時を超えて

□もう一つの再会
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「ミユ、朝飯食いにいくぞー」

「はーい」

空は快晴、波も穏やか

モビーディック号は今日も穏やかにグランドラインを進んでいた

今日の朝御飯は何かなーなんて考えながら、争奪戦にも似た朝食に意気込み、あたしは扉の前で待っているであろうエース隊長の元へ足を進めた


ガチャ

「エース隊長おはようございまっ…!?」

「ミユ!」

「えっ!」

扉を開けた瞬間、あたしの元気な挨拶を遮ったエース隊長の声が響き、同時に腕を引かれた

何が起きたかさっぱり分からず、だけどエース隊長に強く抱き締められ一気に熱が上がる

「あの、エースたっ…」







ドガァン







「え?」







もう一つの再会






「…えっと」

巨大な爆発音と爆風に、あたしはエース隊長に抱き締められながら顔だけをそちらに向けた

そして驚愕する


「あ、あたしの部屋が無い!」

「ちっ、敵襲か?!」

振り返った先にはあたしの部屋があった場所で、現在は見るも無惨に木っ端微塵となっていた

プスプスと焼け焦げた臭いから、砲弾を受けたのだと言うのはすぐに分かったが、なにぶん急すぎて頭がついていかなかった(あたしの部屋ー)

「ミユはここで待ってろ」

「え、あ、あたしも行きます!」

パニックするあたしとは裏腹に、エース隊長は素早く甲板へと走り出したのであたしも後に続いた

くそーあたしの部屋を木っ端微塵にしたやつ許せない






「おい、見張りは何やってんだ!」

「あたしの部屋がー」

甲板に出てすぐ、エース隊長の鋭い声とあたしの情けない声に、すでに甲板にいたマルコ隊長が顔だけこちらに向けた

「ちょうど見張りの交代ん時だったみたいだよい」

「…まさか敵はそこまで把握して」

「あたしの部屋ー!」

エース隊長もマルコ隊長も表情を険しくするが、あたしとしては部屋を破壊されたことが許せない

「部屋?」

「あぁ、ミユの部屋に砲弾が直撃したんだ」

「そりゃ災難だったよい」

「災難なんてもんじゃないですよ!しかもあとちょっとでもエース隊長が呼びに来るのが遅かったら…大ケガでしたましたよ!」

「そこは人として死んどけよい」

パニックのあたしを他所に冷静に突っ込むマルコ隊長だったが、あたしは兎に角部屋を壊されたことに腹が立って仕方がなかった

「とにかく!敵船はどこですか!」

「あれだよい」

気だるそうに呟いてマルコ隊長が指差した先へ視線を向けると、そこには何とも可愛らしい花?を携えた船が一隻

黒い旗を掲げていることから、海賊船であろうことはすぐに判断できたが、船首についている可愛らしい花?のつぶらな瞳に一瞬だけ戦意をそがれた

「うちのモビーの方が可愛いもん」

「何の葛藤をしてんだ」

可愛さでは負けないんだからと敵船を睨んでいればエース隊長の呆れた突っ込みが入った


「とりあえず、あの船から砲弾が飛んできたのは確かだ」

「見かけねぇ船だな」

マルコ隊長もエース隊長も船の出方を伺っているように敵船を見据えているが、直接の被害者であるあたしはどうにもそれがもどかしくて仕方が無かった

「分からないなら確かめにいきましょう」

「は?」

「あたしに行かせてください」

「何を躍起になってんだよい」

「被害を受けたのはあたしです!」

呆れ顔のマルコ隊長に、あたしは負けじと言葉を続ければ、マルコ隊長は少し何かを考えた後、呆れた様にため息をついた

「よし、分かったよい。ミユ、様子を見に行ってこい」

「了解です!」

マルコ隊長のよしが出たところで、あたしは急いで単身敵船(もはやこの呼び方がふさわしい)に乗り込もうと一歩を踏み出したが、それは素早く掴まれた腕によって阻止された

驚いて振り返ると、そこには険しい顔をしたエース隊長の姿

「待て待て、一人で行く気か?」

「はい!だって喧嘩を売られたのはあたしなのであたし一人で撃破して見せます!」

「喧嘩売られたって…」

「あたしの部屋が木端微塵なんですよ!これが喧嘩を売られたと言わず何と言うんですか」

呆れた表情を浮かべるエース隊長だったが、あたしがこの船にお世話になった頃から隊長各以外で特別に与えられた一人部屋で、エース隊長との思い出が詰まったアルバムだってあったというのに、その部屋を木端微塵に粉砕されて、ひと暴れしないと気が済まないというものだ

