時を超えて

□二人の関係
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「エース隊長おはようございます!」

ノックもせず豪快に扉を開け元気よく挨拶をするミユに、またかと多少驚きながら目を覚ました



二人の関係



ここ最近、ミユが異様に俺の世話を焼きたがる

朝は必ず起こしに来るし、飯を食うときも運ぶし、洗濯があれば奪うように持ち去ってくし、あげくの果てには部屋の掃除までしてくれる

俺としちゃ有り難いことこの上ないのだが、今までこんなことを率先してやる奴じゃなかったから(むしろ俺がやってやってた)非常に疑問に思う

「エース隊長、今日は何食べますか?」

「ん、あぁ…適当になんでも」

「いっつもその返事ですね…でも、好き嫌いなく食べるのは良いことですよね」

「…」

「よーし!今日も頑張るぞー」と言って、これから食堂で始まるであろう争奪戦に意気込むミユを見て、俺は腕を組んで立ち止まった


なんか違和感がある



「どうしたんですか?」

「…」

俺が立ち止まったのに気づき、ミユが体を反転させて近寄って心配そうに俺の顔を覗き込む

何も言わず眉間にシワを寄せれば「ま、まさか体調不良ですか!?」と慌てふためくミユに俺は問いかける

「なんかおかしくねぇか?」

「へ?」

ミユは目を丸めてすっとんきょうな声をあげるが、俺はここ数日間の違和感の正体を確かめるため続ける

「異様に俺の世話焼くよな?」

「え?や、そんなことは…」

「思えば海に落ちてからだ」

「そ、そうですか?」

明らかに動揺して視線をさ迷わせるミユに、やっぱり故意にやってたことだな、と確信する

「どういう心境の変化だ?」

「べ、別にいつも通りですよ」

「…」

「…っ」

ワタワタと焦りなが呟く言葉に最早効力はなく、目を細めて軽く睨めばミユはグッと口を閉じ、泣きそうな表情でこちらを見た

「な、何で泣きそうなんだよ!」

どうやら俺はミユの涙に弱いらしく、自分でも情けないぐらい動揺してしまった

「エース隊長が怖い顔するから!」といいながら涙を堪えるミユに不謹慎にも可愛いとか思っちまうのは仕方がない(てか、そんなに怖かったのか!)


「エース隊長を見るとお世話やきたくなるんです」

「は?」


そんなミユを黙って見据えていれば、意を決したように放ったミユの言葉に、俺は思わず声を上げて首を傾げた

目の前のミユは至って真剣で、ポカンとする俺の顔を見てさらに続ける

「エース隊長の過去に行って、ちびエース隊長とルフィと過ごして…そしたら戻ってきてもエース隊長を見るとあたしがやってあげなきゃ!とか思って体が勝手に…」

「早起きは苦手なはずなのに」と自分でも困惑したように話すミユに暫く言われた意味が理解できず頭を整理してみる

確かに昔はミユに世話になりっぱなしで、朝も起こしてもらってたし飯も洗濯もすべて任せていたが、今は全部自分で出来るしむしろミユより得意だ

「それだけあたしにとってあの1週間は印象深かったってことなんでしょうけど・・・」


そう言って苦笑するミユに、たった一週間の出来事だったはずなのに、ミユの中では習慣になるぐらい染み付いてんのかと思うと、俺の頬は自然と緩んだ


「だから、つい色々手を出しちゃって…迷惑でしたよね?」

「いや…むしろ助かってんだが、今までのズボラミユに慣れすぎて違和感がな」

「ズボラて!」

盛大に突っ込むミユを見て笑ってやれば、何となくさっきまでの違和感もなくなって、俺はミユの頭に手を置いてかき混ぜてやった

「でもな、俺はもうガキじゃねぇから。ミユがそこまですることねぇよ」

「はい…」

ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えながら、ミユは困ったように笑うので、俺はそれを見て笑みを向けた


ミユが俺に構ってくれるのは非常に有難いことだ

何せその間、常に俺の傍に居て他の奴らと接することもないし、ミユを独り占めできるという俺にとって願っても無い特典が付いている(普段他のクルー達と楽しくやってんのが気にくわねぇし)


