時を超えて

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【時を超えて】
第8話




























「ミユ!!!」

「っ」



叫ぶエースの声に、あたしは痛む体を無視しながらゆっくりと顔を挙げ笑みを作った



「だいじょー・・・ぶ」

「そんなわけあるか!撃たれたんだぞ!」


「あは、は・・・そう、みたい・・・」



眉尻を下げ悲痛な表情を浮かべるエースに、あたしは何とか心配させないように笑う


痛い、すごく痛い


今まで戦闘で傷を負うことはあったけど、今回のはエースを庇うために自ら飛び出したこともあって、致命傷を避けることが出来なかったようだ



やば、息が苦しい



「ギャッはっは!素晴らしい仲間愛じゃねぇか!」

「おい、女を傷つけんなよ。あとでの楽しみがなくなる」


「おっと、そうだったなぁ」



背後から聞こえる男達の会話に、あたしはまだ死ねないと思った





今ここで死んだら、エースやルフィまで殺されちゃうかもしれない



そんなの絶対嫌だ!





「さぁーて、次こそお前には死んでもらって、この女は俺たちが可愛がってやるよ!」

「や、やめろ!ミユに触るな!」




カチャっと再び銃を構える音がして、腕の中で暴れるエースだけど、あたしはエースが飛び出して行かないように残り少ない力で必死に抱きしめる



「ミユ、離せ!俺があいつらをぶっ飛ばしてやる!」

「だ・・め・・・、エース」

「何でだよ!早くあいつらぶっ飛ばして怪我の手当てしねぇと・・・」


バタバタと暴れるエースの言葉に、あたしは嬉しくて笑みを作って首を振る


「エースには・・・無理」

「そんなのやってみなくちゃわかんね・・・」

「約束したでしょ・・・生きるための、戦いをするって・・・」

「・・・っ」


あたしの言葉にハッとしたように目を丸め、そして唇を噛み締め動きを止めるエース

それを見て、あたしは微笑むとゆっくりとその黒い髪を撫でた



「最後の言葉はそれだけでいいか?」



そしてまた、背後から聞こえる男達の声にエースはそちらを睨むように見た



「まったく・・・こんな小さい子に大の大人がよってたかって何?」

「あ?」

「ミユ?!」



あたしはエースの頭をもう一度撫でると、痛む体に鞭打ちゆっくり立ち上がり口を開けば、心配そうにこちらを見るエース



男達はあたしの言葉に苛立ったように声を荒げる



「まぁ、大方エースの力が強すぎて・・・はぁ・・・一人じゃ相手できなくなったってとこ?」


「なっ、そ、そんなわけねぇだろ!」





「図星なんだ」




慌てふためきガチャっと銃をこちらに構える音がしたと同時に、あたしは男達に振り返った




「あたし、弱いものいじめする小さい男って大嫌いなの」

「んだと?!てめぇ、調子乗りやがって・・・」


「ミユ!危ない!」






顔を真っ赤にして引き金を引こうとする男達を見据え、あたしは笑みを零した



「もう、謝ったって許さない」









ブワッ











「・・・ぐ・・・あ・・・ぁ」








ドサッ













そして一気に覇気を纏えば銃を落とし呆気なく倒れていく男達


あたしはそれを確認すると同時に一気に力が抜けた














ドサッ













「ミユ!!!」



力の抜けたあたしはその場に倒れこみ、エースが慌てて近寄り顔を覗きこんできた


その心配げな表情、希少だなぁ



「エース・・・大丈夫?」

「お、俺は平気だ!ミユこそひでぇ血だ!早く手当てしねぇと!」


「あはは・・・うん、ありがと」



あたしの体を抱きかかえようと必死になるエースに、あたしは嬉しくて笑みをもらす



だけど分かる、あたし・・・多分もう助からない


ドクドクと流れ出る血に朦朧とする意識




「エー・・・ス、も、いいよ・・・」

「な、なに言ってんだ!?」





笑顔のまま呟けば、エースはピタリと動きを止め目を大きく開いて、そして泣きそうな顔をする



あぁ、あたしエースにこんな顔させちゃった



まだまだ幼いエースとルフィに、人の死なんて重過ぎて、あたしは見せたくなかったのにな、こんな顔させて、こんな辛い思いさせて・・・本当にあたし、だめだなぁ






「エース・・・今まで、ありがと」

「!!」





スッとその泣きそうなエースの頬に手を伸ばし優しく撫でてそう呟けば、エースは眉間の皺を濃くしその表情をさらに歪める



「ご、めんね・・・まだ、一緒に、いたかったけど・・・こんな・・・お別れに・・・なっちゃった・・・けど」


「も、もういいから・・・喋るなよ!」




グッとあたしの手を握り締め、唇を噛み締めるエースにあたしは込み上げるものを抑えられなかった


溢れ出る涙が頬を伝う



「そんな顔、しないで」

「だって、ミユ、お前・・・お前死ぬんだろ?!」

「・・・」


「死ぬなよ!ずっと、俺たちの傍にいてくれよ!」


「エース・・・」






ギュウっとさらに握り締める手に力を込め、叫ぶように言うエースの瞳から溢れ出る涙

ポタポタと頬を伝ってあたしの顔に落ちる



暖かくて、優しい涙






「ありがと、エース・・・だけど、もう・・・本当に・・・だめ、みたい・・・」


「ミユ!嫌だ、死ぬな!」







その涙を拭いながら微笑めばエースは首を横に振ってあたしの死を拒絶する

その体は震えていて、怯えているのが分かる






「エース・・・聞いて」

「・・・っ」






そしてあたしは首を振るエースの顔をあたしに向けさせる

グッと唇を噛み締め、だけどあたしの言葉を待つエースに笑みを零す




「ここで、あたし達はお別れ、だけど・・・あたしとエースはまた・・・この、広い海で・・・出会うから・・・」

「え?」




そう、さっきまでそんなこと言い切れなかったけど、今なら言える



エースとあたしは、からなずこの先出会うって


「次に会ったら…あたし、エースから離れないんだから…」

「っ」



涙を零すエースにあたしは苦笑した




こんなこと言われたって、今のエースには分からないよね

だけどね、本当なんだよ

あたしはあなたに出会って、あなたを好きになって、どんな形でも良いからずっと一緒に生きていくって誓うんだから



だから、どうか泣かないで

エースの笑顔が大好きだから

あの太陽みたいな笑顔を見せてほしい






「エース・・・笑って?」

「!!?」







ニコッと笑顔を向ければ、エースはハッと我に帰り、それから目をゴシゴシとこすると、少しぎこちなく笑った


エース隊長とは少し違うけど、でも確かにエースの笑顔がそこにあって、あたしはそれを見たらすごく安心できた



「エース・・・ルフィと・・・仲良くね」

「だ、だめだ!目を閉じたら・・・」




重くなるまぶたと遠のく意識

必死に叫ぶエースの表情が薄れ、聞こえる声も段々遠くなる
















「この海の先で・・・待ってる・・・よ・・・」















「ミユ!!!」



























そしてあたしは意識を失った






「必ず…必ず、会いに行くからなっ!」




エースの叫ぶ声がいつまでも耳に残った







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