しかし、相変わらずエース隊長は腕を離してくれなくて、あたしは首をかしげる

ここは隊長として「よし、行ってこい」と言ってもらえると思っていたのに、予想外の反応だ


「あのー…エース隊長?」

「はぁ…止めても無駄か」

「はい?」

「たく、言い出したらきかねぇからな」

「え、えっと…」

「マルコ、俺も行くから後頼む」

「あぁ、さっさと行ってこいよい」

「へ?」

何やらぼそぼそと呟いたかと思うと、エース隊長はマルコ隊長にそういうと、あたしの方を真っ直ぐと見据え、少し怒った口調で言った

「俺も行く。さっさと終わらせて朝飯食うぞ」

「えっと…エース隊長も行くんですか?」

何だか予想外の展開過ぎて思わずそう口にすれば、エース隊長は益々眉間に皺をよせ、そしてあたしの頭にその大きな手を乗せると、ぐしゃぐしゃっと思いっきり髪を乱された

「わわっ」

「自分の女を敵地に一人乗り込ませる男がいるか、バーカ」

そして聞こえたエース隊長のちょっと照れくさそうな声に、あたしは乱された髪を整えながらその言葉を理解してみるみる頬が緩む

つ、つまり、エース隊長はあたしのことを心配してついて来てくれるんだ!どうしよう、すごい嬉しい!!


「エース隊長!ありがとうございます!」

「…さ、さっさと行くぞ!」

エース隊長に飛びつき、もうこれでもかと言うぐらい緩んだ顔でそう言えば、エース隊長はあたしを抱えストライカーに飛び乗った

部屋は壊されたけどこんな幸せになれるなら、部屋の一つや二つ壊されたっていいかな、と思ったのは一瞬で


「あー!エース隊長!敵船が逃げました!」

「逃げてんのか誘ってんのかはしらねぇが、追うぞ!」

「はい!」

モビーから遠ざかっていく敵船を確認した瞬間、喧嘩を売っておいて逃げるその姿勢にあたしの怒りは再燃し、エース隊長の腰にがっしり腕を回すと、エース隊長の能力でストライカーは走り出した


