時を超えて
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【時を超えて】
第6話
「わぁ、綺麗!」
あたしはエースとルフィに連れられて、海の見える崖の上にやってきた
昨日はあれからルフィを泣き止ませ、とりあえずテントに戻り洗濯物を干したが、流れる空気の悪いこと悪いこと
そしてルフィはすぐにいつも通りに戻ったが、エースはいつにも増して無口を貫いていた
どうしようかと思案しているうちに夜になり、その日の晩は再び釣った魚を食べて寝た
寝るとき、ルフィは何だかんだ言ってもまだあたしの言葉を気にしているのか、ギュッと腕に抱きついて寝ていたが、エースはあたしに背を向けて寝ていた(寂しい・・・)
「ふぅ」
昨日のことを思い出し、胸のうちに広がる罪悪感にも似た痛みに小さく息を吐きながらも、久しぶりに見る見渡す限りの青い海にあたしは嬉しくてつい笑みを漏らした
「ここは俺たちの特別な場所なんだ」
「特別な場所?」
隣に立つエースの言葉にあたしが首を傾げれば、逆隣に立つルフィが「にしし」と嬉しそうに笑った
今朝、エースはあたしより早く起きてテントの外で座って太陽を見つめていて、あたしが恐る恐る声をかければ普段どおり挨拶を返してくれた
それから洗濯物を取り込んでいるとルフィが起きてきて、するとエースは徐に立ち上がり「行くぞ」と言って歩き出し、あたしとルフィは訳が分からず首を傾げながらもその後を追ったのだった
「俺たちが兄弟の杯を交わした場所だからな」
「そうなんだ!素敵な場所だね」
今朝のことを思い返しながら徐に呟くエースに、あたしは密かに目を丸めた
そっか、確か二人は本当の兄弟ではなかったんだ。その話はいつだったか宴の席でエース隊長から直接聞いたことがある気がする。酔うとルフィの話ばっかりするから半分以上聞いてなかったけど・・・
「あー早く海にでてぇなぁ」
「あぁ!そんで、この海で俺たちは自由に悔いのない生き方をするんだ!」
ボソッと呟きその場に座り込むルフィと、腰に手を当て真っ直ぐと海を見据えて力強く言い切るエース
あたしはそんな二人を見て小さく微笑むとその場に腰を下ろした
「二人なら、きっと素敵な海賊になれるよ」
同じように海を真っ直ぐと見据え、潮風を心地よさを感じながら本心からそう呟いて笑えば、「そうか!」と言って嬉しそうに声を上げるルフィと「当ったり前だ!」と口端を上げるエース
あたしはそんな二人にニッコリ笑みを返した
それからエースとルフィは修行だと言って、喧嘩のような戦いを始めた
何度やってもルフィはエースに勝てず、しかし、泣けばエースに怒られるのでグッと我慢して何度も立ち向かっていた
男の子だなぁ何て思いながら、厳しい言葉や挑発を繰り返し、それでも手加減しながら戦っているエースのお兄ちゃんぶりに感心していた
ドサッ
「はぁーやっぱエースは強ぇや!」
「当ったり前だ!お前みたいな弱虫に俺が負けるかよ」
「弱虫じゃねぇ!」
「弱虫だろ!しかも泣き虫だ」
「違う!俺は弱虫でも泣き虫でもない!」
疲れきったルフィが草の上に倒れこむように仰向けになって寝転がれば、途端に始まる口論にあたしは慌てて仲裁に入る
「喧嘩しないの!」
「ミユ〜!今のはエースが悪いだろ?!」
「すぐミユに甘えんなよ!」
「はいはい、喧嘩両成敗。二人共、仲直りしなさい」
徐に立ち上がりベタッとあたしの腕に抱きついて半べそかくルフィに声を荒げるエースだったが(昨日と同じ光景だ)、あたしがそういえば不満げではあるがコクンと頷く二人にあたしは苦笑した
「っていうか、いつまでくっついてんだ、ルフィ!」
「いいじゃねぇか!俺、ミユの近くにいると落ち着くんだ!」
「えーそうなの?!何か嬉しいなぁ」
「・・・っ」
ギューっとさらに腕に抱きつく力を込めるルフィに嬉しくなってその頭を撫でれば、なぜか不機嫌な顔になるエース
何怒ってるんだろう、と思いながらエースを見ていると、不意に腕に篭っていた力がなくなっていった
「・・・ルフィ、寝てる?」
「ぐぁー」