だけど、俺は昔の俺とは違うし、俺達の関係だって昔とは大きく違う



「それにしても、あたしにも母性本能があったなんて驚きです」

「は?」

そんなことを考えながら、再び食堂へと足を進めれば、改めてそんなことを呟くミユに俺は目を丸めてそちらを向いた

するとミユは俺の方は見ずに腕を組んで歩きながら続ける


「自分より弱い存在を、守ってあげたいとかお世話してあげたいって思う気持ちはまさしく母性本能ですよね!」


うんうんと頷きながら呟くミユの言葉に、眉間にシワを寄せた



確かに昔は弱くて頼りなかったのは認める

だけどそんな言い方されたら



ダンッ



「?!」


怒りにも似た感情のまま、ミユの行く手を阻むように壁に手を付けば、ミユは驚いた表情を向けた

「エース、隊長?」

俺の表情を見てか、ミユの顔が少し強ばり、恐る恐る呟いた

俺は怯えるミユの目を見て少し気持ちを落ち着けながら、眉間に込める力を強くし、反対の腕もミユを挟むように壁につけた

「俺はもうあの頃の弱かったガキじゃねぇ」

「え?」

壁に背をつけ、俺の言葉の意味を図りかねて目じりを下げるミユと目線を同じ位置まで合わせ、ゆっくりと自分の顔を近づける

確かにガキの頃、ミユが与えてくれる無償の愛にミユが母親だったら…何てガキくせぇことを考えもした

だが今は違う


今は一人の女として、大切な存在としてミユをハッキリと意識している


「よく見ろよ、今の俺を」


だからミユにもちゃんと一人の男として意識してほしかった

それがたとえ無意識のうちに思っていたことだとしても、あの頃の俺と一緒にしてほしくなかった



「!」

視線を外すことなく呟けば、ミユは大きく目を見開いた後、その顔を一気に朱に染め、視線を泳がせ慌てふためく様に、俺の心は冷静さを取り戻し口端を吊り上げてその真っ赤になった耳に口を寄せた




「ミユの目に今の俺はどう映ってる?」



わざと普段より低めのトーンでそう呟けば、ミユの体がピシリと固まったかと思うと、次の瞬間に崩れるように落ちていった

「おわっ」

「〜っ」


慌てて崩れ行く腰を抱きとめるが、ミユは俯いていてその表情は伺えない


「ミユ?」

いじめすぎたかと思い、なるべく優しく問いかけると、ミユはそれに反応するように壁についている方の俺の腕に手を添え顔を上げた



「そ、そんなの“好きな人”として映ってるに決まってるじゃないですか〜」



「それ以外ありえないです」と弱弱しくもはっきり言って、真っ赤な顔と潤んだ瞳で見上げてくるミユに俺の理性は一気に吹き飛びそうになった


その顔は反則だ


ミユは俺の腕に添えていた手に少し力を込め、顔の色はそのままに俯いてしまった


ドキドキと心臓が早鐘打つ中、俺は懸命に冷静さを保ちながらミユの腰を支える腕に力を込めると少しビクつく体

その僅かな反応に愛しさがこみ上げ、思わず笑みが浮かぶ


「分かってんなら、良い」

そして、ミユの答えにもその反応にも俺は満足して、先ほどまでの憤った気持ちもさっぱりどこかへ消えてそう言えば、ミユはチラリと視線をこちらに向け、照れくさそうに笑みを浮かべた

しかしすぐに少し頬を膨らませると、ミユは俺から視線を斜めに外し口を開く

「もう、エース隊長のお世話はしません」

「んな冷たいこと言うなよ」

「え、言ってること矛盾してませ・・・?!」

俺の言葉に訝しげな表情をして振り返ったミユに、俺は素早く顔を寄せ少し強引に唇を押し付け、その距離を0にした目の前の愛しい彼女は目をまん丸にしていた




「ミユと過ごせる時間が増えんのは俺にとっちゃ好都合だからな」

「…っ」


「ようは気持ちの問題だ」と唇が触れるか触れないかの位置で言ってから再び、「すごい勝手ですね」と言いながらも照れ臭そうに微笑むミユに今度は長く深く口付けをする

自分勝手なこと言ってんなと思いながらも、そんな俺を拒むことなく、戸惑いながらも俺を掴む手に力を込めて必死に俺を受け入れてくれるミユが嬉しくて愛しくて

また一歩、俺達は歩み寄れた気がした





















だが、不意に感じる背後からのいくつもの視線に、俺はミユから慌てて体を離した



「げっ!」

「えっ?!」






そして振り返った先にはマルコとサッチを先頭に大勢のクルー達の姿










(朝っぱらから食堂の入り口でイチャイチャしてんじゃないの!)
(時と場所を考えろい!)

(エース隊長・・・何て羨ましいことを!)
(何か俺・・・朝飯食える気しねぇ)

(お、お前らいつから・・・)
(いっやぁぁ!!)

end

*あとがき*
オープンいちゃいちゃ(笑)今後もこんな感じになっていくと思います←
時系列は目が覚めてすぐぐらいで。
20110615
 

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