「ん…あの旗、どっかで見たことあるよい」

そのマルコ隊長の呟きはあたしたちには決して届くことはなかった






「おかしいなぁ〜」

敵船を追いかけて数十分が経過した頃、ある島へ向かっていた姿を最後に敵船を見失ってしまった

そこで、あたしたちはその島に上陸したであろう敵船を追って島に上陸したのだが、それらしき海賊船が見当たらず途方に暮れていた

「あんだけでかい船ならすぐに見つかりそうだがな」

「そうですよね…しかも可愛い花までついてたし…あ、いや、モビーの方が断然可愛いんですけどね!」

「いや、そこは聞いてねぇし、比較もしなくていい」

そう言ってエース隊長は呆れた様に顔をするけど、あたしにとってあれほどモビーと張り合う可愛さの船首と出会ったのは初めてなので多少むきになってしまう

そんなことを考えながら、海岸を歩き敵船を探していると何やら前方からやってくる大きな砂埃

あたしとエース隊長は顔を見合わせ、そして再び前方から迫ってくる砂埃に目を向け、そして目を丸めた

「あれは…」

「間違いねぇ、海軍だ!」

「で、でもなんであんな大人数…」

「良く分からねぇが何かを追ってこっちに走ってきてることには間違いねぇな。厄介ごとに巻き込まれる前に隠れるぞ」

「あ、はい!」

エース隊長の言う通り、こんなところで海軍を相手にしている暇はないので、近くに岩場に隠れその場をやり過ごすことになった

でもあんな大人数の海軍に追いかけられるってことはよっぽど名のある悪党なんだろうな、と頭の隅で想いながら何となく興味がわいて岩陰から顔を覗かせた

「おい、あんまり顔出すと見つかるぞ」

「大丈夫ですって、海軍は追いかけてる相手に夢中みたいですし…」

そうしてエース隊長の忠告も聞かずに身を乗り出し、一体どんな人物が追いかけられているのか段々と近づいてくる砂埃に目を凝らす

そして追いかけられているであろう人物があたしたちが隠れている岩の目の前で立ち止まった時、あたしは目を丸めた


「おっかしいな、皆どこ行ったんだ?」



そう言ってキョロキョロと辺りを見渡す目の前の少年に、その見知った顔に声が出なかった

真っ黒な髪に乗ったその麦わら帽子、背は伸びているけど幼い頃の面影を残したその顔

「ル…」

「ルフィ!」

その見知った懐かしい顔に、あたしがその名を呼ぼうとすれば、背後から聞こえるその名に驚き振り返ると、そこには驚いた様子のエース隊長がいて

「ん…あ!エース!エースじゃねぇか!!」

そして呼ばれた少年、ルフィはエース隊長の姿を捉えるとそれはそれは嬉しそうに笑って近寄ってきて、その笑顔は小さい頃から変わらないなぁと思ってホッとする気持ち


「お前何でこんなとこに…」

「いやぁ、それがさ、大砲の練習をしてたら他の船に…ん?」


エース隊長の問いかけに頬をかきながら答えようとしていたルフィだったが、不意にあたしと目が合い、今ではあたしよりも大きくなったルフィを見上げヘラリと笑ってみる

ルフィは小さかったからもしかしたらあたしのことを忘れているかもしれない、そう思うとちょっと寂しかったけどこうして会えたことが嬉しくてあたしはルフィの目を真っ直ぐと見据える

「ルフィ…あの…ひさしぶ…!!?」

「ミユ!!」

「!」

そして感動の再会かと思いきや、次の瞬間には思いっきり抱きしめられていた

それはそれは力強く、一瞬意識を失いかけた

「ミユだ!本当にミユ何だな!うひょー!本当に会えた!エースの言った通りだな!」

「ル、ルフィ…分かった、分かったからちょっと力を緩めて…」

「ミユは生きてたんだな!俺、すっげー嬉しいぞ!!」

「うん…分かった、分かったから力を…」

ぎゅーっとそれはそれは力強い抱擁に、ルフィと会えたことやこんなに喜んでくれていることは本当に嬉しいのだが、いかんせん力が強すぎてこのままでは絞殺される

何とかしてこの状況を脱しようともがいていると、不意に体が解放される

「ルフィ、そこまでだ」

「何だよエース!」

「何だよ、じゃねぇよ。ミユがお前に絞殺されるとこだったから助けただけだ」

「エ、エース隊長…助かりました」

「何言ってんだ!俺は絞殺そうとしたわけじゃねぇ!嬉しかったから抱きしめただけだ!」

「力加減ってもんを考えろ!」

「嬉しかったから仕方ねぇだろ!」

「あ、あの、二人とも…」

エース隊長がルフィの呪縛から解いてくれたおかげで体は自由になったが、次はエース隊長に抱きしめられ、そして頭上で交わされる言葉の応酬

小さい頃は負け負けだったルフィも今ではこんなにお兄ちゃんに口答えできるまでに成長したんだね、と何だかしみじみ思っていたけど、今はこんな口論をしている場合ではない

「いたぞ!あそこに麦わらとその一味だ!」

「捕まえろー!」

「ゲッ!海軍が追い付いてきた!」

「ルフィ、お前が責任もって撒いて来い」

「やだ!俺はミユと一緒にいる!」

「お前が連れてきた厄介ごとだろうが!自分のことは自分でケリつけろ!」

「いやだ!俺はミユと一緒にいるって今決めたんだ!」

「この…わがまま言ってんじゃねぇ!」

「やっと会えたんだ!もう離れねぇ!」

「や、だから言い合ってる場合じゃ…」

何でいきなり喧嘩してるのこの兄弟は、こんなことをしている間にもどんどん近づいてくる海兵たちにあたしはもうこの状況を止めるのではなくとりあえずこの場を逃げ切ることに専念しようと決め、二人の手を取って走り出した


「ほら、喧嘩してないでとにかく逃げる!」

「ミユ、今のはエースが悪いだろ!?」

「だから、お前はいつまでもミユに甘えんな!」

「でも、今のはエースが悪い!」

「んだと、餓鬼が!?」

「もー!喧嘩は両成敗でしょっ!!」

走り出しても言い合う二人に、あたしがそう言えば、不意に言い合いをやめる二人を不思議に思ってちらりと二人の様子を見れば、何だか嬉しそうに笑っていて

「二人とも、何で笑ってるの?」

「や、何つーか」

「ニシシッ、餓鬼の頃もそうやってミユに怒られたなって思い出したら何か嬉しくなった!」

エース隊長は少し恥ずかしそうに頬をかき、ルフィは満面の笑みでそういうので、そう言えば二人はよく喧嘩みたいな取っ組み合いをしてはこんなやり取りを交わしていたな、と思い出すとあたしの頬もまた懐かしくて緩んでいた

「待てー!」

しかし懐かしさに浸っている暇はなく、背後から聞こえてくる海兵たちの声に、あたしは再び足を速めようとすれば、不意に両腕を掴まれた


「よしっ、ここじゃゆっくり話もできねぇしとりあえず海軍を撒くぞ、ルフィ!」

「おうっ!」

「え?急に仲良し?」

両腕をエース隊長とルフィに掴まれ、先ほどまで喧嘩していたのが嘘のように走り出す二人に引っ張られながら、あたしは改めてルフィに出会えたことに嬉しく思いながら足を進めた


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