさんはシャンクスさんには伝えていないので約束を破ったことにはなりませんよ」

「凛?!」

「凛さーん!」

ん〜っと頭を捻っていると、いつの間に現れたのかハルの背後に立って笑う凛に、私はますます頭を捻らせた

「どういうこと?」

「シャンクスさんは部屋に来てすぐ、ハルさんの様子がおかしいことに気づいて問いただしたんですが、ハルさんは言いたいのをグッと堪えていましたよ」

「え、じゃあ誰がシャンクスさんに私の体調不良を伝えたの?」

ま、まさか凛が?そう思って驚きの表情を凛に向ければ首を振って続きを呟いた

「ハルさんはシャンクスさんにではなく、ヤソップさんにサクラさまの体調不良をお伝えしていました」

「ヤソップさんに?」

「だって、サクラねぇは『シャンクスさんには言わないで』って言ってたもん」

「そ、それはそうだけど・・・」

頬を膨らませるハルに至極可笑しそうにクスクス笑う凛

ヤソップさんに伝えれば、案の定その話はすぐにシャンクスさんの耳に伝わったと言うわけだった

「それから部屋に連れて行ってほしいってうから通したんだけど・・・」

「よく通せたね」

「サクラさまの部屋は離れにありますから、客間を通りすぎれば簡単にお通しすることができましたよ」

「あぁ、そう・・・」

だから何の騒ぎもなくシャンクスさんはあの部屋にいたんだ、と何となく納得しながら私は小さくため息をついた

「お話は、できましたか?」

「え?」

そんな私を見て、凛は少し気を遣うように声をかけてきたので、私は体を揺らした

途端に脳裏を過ぎるあの日の出来事


見っとも無く泣きじゃくり

シャンクスさんにしがみ付き

一緒にいたいと喚いた


「あの日の自分を消したい・・・」

「え?」

思い出せば瞬時に顔に熱が集まるのが分かり、頭を抱えて呟けば凛は首をかしげた




あの日、あの後、シャンクスさんはゆっくりと私から体を離すとあたしの目を見て笑った

「酷い顔だ」

「み、見ないでください!」

泣き腫らした目は心底醜かっただろう、私はそれを見られたくなくて顔を背けたが、それはすぐにシャンクスさんの手によってあっけなく戻されてしまった

再び交わる視線

「綺麗だ」

「・・・っ、い、今酷い顔って・・・」

目を細めて微笑み、親指で私の頬を撫でながら呟くシャンクスさんに、私は恥ずかしくて視線を逸らして呟く

すると、シャンクスさんがその距離を埋め私の耳に口を寄せた


「綺麗だ」

「っ」


そして再度低い声で呟き、瞬間、ゾクリと背中に何かが駆け巡った

「じゃあ、また」

その感覚に戸惑っていれば、シャンクスさんの体が離れ私の頭に手が置かれ、そう言って立ち上がるシャンクスさんの背を見て、無性に寂しさを感じた

「もう、帰るんですか?」

「ん・・・あぁ、色々考えることもできたしな」

「・・・そう、ですか」

入り口付近に置いてあった草履を手に取り、私の横を通り過ぎ窓枠に足をかけたシャンクスさんの言葉にさらに寂しさを感じ、俯いてしまった


もっともっと一緒にいたい

そんな気持ちが溢れてきた


グイッ


「!!?」

そしたら不意に腕を引かれ、気づいたら目の前にはシャンクスさんの顔

あたしは目を大きく見開いた


「そんな可愛い顔をされると、帰りずらいだろ?」

「え・・・んっ?!」

そして、その言葉と同時に唇に触れる温もり


「じゃあ、またな」

そして離れると同時にシャンクスさんは窓枠を蹴って部屋から飛び出していった

「って、ここ2階?!」

突然の出来事に放心状態だった私だが、飛び降りたシャンクスさんに慌てて視線を向ける

しかし、その姿を追って視線を向けた先には、何でもなかったようにスタスタと歩く彼の姿が見えた

「すごい身体能力・・・」

さすがは海賊の船長だ、とそんなことを思いながらも暗闇に消えていく彼を最後まで見つめていた





「・・・ねぇ、サクラねぇってば!」

「!」

あの夜のことを思い出していれば、いつの間にかボーっとしていたようで、私はハルの呼びかけにやっと我に帰った

「なぁに唇押さえてニヤニヤしてるの〜?」

「な、に、ニヤニヤなんてしてない!」

「え〜嘘だぁ〜!ね、凛さんも見たよね!?」

「はい」

「り、凛まで!?」

ニコッと笑みを浮かべて頷く凛に私は驚きながらも、しつこく「何かあったんでしょ〜」と聞いてくるハルをどうにかして交わそうかと必死に考える


「おい、お前らいつまでそうしてるつもりだ!」

しかし、突然響き渡った店主の声に、私達はピタリと口を閉じそちらへ視線を移した

「す、すみません・・・」

「・・・すぐに行きます」

「・・・」

目を吊り上げ怒りを露にする店主に、ハルはビクビクしながら頭を下げ、凛は端的にそれだけ呟いて店主の脇を通り抜け持ち場へと向かった

私はそれを見て小さくため息をつくと、何を言うでもなく同じようにその横を通り過ぎようとした


「休んでた分、きっちり働いてもらうからなぁ」

「・・・っ」

卑下な笑いと共に呟かれた店主の言葉に、今まで暖かな気持ちが一気に醒めていくようだった

私は店主を横目で軽く睨むと「分かってますよ」と言ってその横を足早に通り過ぎた




分かってる

あの夜のことは幻で

叶うはずのない現実を吐露しただけだと


シャンクスさんは優しいから、私に夢を見させてくれたんだってことも

そう考えると、無意識に着物を握り締め、私は考えるのを止めた

「で、今日の客は?」

受付についてすぐ、私は番頭に問いかければ、番頭は予約表を見ることなく口を開いた

「あぁ、3日前から毎日お前に会いに来てる客がいるからそこに入れ」

「3日前から?」

誰だろう、と頭に疑問符を浮かべながら「粗相すんなよ」と、どこかでも聞いたことある台詞を背に受け、私は指定された個室へと向かった
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