時を超えて

□番
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「え?!エース隊長?!」



そう言って振り返った女は、驚いた顔をして俺を見ていた








そしてこの時、突然現れたこの怪しい女が俺の世界を変えてくれることになるなんて、俺は微塵も思っていなかった





【時を超えて】番外編
番〜エース視点〜


















その女は俺たちの前に突然現れた










夕飯を狩るため、俺とルフィは行きなれたジャングルを歩いていれば、不意にルフィの姿が見えなくなった

俺はまたいつものように気まぐれに独断行動を取っただろう弟に呆れつつも、その姿を探していれば、何やら見知らぬ女と話しているルフィの姿を見つけた

背後から近づいて声をかければその女は大げさなぐらい体をビクつかせ、しかしなぜか嬉しそうにこちらを向いた


睨みつければ怪しいものではないと言うが、このジャングルに人がいること自体不思議だし、しかも女だ

しかも俺たちの顔をジッと見て眉間に皺を寄せて何かを考え込んでいるようだった


「なぁ、お前名前は何て言うんだ?」

「おい、ルフィ!」

「あ、ミユだよ」


そして警戒心のないルフィの問いかけにあっさり答えたその女、ミユはだらしないほど頬を緩ませ笑みを浮かべた


「帰るとこがあんのか?」

「うん、あたしの唯一の居場所で大切な家族がいるところがあるの」

「家族・・・」


どうやってきたのかも分からないというミユに俺はますます不審も目を向けていれば、ミユはそう言うと突然泣き出した

俺たちよりも年上のくせに何の恥じらいもなく声を上げて泣き、弱音を吐くミユに苛立った


居場所があって、大切な人間がいるってことが俺には腹立たしくてしょうがなかった



俺にはないものをミユは持ってて、そこに帰りたいと素直に泣く姿は、あの時の俺でも幼心に疎ましさを抱いた



それからすぐにルフィの言葉で立ち直って、しかも俺たちの夕飯狩りにも付いてきたミユ

何で付いて来るんだと思いながら最初は少しイライラしていたが、獣に襲われたルフィを助けてくれたミユの力に、最初のイライラはすぐに吹き飛んだ



真っ直ぐと野獣を見据え凛とした声で獣を追い払う姿は、最初は頼りないように見えたミユを大きく見せた




「ユアは強いんだな!」

「ん〜どうかなぁ」

「あの猛獣を追い払ったんだ!すげー!」




そして俺は気づいたらルフィと同じようにミユに駆け寄って興奮して目を輝かせていた

そしたらミユは突然「可愛いー」と言って俺たちに抱きついてきて、ルフィと共に俺をその腕に治めながら口を開いた



「それに、二人が無事で本当に良かった!」

「!!」



俺はその言葉に驚いた



今まで俺の存在は否定され続けていて、どんな大人たちもそんな言葉、一度だって言ってくれたことはなかったから





「強い奴は・・・仲間にしてやってもいい」

「え?」





そう言ったらミユは一瞬キョトンとした顔をして、次いでルフィの「エースがミユを認めたんだ!」という言葉にその意味を理解したのか、嬉しそうに笑みを見せると再び抱きついてきた


「ありがとう〜チビエース隊長!」

「わっ、おまっ、くっつくなよ!」

「照れない照れない!大好きだよ、チビエース隊長!」

「・・・っ!」


そしてまた驚いた

照れることもなく、真っ直ぐと俺の目を見て言い切るミユ



その言葉の意味を理解した途端、俺の顔は今まで生きてきた中で一番真っ赤に染まっていたと思う





そして始まる俺とルフィ、そしてミユとの生活





「あ、ごめんごめん。そうだよね、チビとか言われたら不快だよね。じゃあ、ルフィとエー・・・」


チビとか隊長とか言うミユに呼び方を変えるように言えば、俺の名前の途中で口を濁し、何やら考え込むように俯くミユ


そうだよな、俺の名前なんて呼びたくないんだよな


その頃、俺は捻くれてて、そんな小さな他人の言動にまで卑屈になっていたから、無意識にそんなことを思ってた


だけどミユはすぐに俺の名を呼び、そして何回も連呼する

「エース」

「お前・・・わけわかんねぇ」

ニコニコ笑いながら俺の名を連呼するミユにいい加減にしろと怒鳴ろうと思ったけど、俺の声を遮り俺がここにいることを確かめるように優しく呟くその声が、その時は何だか安心できたから、俺は結局そう呟いて俯くことしか出来なかった

そして俺の頭を優しく撫でるミユの手がむずがゆくて、俺は思いっきりその手を払った(かなりショックを受けているようだった)



「エースも海賊になりたいの?」

「あぁ、俺はいつかすげぇ海賊になってこの世の全ての奴らに俺の存在を見せ付けてやるんだ」


ミユの言葉に俺は力強く言い切った


海賊王の息子と言うだけで世間から忌み嫌われ、存在を否定されていた俺には、それをすることが唯一の抵抗だった


俺は確かに生きてる

ここに存在してる


それを世界に知らしめるためには名声が必要だった



「ねぇ、それって楽しいの?」

「は?」



無意識に込めていた手の力が抜けたのは、ミユのそんな問いかけだった

そしてその声の主にゆっくりと視線を向け、その質問の意味が理解できなくて眉間に皺を寄せる



楽しい?

何言ってんだ?



「エース、夢を語るときはもっと楽しそうに笑わなきゃ!」



楽しそうに笑う?

俺はミユの言っている意味がイマイチ理解できなかった



そして、どう返していいかも分からなくて俯くことしか出来なかった



だって

俺のこの想いは夢というより・・・







世界への復讐や、海賊王であるあの男に対する反抗心に近かったから
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