時を超えて

□一番かっこいいのは
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「…今日も一段とカッコいい」

そう呟いたミユの視線の先を見て、俺は思わず大きく目を見開いた







一番カッコいいのは




航海士によると、今日は天気が良いらしいので武器庫の整理でもするかということで、4番隊の奴らを引き連れて倉庫から武器を運び出していたところにミユがやってきた

俺の元に来てすぐ「かくまってください!」と言って武器の入った箱が積まれた後ろに隠れていったミユに、また何かやらかしたのかと小さく息を吐いた

いつものことだと放って作業に集中していれば、今まで大人しかったミユの冒頭の一言と、その視線の先の人物に聞き間違いかと首をかしげた


「うん、やっぱマルコ隊長はカッコいいです」


しかし、俺の疑問もミユの一言によってすぐに打ち消され、やっぱり視線の先のマルコのことを言っていたのかと驚いた


「急に何だよ?」

「急じゃないですよ!あたしずっとマルコ隊長はカッコいいって思ってましたもん」

「ずっとって…?」

「あたしが白ひげ海賊団に入ったときからです!」

「ほら、あたしエース隊長が2番隊隊長になるまで1番隊だったじゃないですか」と言って二ヘラと笑うミユに、あーたしかそうだったなと記憶を辿る

「マルコ隊長ってすっごく優しいし気が利くし頭いいし強いし…言うことないですよね」

「べた褒めだな。ま、あいつも確かにいい男だが、このサッチ様に比べたらどうってことねぇさ」

「えー…」

「えーって何だ!」

不満そうに口を尖らせるミユに憤慨しながらも、まぁ、俺の大人の魅力はお子ちゃまなお前にはまだわかんねぇだろうな、といえば心底嫌な顔をされた(傷つくんだけど!)


「サッチ隊長は大人の魅力って言うか…不純物の塊って感じが否めない」

「不純物って何!?しかも塊!!?」

「それに比べてマルコ隊長は爽やかな感じがさらに好感度大!」

「おいおい、くだらねぇ妄想は捨てな!マルコだって男だぜ。不純なことや想いぐらいいくらだって…」

「わー!ヤダヤダ!サッチ隊長と一緒にしないでください!マルコ隊長は清らかなんです!クールな感じがまたカッコいいんです!」

「夢見すぎだろ!」

「夢じゃないもん本当だもん!」

ワーワーと耳に手を当てて俺の言葉を聞き入れようとしないミユに、どんだけマルコのこと綺麗なものとしてみてるのか、少しだけ不憫に思った(マルコだって男だし)

そして辺りを見渡せば、いつの間にか4番隊の奴らが俺たちのやり取りを苦笑しながら見てていたようで、頬を膨らませ子供のように拗ねながらも再び物陰からマルコを盗み見るミユに、俺は小さくため息をついて手元の武器リストに視線を落とし仕事を再開した



