闇を照らす光

□16
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もう

自分の気持ちに嘘は付きたくない





【16】







「少しは、落ち着いたか?」

「…」

助けてもらってから、もうどれぐらい経ったのだろう

シャンクスさんは部屋の壁にもたれ、私はそのシャンクスさんの足の間に座り、その胸に顔を埋めその腕に抱きしめられていた

シャンクスさんは私の髪を優しく撫でながら、優しく問いかけてくれるが、私は無言のままシャンクスさんの胸に顔を埋めたままギュッとシャンクスさんのシャツを掴む


「もう、怖いことなんてないさ」

「…」

「俺が守ってやる」

「…」

無言の私に、それでも優しい言葉を連ねるシャンクスさんに、私の胸はキュッと苦しくなる


一度は避けて会わないと決めて

だけどやっぱり好きな気持ちは抑えられなくて、シャンクスさんがこの島を経つまでは遊女と客としてでも傍にいようと思った




だけど今は違う

離れたくない


もう、止められない


だけど汚い自分じゃ何を言っても無駄な気がして、何て言ったらいいのかわからない





そうして無言を貫いていると、シャンクスさんは一度小さく息を吐くと、私の髪を撫でる手を止め、私の腰に手を回し私を抱き直した


先ほどまで以上に縮まった距離に、心臓が高鳴り、シャンクスさんのシャツを再び強く握った


「もう、いいよな…ユン」

「…え」


だけど、次に聞こえてきた名前に、私は耳を疑い目を丸めた

今…ユンって


「ユン」

「!」

シャンクスさんの呼んだ名に、私は困惑し固まっていると、再び呟いたシャンクスさんに私は慌てて顔を上げた

すると、視線の先のシャンクスさんは嬉しそうに微笑んだ


「ユン」

「何で…」

再度呼ばれたその名と頬に触れたシャンクスさんの大きな手


なぜシャンクスさんは私を見てユンと呼ぶの

私は、自分の本当の名がユンだと誰にも言ったことがないのに



そんな困惑する私を他所に、シャンクスさんは目を細めると、ゆっくりと顔を近づけてきた



「最初に言っただろ?会いたくなったら力ずくでも会う、ってな」

「え…」

吐息のかかる距離で、そう呟いたシャンクスさんの表情は最初に見た妖艶な微笑で、私は大きく目を見開き、言われた意味を必死で理解しようとした



「ユン、俺の女になれ」

「…!」


「好きだ」そう言って呟かれると同時に唇に触れた温もり


言われた言葉に驚き戸惑う頭で、だけど、触れた唇はやっぱり優しくて暖かかく、色んな疑問が残るのに、そんなことどうでもよくなって、目の前のシャンクスさんの瞳を見てから、ゆっくりと目を閉じた









「最初から、知ってたんですか?」

「まぁな」

唇が離れてすぐ、私は我に返ると恥ずかしくなってシャンクスさんから視線を外しそう問いかければ、シャンクスさんは頷いた

初めてヤソップさんとこの店に来たとき、私の様子が明らかにおかしく、シャンクスさんは私がユンだと直感したのだと言う

「"サクラ"は隠し事が下手なようだ」

「う…」

喉を鳴らして笑うシャンクスさんに、私がジト目で見上げれば、「可愛い顔だ」と言って額に口付けを落とされた

それにさらに顔が熱くなり、何だか上機嫌なシャンクスさんに調子が狂う


「本当は、手を繋ぐのも、抱きしめるのも、キスするのも…全部サクラの口から真実を聞いてからって決めてたんだがな…」

「え…?」

困ったように笑って呟くシャンクスさんの言葉に、私は思わず首を傾げてしまった

それって全部既に…

「ま、ユンの可愛い顔を見たら抑えられるもんも抑えられなかったがな」

「なっ…」

「だっはっはっは」とそれはそれは愉快そうに豪快に笑うシャンクスさんに、私は一瞬呆気にとられながらもその言葉の意味に顔が熱くなる

「だからな、"あの時"は拒んでくれたこと、俺は良かったと思ってる」

「あの時…」

笑っていたかと思うとまた困ったように笑ったシャンクスさんの言葉に首を傾げれば「初めて個室で飲んだ時だ」と続けるシャンクスさんに、私は瞬時にその日のことを思い出した

エースさん達に初めて出逢った日、そしてシャンクスさんと初めてキスして押し倒されて…

「…っ」

「いやー、あん時はユンが拒んでくれなかった俺は止まれる気がしなかったからなぁ」

「な、何を言って…」

相変わらず困った顔をしているのに、どこか愉快そうに話すシャンクスさんに、私は顔どころか体中が熱くなってくる

熱くなった頬に手を当てながら視線を彷徨わせていれば、シャンクスさんは私の顎を掴み自分の視線へとあわせた


「俺は、遊女サクラの客としてじゃなく、ユンを愛した一人の男としてお前を俺のものにしたい」

「…っ」



それは私が望んだ、私が欲しかった言葉

真っ直ぐと、力強く、呼吸が止まってしまうんじゃないかと思うようなその言葉に、私は驚きそして嬉しくてどうしようもなくて、唇を噛み締める


それは夢なんじゃないかと思うほど信じられないことなのに、今、目の前で起こっている現実で、さっきまで絶望を感じていたのが嘘のように気持ちが昂る



「なぁ、ユンの気持ちを聞かせてくれ」


そしてそう問われ、噛み締めた唇の力をゆっくりと緩め、シャンクスさんの目を真っ直ぐと見据えて声を出した




「私も…シャンクスさんが好きです」




震える声でハッキリと伝わったかはわからないけど、今出せる精一杯の声でシャンクスさんへ自分の想いを伝えれば、私の目から涙が零れた



どうしよう、どうしよう

言ってしまった

今まで圧し留めていた想いを

伝えたらいけないと思っていた気持ちを




「あぁ、知ってたさ」

「え…」

だけど、すぐに聞こえたシャンクスさんの言葉に私は大きく目を見開きその楽しそうに細められている目を見た

シャンクスさんは私の顎から手を離すと、その手を私の頬に移動させ、綺麗な笑みを浮かべ私の頬に流れる涙を親指でふき取った


「俺は、ユンのことを今すぐここから連れ去りたいぐらい好きだ」

「っ!」

頬を撫でられ、切なそうに呟かれたその声に、私の胸は大きく高鳴り再び顔が熱くなる

だけどその真っ直ぐと向けられた目から逸らせる事もなく



胸の内からこみ上げるこの気持ちは

目の前の彼を愛しいと思う気持ち



抑え込もうとしても抑えきれず、どんどんどんどん溢れ出てくるこの気持ちの対処の仕方が分からなくて、私はまた泣きそうになっていた



「夢…みたい」

「あぁ、だが、夢じゃない」

シャンクスさんの手を握り、その手のひらに頬を擦り付けながら、本当に嬉しくて夢みたいで、胸を締め付けるようなこの心地よい痛みを感じる


さっきまで絶望していたのに、この暗闇から一生抜け出すことは出来ないんだと思っていたのに


「シャンクスさん…」

「ユン…」

色んな気持ちが後から後から溢れてきて、それは言葉にすることも形にすることも出来なくて、私はただ、目の前の愛しい彼に縋りつくように抱きつけば、すぐに背中に彼の温もりを感じることが出来た
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