闇を照らす光

□15
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お願い

誰か助けて









【15】









蘇るおぞましい記憶に、体は竦み、否定の言葉も出てこなかった

ただ、懸命に首を振ることしか出来ない


「ジタバタするんじゃねぇよ!」


バシッ


「…っ」

しかし、そんな唯一の抵抗もジンの平手打ちによって呆気なく終わる


傷む頬に口の中に広がる鉄の味


「大人しくしてりゃ、優しくしてやる」

「…」

そう言って私を見下し卑劣な笑みを浮かべるジンを横目に、私はもう抵抗する気力もなくなっていた


これは罰なのだろうか


穢れた私がこの暗い世界から飛び出したいと願ったこと

明るい世界を夢見たこと

人を好きになったこと

その人と少しでも一緒にいたいと願った罰なんだろうか


ただ、この暗い世界から飛び出して自由に生きて生きたいだけなのに



私はまたこうして、この男に犯されようとしている





「ははっ、抵抗する気も失せたか」

ジンの言葉に溢れ出る涙が頬を伝い、畳に染みを作り全身の力が抜け、抵抗することも、この運命から抗うことも、もう、どうでも良くなってしまった

結局、私はこの暗い世界から出ることも出来ず、だからといって楽に死ねることもなく、ずっとずっとここで生きていくんだと



それは何度経験しても慣れることの無い絶望




ここ何日間で、今まで触れた事の無いような暖かい気持ちを抱いて、心の底から笑って、心をときめかせていたから

もう、目の前の絶望から這い上がれる気力が出てこなくて、どうにでもなれとゆっくりと目を閉じた









『俺のものになれ』


『俺はサクラだけの想いが知りたい』


『俺も、サクラの傍にいたい』














「!」

だけど、目を閉じた瞬間、瞼の裏に写ったのはシャンクスさんの優しく微笑む顔、耳に残る優しい声に、抱きしめられた腕や口付けされた唇の温もり

シャンクスさんとの思い出が、一気に思い出されて私は目を見開いた



「シャンクスさん…」

溢れ出る涙はそのままに、縋るように呟いた言葉は思ったように声にならず、掠れたまま空気に消えた







「今日の行い次第じゃ、俺達の船に乗せてやってもいい」

私が抵抗するのを止めると今まで両手足を押さえつけていたジンの仲間達が下がり、未だに腹の上に乗っているジンがそう言って笑う

私の耳にその声は届いていたが反応する気も起きず、ただただ自分の惨めさに涙を流し続けた



「ま、俺の玩具としてだがな!」

「っ!」

そう言って愉快そうに表情を歪め、私の着物を掴んだジンに、私はもう本当に諦めるしかないのだと覚悟を決め目を閉じた

せめて最後にもう一度だけ、シャンクスさんに会いたかった













ゴトッ














「!?」

「何の音だ?!」

もう何もかも諦めた瞬間だった

ジンの手が着物を掴んだ瞬間、部屋の外から大きな物音がし、ジンは顔だけそちらを向き、ジンの仲間達も同じように視線をその音の方、襖の先へ移した

「おい、何事だ?」

「店主ではなさそうで」

襖の一番近くにいた仲間に問いかければ、困惑したように首を振り、ジンは一度舌打ちすると視線を私のほうへと戻した


「お前らは外の様子を見てこい!俺は先に始めてる」

「へい」

「…っ!」

ジンがニヤリ汚い笑みを浮かべたと同時に、再び恐怖する体

そして、続きをしようとするジンと同時に襖を開け確認しようとしたジンの仲間達









バタバタバタ



「な、どうした?!」

襖を開けた瞬間、次々と倒れていく仲間達に、ジンは驚き再びそちらに視線を向けるが全員意識はなく白目をむいており、ジンの言葉に誰も反応を見せない


「誰だ!」

ジンはそれでも尚私の上からどかず、低い声で威嚇するようにそう言えば、ギシっと廊下が軋む音がした

と同時に感じる威圧感に、ジンは表情を歪めた










「あ、て、てめぇは…」

「…」

そしてゆっくりと姿を現した人物に、ジンはガタガタと震え出し、私の上から降り、その場に座り込んだ

私は自由になった体をゆっくりと起こし、そして目の前に立つ人物を見て目を見開いた



「シャン、クスさん」

それは先ほどまで会いたいと願っていたシャンクスさんで、私は目の前の光景に信じられず、ただその名を呟いた

だけど、シャンクスさんは私の方は一切見ず、ジンに睨み殺してしまうんじゃ無いかと言うぐらいの視線を向けていた

「な、なんでてめぇがここに…」

「黙れ」

「ひっ!」

ガタガタと震えるジンを一言で黙らせ、より一層睨みを聞かせゆっくりと部屋に入ってくるシャンクスさんに、ジンは顔を真っ青にさせて部屋の隅へとあとずさる

そしてそれを追い詰めるようににじり寄り、シャンクスさんはジンの前に立つと、その髪を掴んだ


「誰のものに手を出したか、分かってるんだろうな?」

「は、な…何の話…」

至近距離で睨まれさらに震えるジンに、シャンクスさんはさらに髪を握る手に力を込めた


「黙れ…俺はもうお前の声すら聞きたくねぇ」

「ぐあっ!!」

シャンクスさんがそう言って冷たい笑みを向けた瞬間、シャンクスさんの膝がジンの顔に思いっきりめり込んだ

その蹴りは凄まじいもので、ジンの頭部はシャンクスさんの蹴りによって壁にほとんどが埋まっていた





「サクラ」

「!」

唖然とその様子を見ていれば、不意にかけられた声に思わず肩が揺れた

ゆっくりとジンからシャンクスさんへ視線を向けた




「シャンクス、さん…」

いつの間にか目の前に立っていたシャンクスさんの顔は歪んでいて、悲しそうな瞳で私を見下ろしていた

そんなシャンクスさんの顔をみたら、さっきまでの恐怖が一気に消えていくようで、もう一度会えたことが嬉しくて、だけどこんな所を見られたことが恥ずかしくて、私の目からは涙が溢れた


「シャン、クスさん…ありがとう…ございます」

「…」

「怖かった…もう…本当に…ダメかと思っ…!」


思い出したら恐怖が再びこみ上げてきて、泣いているためうまく言葉がでてこなくて、だけど必死に涙を拭いながら言葉を紡いだ


「遅くなって、悪かった」

「…ふぇ」

懸命に言葉を紡いでいた途中だったのに、思いっきり腕を引かれたと思ったらそこはシャンクスさんの腕の中で

申し訳なさそうに呟くシャンクスさんの声と、痛いぐらいに抱きしめられたことで、私はその全てに安心して、だけどこんな所を見られて汚い自分なんかがシャンクスさんに触れる資格何てないんだと思うと無意識にその腕から抜け出そうともがいていた



ギュっ





だけど、シャンクスさんはその片腕で離れるなとでも言うように力強く抱きしめるから、私は嬉しくて、縋りたくなってしまって、目の前のシャツを握り締めて声を上げて泣いた



ダメだと思った

罰なんだと思った





だけど

今こうしてシャンクスさんに抱きしめられている現実に


心の底から安堵していた


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