「でもね、サッチ隊長…」

「ん?」



それから暫く仕事をこなしていると、ポツリ呟いたミユに耳だけを傾ける

しかし、一向に続きを言わないミユに何なんだと思い視線を向ければ、そこにはだらしなく笑みを浮かべるミユがいて


俺は瞬時にミユの言いたいことを理解した




「やっぱり…」








「一番カッコいいのはエース隊長なの」









「…え?!」



ミユが言う前に、俺はミユの真似をするかのように女声を出し代わりに呟いてやった

ミユは案の定、目を真ん丸くして俺を凝視して固まっていた


「図星だろ?」

「…っ」


そして得意気にニヤリと笑みを作って言えば、ポカンとしていたミユは見る見るうちに顔を真っ赤にさせていった

俺はそれが面白くて面白くてブハッと息を吐き出した


「わ、笑わないでくださいよ!」

「ハハハ!これが笑わねぇでいられるかよ!何だその顔!」

「む〜…って言うか、何でサッチ隊長が先に言うんですか!それあたしの台詞なのに!」

「顔にかいてあんだよ。ミユは分かりやすいからな」

「むき〜!!酷い!サッチ隊長が言ったからエース隊長のかっこよさが半減した!」

「んなわけあるか!」

「んなわけあるもん!あたしが言ってこそエース隊長がもっともっとかっこよくなるのに!」

「わけわかんねぇよ!つーか、結局それが言いたかっただけだろうが!引き合いにマルコ出してんじゃねぇよ」

「そ、そんなつもりじゃないもん!マルコ隊長だってカッコいいもん」

「エースは?」

「マルコ隊長なんかと比べ物にならないぐらいカッコいい」

「ほれみろ!」

「はっ、つい本音が…」

慌てて口を押さえるミユに俺は指差してゲラゲラ笑えば、ミユは口を押さえたまま真っ赤になって眉間に皺を寄せる

そして、暫く何かを考えた後、反論しようと口を開いた時だった



「ミユ、見つけたよい!」

「ぎゃ!」

「マルコ」


ミユの背後に現れた人物は、今まさに話題の渦中の人物で、しかし、なにやらマルコは額に青筋浮かべご立腹のようで、ミユに関しては冷や汗たらして固まっている


「ミユ、俺にバケツの水をぶっ掛けて逃走するたぁいい度胸だよい」

「ご、ごめんなさぃぃ!決して、決して悪気があったわけじゃないんです!!」

「だったら逃げずにさっさと素直に謝りゃ済むことだろうがよい!」

「だって、だって、マルコ隊長の顔がすんごく怖くって…」

「逃げるしかなかったんです〜」と言って、半べそかいて訴えるミユにマルコはグッと押し黙った

やっぱりやらかしてたのか、と思いつつも、目の前でうろたえるマルコを見て何だかんだ言ってマルコもミユには甘いから、きっとこれ以上は言わないんだろうなと思いながら苦笑した

