時を超えて

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【時を超えて】
第3話





そして次の日、目が覚めてもそこは昨日と変わらずジャングルで、隣には未だにスヤスヤと寝息を立てる幼いエース隊長とルフィがいた



「そう簡単に元には戻れない、か」



多少ガッカリしながらも、まだこの二人と一緒に過ごせると思えばあまり気にならず、あたしはグッと大きく伸びをした














「海賊に?」

「あぁ、俺達は17歳になったら海賊になるために海に出るんだ!」


二人が起きてすぐ、再び朝ごはんを捕獲するためジャングルに飛び込み、巨大なウサギみたいな生物を捕まえ少し遅めの朝食を取りながら、もぐもぐと肉を頬張りながらそう話すルフィにあたしは驚いた


こんな小さなときから海賊になりたかったんだ



「エースも海賊になりたいの?」

「あぁ、俺はいつかすげぇ海賊になってこの世の全ての奴らに俺の存在を見せ付けてやるんだ」


ルフィの楽しそうな笑顔に比べ、エースはどこか憎しみの篭ったような瞳をぎらつかせそう言い切った

エース隊長の幼い頃や、海賊になった理由なんて全く持って聞いたことないけど、思わぬ形で知ってしまった。まぁ、放っておいても将来全世界が注目する海賊団の2番隊隊長になるんだけど・・・でも、何かひっかかるなー


「ねぇ、それって楽しいの?」

「は?」


思わずそう聞いたあたしの問いかけに、エースは訝しげな表情を向けた


そうだよ、だってエース隊長はいつだって自由で、楽しそうに笑ってる。でも、今のエースはどうだろう。その目はどこか闇が潜んでいて、楽しもうとか、そう思ってるようには見えない


「エース、夢を語る時はもっと楽しそうに笑わなきゃ!」

「・・・っ!」



うん、そうだよ!あの太陽みたいな笑顔がないとエース隊長じゃないよ!


あたしの言葉にエースは目をまん丸にしたけど、それから特に何の反応を見せずにただ視線を地面に向けた


















「ぎゃー!エースー!ミユ−!」


それから、再びジャングルに飛び出したあたし達

どうやら本来住んでいる場所は他にあるのだが、ジャングルにテントを張って暮らしているのも、獣達と戦い暮らしているのも、海賊になるための修行なのだと言うが、さすがのあたしもこんなに長いことジャングルを歩き回って戦い続ければ疲れてくる

でも、目の前をスタスタ歩く二人は全く疲れ知らずで現れる獣達を倒しては進んでいく

そして、本日何匹目かになる巨大な猛獣に挑んでいくエースとルフィを、あたしは近くの石に腰掛けてみていたのだけど、一瞬の隙をつかれてルフィが捕まってしまった


「ルフィ!」

「あ、エース待って!」


呼び止めにも応じず、咄嗟にエースが地面を蹴り猛獣に攻撃を繰り出すが、真正面から突っ込んだため難なく薙払われ近くの大木に激突した


「ミユ〜だずげで〜」

「っ、くそっ…」

「エース!ルフィ!もう怒った!可愛い二人を傷つけた罪は重いんだから!」


半べそかくルフィと激痛に顔を歪めるエース

そんな二人を見ていたらカッと頭に血が上った












「はい、できた」

「いでっ!」

ポンっとルフィの額に巻いた包帯を叩けば、ルフィは少し涙目になって声をあげた

あのあと、無事猛獣を一発で吹き飛ばし倒したあたしは二人の傷の手当てをしたんだけど、何やら不機嫌なエースはあたし達に背を向けて不貞腐れているようだった

「エース、何怒ってんの?」

「別に怒ってねぇよ!」

「じゃあ何で不機嫌な顔してるのよ」

「…」

口をつぐんで話そうとしないエースにあたしは小さくため息を吐いた


まぁ、色々思う年ごろなんだろう


「だけど!一つだけ反省しなさい」

「は?」

「エース、何でそう死にたがりな戦い方しかしないの?」


あたしの言葉にエースはピクッと体を揺らした





「ルフィを助けたかったとしても、あれじゃエースが死んじゃ…」











「俺なんか死んだって誰も何とも思わねぇよ!」










「!?」

あたしの言葉を遮るように立ち上がり叫ぶエースに驚いた

よく見ればその肩は震えていて、何かを堪えるように拳を強く握り締めていた




何でそんな悲しいこと言うの?

何でそんなに辛そうなの?



そんな問い掛けばかり頭に浮かんだけど、それ以上に強く思うことがある






ギュ







「あたしはエースに生きててほしいよ」

「!!」







痛いぐらいに握り締めているであろうエースの小さな手をそっと膝をついて自分の手で包み込んで呟いた

ピクッとエースの体が揺れゆっくりと顔を上げたエースと視線が絡まった


「エースが死んだら悲しいよ」

「…っ」


もう一度、真っすぐとその目を見て言えばエースはグッと口をつぐみ眉間に皺を寄せた

何かを堪えているように何も言わず、だけど逸らすことなく視線をあわせるエースに、あたしは微笑んだ


「俺も!エースが死んだら嫌だ!」

「ルフィ…」


先ほどまで半べそかいていたルフィはいつのまにか復活した様で、ズンズンとエースの隣までくると、あたしが掴んでいない方の手をグッと握り締めた

「ほら、エースが死んじゃったらルフィも悲しいって」

「…そ、そうかよ」


「あぁ、そうだ!」

ルフィの言葉にまた少し驚いたように目を丸めたエースだったが、すぐにまた視線を明後日に向けると照れ臭そうに呟き、その言葉にルフィは大きく頷き、あたしも笑顔を向けた



「よし、じゃあ夕飯も取れたことだし帰ってご飯にしよー」

「おぉー!」


黙ってしまったエースに、だけど想いは伝わったと信じ、立ち上がり声を上げたあたしにルフィは目を輝かせ、あたしの手に自分の手を重ねた


「…」


チラリとエースを見れば今まであたしとルフィに握られていた自身の手を見つめ立ちすくんでいた

「エース、帰ろう!」

そんなエースの目の前に、ルフィと繋がれていないほうの手を差し出せば、驚いたように顔を上げるエースにあたしは首を傾げた

「どうしたの?」

「…手、繋ぐのか?」

「うん!だって暗くなってきたし危ないでしょ」

「べ、別に一人でも平気だ!」


フイっと顔を背けるエースを可愛くないなぁと思いながらも、あたしは無理矢理エースの手を取った


「ほら、行くよ」

「だ、大丈夫だって言ってんだろ!」

「だーめ!エースもルフィもあたしにとっては大切な存在だから、あたしが守るの」

「なっ…」


今はね、と心のなかで密かに呟きながらあたしはまだ何か言いたそうなエースを無視してその手を引いた


しばらく抵抗してたけど、すぐにおとなしくなったエース


こっそりと横目で見てみれば、チラリと覗いたエースの顔には笑みが浮かんでいた気がした






「素直じゃないなぁ」







何だか胸がホカホカしてクスっと笑って呟けば、「何か言ったか」と言うエースの不機嫌な声が聞こえてきたので、あたしは肩をすくめて首を振った











「あー!夕飯の材料置いてきちゃった」

「「あっ!?」」


しかしすぐに肝心の食材(さっき倒した獣)を忘れたことを思い出し振り替えるが、真っ暗闇に包まれた来た道を戻れるほどジャングルは甘くなくて



あたし達は盛大にため息を吐いた







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