時を超えて

□恋の試練?
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「わぁぁぁん!」

「待て、誤解だ!」




平穏だったモビーディック号に木霊するミユの泣き叫ぶ声とエースの焦った声に、それを聞いた全員が顔を見合わせた




恋の試練?



「一体何事だよい?」

冒頭の声を聞いた一人であるマルコが、面倒臭そうに頭を掻きながら甲板に出て近くにいたクルーに尋ねると、そのクルーも首をかしげ「さぁ」と呟きその声の主達の方へ視線を向けた

マルコもそれに倣い視線を向けると、そこには大股で歩くミユと、それを焦った様子で追いかけるエースの姿があった


「ミユ、待てって」

「嫌です、来ないでください!」

「なっ・・・だからあれは誤解だっつってんだろ!」

珍しくミユが怒っているようで、止まる様子のないミユの腕を掴んでやっとその動きを止めると、エースは少し怒鳴るようにそう言ってミユの正面に立った

「・・・現行犯なんですけど」

「俺には身に覚えがねぇ!」

「でも・・・でも確かにあったじゃないですか!」

「俺はしらねぇって言ってんだろ!」

「信じられません!」

ミユの言葉が終わった後、お互いに口を閉じにらみ合う二人に、今まで唖然とその様子を見ていたマルコが我に返り、二人に近づいていった


「おい、一体何の騒ぎだい?」

「マルコ隊長・・・」

「べ、別になんでもねぇよ」

にらみ合う二人に声をかければ、ミユは縋るようにマルコを見つめ、エースは視線を彷徨わせる

しかし、エースの返答が気に食わなかったのか、ミユは下げていた眉尻を吊り上げるとエースを一度睨みつけ、すぐにマルコに詰め寄ると口を開いた


「エース隊長がエロ本を所持してたんです!」



「・・・は?」

「なっ・・・!」

そして訴えるように叫んだミユの言葉にマルコは目を丸め、エースは慌ててミユの口を両手で塞いだ

「んんっ!・・・ん、ちょ、何するんですか!」

「おまっ・・・声がでけぇよ!」

「事実を言ったまでです!」

「だから誤解だって言ってんだろ!あれは俺のじゃねぇ!」

「でもエース隊長のベッドの枕の下から見つかりました!」

「そ、それはだな・・・」

「エース隊長の変態!ドスケベ!エロ魔人!!」

「エ、エロ魔人・・・」

再び始まる言葉の応酬に、唖然としていたマルコは再び我を取り戻すと、腕を組んで盛大なため息をついて哀れむような目で二人を見た

ギャンギャンと言い合う二人を見てその内容のくだらなさに呆れてモノも言えず、たかだかエロ本の1冊や2冊で何を騒いでいるのかとむしろ聞きたいぐらいだとマルコは思った

「若さかねぇ」

「お、何騒いでんだ?」


ここまで騒げるミユに最早感心さえしそうになっていたところにやってきたのはサッチで、騒いでいる二人を見て笑いながらマルコに問いかけてきた

マルコはそんなサッチを横目でチラリと見た後、顎でミユとエースの方を指し、サッチはそれに倣って二人へと視線を向けた


「エース隊長がエロ本を見るような人だとは思っていませんでした!軽蔑です!」

「けっ・・・だから見てねぇって言ってんだろ!」

「まだしらばっくれるんですか!好きなページに折り目までつけてたくせに!」

「折り目?んなのつけた覚えねぇよ!」

「だってついてたんです!」

「俺は無実だ!そんなもん興味もねぇ!」

「でもあったんだもん!この目で見たんだもん!」

「な、泣くな!」

涙目になりなが睨みつけるミユに、ミユの涙に弱いエースは一瞬たじろぐ

そして、その会話をジッと聞いていたマルコは「そう言うことだ」と言って隣にいたサッチに呟いた


「っ・・・」

「サッチ?」

何の反応も見せず俯き何かを耐えるように震えるサッチに、マルコはどうしたのかと声をかけたが、次の瞬間、サッチは盛大に噴出して笑い出した


「ぶはっ!だはははは!やべー・・・ひぃっ・・・腹いてェ!」

「?」

突然笑い出したサッチにマルコは心底嫌そうな顔をした後、何かに気づいたように片眉を吊り上げると再び呆れた表情を浮かべた


「つまり、お前の仕業だってことかい」

「人聞き悪いこといってんじゃねぇよ。俺はただ、エースの部屋の枕の下に雑誌を置き忘れただけだ」

「・・・わざとだろい?」

「さぁな」

「・・・」

未だに腹を抱えて笑うサッチにマルコはもう呆れてものも言えなかった

「女と男にゃ、こぐらいの試練は必要なわけよ」

「試練ね・・・」

「いつも仲良しこよしの刺激の無い恋愛なんてつまんねぇだろ?」

「・・・つまりは、羨ましいんだろい?」

ヘラヘラ笑いながらさも自分の行いを正当化しようとするサッチにマルコがポツリとつぶやけば、サッチは動きを止めたかと思うと、先程までのヘラヘラ顔を恐ろしい形相に変えマルコに詰め寄った