ルフィに視線を移せば、いつの間にか鼻ちょうちんを作って眠っているルフィに、あたしは呆気にとられながらも笑みを作ると、そっと自分の膝にルフィの頭を乗せた
「疲れたんだね」
「まだまだガキだな」
「エースだってガキじゃん」
「ルフィより3つも大人だ!」
「はいはい」
クスクス笑って言えば、エースは不快そうにだけど少し照れたように口を尖らせると、あたしの隣にドカッと腰を下ろした
そよそよと潮風が頬をかすめ、心地よい空気が流れる
海も空も穏やかで、大きな安堵感があたりを包み込んでいるようだった
「なぁミユ、俺さ・・・」
「ん?」
そんな心地よさに目を閉じていると、隣から聞こえたエースの声にあたしは耳だけを傾ける
しかし、いつまでたってもその続きが聞こえず、不思議に思って目を開きエースへと視線を移せば、胡坐をかいて座るエースが悲しげな表情を浮かべ地面を見据えていた
「エース?」
一向に続きを言おうとせず、グッと唇を噛み締め眉間の皺を濃くするエースにあたしはどうしたのかとその顔を覗きこむ
すると、エースは何か覚悟を決めたかのようにバッと顔を上げると、あたしの目を真っ直ぐと見据えて口を開いた
「俺、海賊王の息子なんだ」
そう言ったエースの言葉に、あたしは大きく目を見開いた
だって、本当に辛そうに、悲しそうに・・・何かを恐れるように話すエースに、あたしは胸が締め付けらる思いがした
「そう、なんだ・・・」
「・・・」
その表情を見ていたら、それだけ呟くのが精一杯で、エースはその言葉を聞くとまたすぐに視線を地面へと移した
エースがあの海賊王の息子?
俄かに信じがたい事実だけど、エースが嘘をつくとも思えないし、こんな嘘をついたって何も得るものなどない
だけど、何でそんなことあたしに言うんだろう?
「それでも・・・俺に生きててほしいか?」
突然の告白に混乱する頭を必死に整理しようとすれば、再び意を決したように視線を合わせ問いかけられたその言葉に、あたしは一瞬目を丸めた
「もちろん」
そして、すぐにそう答えた
それを聞いたエースは強張っていた表情が緩んでいくかのように、呆気に取られた顔をした
「誰の子であろうと、エースはエース。あたしの大切な存在には変わりないんだもん」
「でも、あの海賊王だぞ!皆が鬼だ悪魔だっていう・・・そんな奴の血が俺には流れてる」
あぁ、そっか
必死に叫ぶように言葉を紡ぐエースに、あたしはエースが今までどのような扱いを受けて生きていたかが分かった気がした
そして、何を求めているのかも、何となく分かった
「それでもやっぱり、エースはエースだから」
「死んじゃったら悲しいよ」そう続けてエースの髪を優しく撫でれば、エースは本当に驚いたように大きく目を見開いた
そして、暫らくするとエースはフイっと視線を海に向けた
「エース?」
何も言わずただ海を見据えるエースに、あたしはエースの頭を撫でるのを止め地面に手を突いて、ルフィを起こさないようにそっとエースの顔を覗き込んだ
そして、その表情を見て驚いた
ギュッ
「こっち見んな」
言葉とは裏腹に、不意に手を握ってくるエース
エースのその声はちょっと震え、その目は潤んでいて、必死にそれを零すまいと唇を噛み締め、あたしの手を強く握り締めていた
「…うん」
それを見たら何だか何も言えなくなって、あたしはそれだけ言うとエースと同じように海を見据えた
「寝る!」
「え?」
暫らくそうしていれば、突然そう叫んでルフィと同じようにあたしの膝を枕にして寝転ぶエース
驚いてその様子を見ていたが、あたしはすぐに嬉しくなって笑みを浮かべた
「おやすみ、エース」
「…おやすみ」
頭を撫でてそういえば、エースはすぐに目を閉じた
エースはあたしのお腹の方を向きながら、あたしの左手をその小さな両手で握り締めながら眠る様子は、何だか甘えられている様ですこしくすぐったい気持ちになった
「(寝顔は変わらないや)」
スヤスヤ眠る二人を見て、心のなかでそう思って笑った
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