「ったく、次からは気をつけろよい」

案の定、思ったとおりマルコはため息をつきながらもあっさりとミユを許した

俺はそんないつも通りの光景に呆れながらもミユに視線を移すと、その表情は見る見るうちに明るくなる

「は、はい!もう絶対絶対マルコ隊長に粗相しませ…」

そして嬉しそうに笑ったと同時に思いっきり腕を上に伸ばした瞬間




ガンッ ドォン
ガラガラガラ




「ぐえっ!」




ミユの手が積み重なった箱にぶち当たり、その振動で箱が崩れ落ちた

そして同時に聞こえたカエルが潰れたような声に、ミユも俺も、そして周りにいた全ての奴らが顔面蒼白となった


一拍の後


「ぎゃー!大変マルコ隊長が!!!」

「ばっ、お前なにやってんだ!」

「だ、だってだってこんなことになるなんて!!」

先に我に帰ったのはミユのほうで、目の前には雪崩れた箱の下敷きとなり、片腕だけ伸ばしだされた状態のマルコの姿

俺は慌ててミユに向かって怒鳴るが、ミユ自身も慌てふためいている

「言ってる傍からやらかしてんじゃねぇよ!」

「あたしだってやりたくてやったわけじゃないですもん!」

「それにしたって、もうちょうい注意するとか色々できんだろうが!」

「そ、そうかもしれませんけど…やっちゃったもんは仕方ないじゃないですかー!」

「開き直るなー!」

怒鳴る俺にミユはまたしても半べそ欠きながら声を荒げる

だけどまぁ、俺もどうやらミユの涙には弱いらしく、その顔を見たら怒る気力も無くなってきた


「…よい」


「ん?」

「え?」


「もう良いから泣くな」とミユの頭を優しく撫でてやっていれば、不意に聞こえる変な掛け声

俺はミユの頭を撫でていた手を止め、辺りをキョロキョロ見渡した




「ゴチャゴチャ言ってねーで助けねぇかい!」

「ぎゃーごめんなさい!!」

「げっ、忘れてた」

そして満を持して現れたのは下敷きになっていたマルコで、額から流血していたがすぐに青い炎によって消えた

しかし、その目は据わっていてどうやら本気で怒っているようだった

ボボボっという音と共に傷口が消えていく間、マルコはどうやら落ち着きを取り戻したのか腕を組み、険しい表情でミユを真っ直ぐ見据えた

ミユはその視線にビクッと体をビクつかせ、またもや半べそかいてマルコを見上げた


「どうやら、口で言っても分からねぇようだねい」

「そ、そんなことな…」

「問答無用!今日一日、きっちり俺の元で働いてもらうよい!」

「ひ、ひぃぃぃ!」



そして、怒りながら笑んだマルコに首根っこを掴まれると、そのままズルズルと引きづられるようにして連れられていくミユ

俺はその様子を黙って見ながら、二人の姿が消えると同時にはぁ、と息を吐いた




「エース、いつまで隠れてる気だ?」

「…」


そして、崩れ落ちた箱とは少し離れたところに向かって声をかければ、そこから出てきたのは帽子を深く被ったエース

実は、ミユが来る数分前に、エースが昼寝をすると言ってやってきていたのだった


「良かったな、べた褒めで」

「うっせ」


帽子を深く被っているのは大方先ほどのミユの発言から恥ずかしくて顔を見せられないのだろうと瞬時に理解し、俺がからかうようにそう言えば、案の定、チラリと見えた帽子の奥にあるエースの顔は真っ赤になっていた


「マルコの話ん時、よく飛び出して来なかったな」

「別に、あいつが誰の話しようと俺にとやかく言う権利はねぇだろ」

「なぁに物分りいいこと言ってんだよ。だいたいな、お前の負のオーラがヒシヒシ伝わってきてんだよ」

「なっ、んなわけあるか!」

「無自覚かよ」

ミユがマルコの話をしている間、ずっと感じていたエースからの覇気にも似た威圧感

ミユは全く気づいていなかったようだが、4番隊の周りの奴らも結構気づいていたようで、ミユがマルコのことをカッコいいと言うたびに気絶しそうな奴が出ていた


「いい迷惑だぜ、全く」

「…ふんっ」


倒れた箱を立て直しながらそう言えば、エースは腕を組んで顔を背けた

その耳は真っ赤で、いつまで照れてるんだと思いながら俺は片付けに入った


「おい、エース。突っ立ってんなら手伝えよな」

「…」

「エース?」


散らばった武器を種類ごとに入れなおすのは結構大変な作業で、俺はふと未だに突っ立っているエースに声をかける

しかしエースは俺の言葉には反応せず、なにやらウズウズした様子で一方をジッと見据えていた

何だと思いながらエースの視線を追えば、そこにはマルコに説教されているミユの姿

「気になるなら行けばいいだろ」

「べ、別に気になってねぇよ」

「あっそ。なら手伝えよ」

いつまでも素直じゃないエースに、俺がそこまで配慮する必要も無いため冷たく言い放ったが、エースは俺の言葉に反応する前に歩き出した




向かう先はもちろん決まっているんだろうけど






「結局行くんじゃねぇか」

ミユが海に落ちたときもだが、エースはどうやらマジでミユのことが大切で仕方がないようだ


「ま、それはそれでこっちは見て楽しませてもらってんだけどな」

普段は見せないような赤くなった表情や焦った声

まぁ、ミユにはもっといろんな表情を見せてるんだろうけど







「エース隊長!助けて〜」


遠くから聞こえる悲痛な叫びを耳にしながら、そんな俺たちには見せないような表情やしぐさを見ているミユにとって、エースが一番格好いいと思えることも必然的なのかもしれないと、二人を見てたら柄にもなく思った
















(マルコ悪い、俺が良く言っとくから今日は勘弁してやってくれ)
(エース隊長〜!)

(…分かったよい。じゃ、エース。お前が責任もってやれよい)
(は?)
(モビーディック号の全室の窓拭きだよい)
(はっ!?)

(い、一緒に頑張りましょう!)


end

20120129
 

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