「あぁそうだよ!朝から晩までいちゃいちゃいちゃいちゃ、人目も憚らず幸せそうにしてるあいつらが羨ましいんだよ!」

「悪いか!」と言って若干涙目なサッチにマルコはドン引きした

確かに毎日飽きずに一緒にいて、時には目を覆いたくなるような甘い時間を過ごしている二人に羨ましいというか迷惑というか、そう言った感情を抱いたことはあるが、今回のサッチの方法は聊か幼稚でアホらしくも感じたマルコは本日何度目かの盛大なため息をついた


「それにしたって他にやり方があるだろうよい」

「はっ、いいじゃねぇか、俺様の作戦は見事にはまってるみたいだからな」

恐ろしい形相から口端を吊り上げニヤリと笑み、未だに言い合いを続ける二人に視線を向けるサッチに、こいつはいつか痛い目を見るな、と思いながらそろそろこの話も収拾をつけなければ面倒なことになるな、と感じマルコはどうしたものかと頭を捻った


「そんなに巨乳のお姉さんが良いんですか?」

「おい、そんな真剣な顔で何聞いてんだ?」


「だって、折り目のところは巨乳のお姉さんばっかりだったもん!」


「サッチ・・・お前のタイプか?」と聞かなくても分かるのであえて聞くことは無かったが、代わりに面白そうに二人を見るサッチをジト目で見るマルコ

「あのなぁ・・・」

「そりゃ、あたしは巨乳でも綺麗でもないけど・・・あんまりです!」

「おい、俺の話を聞け!!」

「もういいです・・・エース隊長の気持ちはよぉく分かりましたから」

「な、お、おい・・・ミユ?」

エースの言葉など既に耳には入っていないようで、ミユは一度こぼれそうな涙を腕で擦るとキッとエースを睨みつけ、エースはそんなミユに何を言われるのかと焦る


「エース隊長なんか、エース隊長なんか・・・・」


グッと手を握り締め、俯きながら唱えるように呟くミユに、エースはゴクリと息を飲み、サッチは完全に楽しそうにその後に来るであろうエースを拒絶する言葉を待ち、マルコはそんなサッチを見て本気で哀れだと思った

そして、そんなそれぞれの想いなど知る由も泣くミユが勢いよく顔を上げた


「それでも大好きです〜」

「「「は?」」」


とうとう泣き出したミユの言葉にエース達は声を揃えた

わーんと子供のように泣きだしたミユに、唖然としていたエースは我に返ると小さくため息をつき、その両肩に手を置きミユの目を真っ直ぐと見据えた


「ミユ、よく聞け」

「何、ですか・・・?」

泣きじゃくりながらもミユもエースの真剣な表情に視線を逸らすことはせず、しかし未だに怒ったような口調のまま問い返せば、エースは軽く息を吸うと意を決したように口を開いた


「俺はミユに嘘はいわねぇ」

「はい・・・」

「俺の部屋には確かにエロ本はあった。それは認める」

「・・・はい」

エースの言葉にさらに涙を零すミユに、エースは「泣くな」と言って困ったように笑ったミユの目から零れる涙を指で拭った


「だけどそれは俺のじゃねぇ。俺はその本を初めて見たし中も見た覚えもねぇ」

「そんな俺が折り目をつけられるわけもねぇ」と至って真面目に呟けば、ミユは一度ズズッと鼻を啜ると自分で涙を拭った


「本当、ですか?」

「あぁ、言っただろ?嘘は言わねぇって。それとも、俺のこと信じられねぇのか?」

「そう言うわけじゃないんですけど・・・」

困ったように呟くエースに、ミユも信じたいが実際にエースの部屋で現物が見つかったことが邪魔して中々素直に信じることが出来ず眉間に皺が寄る

エースはそんな半信半疑のミユの表情ををみてミユの肩に手を置いたまま一度顔を床に向けると、「あ〜」と小さく声を出し、顔を上げた


「エース・・・隊長?」

顔を上げたエースの表情は眉間に皺が寄り照れているようで、ミユは首を傾げて訝しげな表情をすれば、エースはミユの目を見据えると口を開いた



「俺が興味あんのはミユだけだから」



「他は全く興味ねぇ」と、照れくさそうに、しかし、力強くそう言い切ったエースにミユは目を大きく見開き、言われた言葉を理解すると同時に顔を真っ赤に染めた

「これでも、信じてもらえねぇか?」


「・・・」


そんなミユを見て困ったように笑うエースに、ミユは口を紡ぐと勢いよくエースに飛びついた


「信じます!疑ってごめんなさい」

ギューっとエースを抱きしめ、その胸板に顔を埋めるミユとその言葉に、エースは一瞬驚きながらもホッと息をつきミユを抱きしめ返した








「はぁ、どうなることかと思ったぜ」

「見てるこっちがハラハラしたなぁ」

「ま、結局最後はいつもどおり見せ付けられただけって感じだけどな」

嬉しそうに甲板のど真ん中で抱き合う二人を、遠巻きに見ていたクルー達は、一段落したその様子にホッとため息をつき顔を見合わせて苦笑していた

「結局いつもどおりだよい」

「・・・な、何で」

そして同じように間近でその様子を見ていたマルコとサッチ

マルコは騒ぎが収まったことにホッと胸を撫で下ろし、隣でワナワナと震えるサッチの肩を軽く叩きミユ達に背を向けた

数秒後に「何でこうなるんだー!」と、目の前でいつも以上に見せ付けられたサッチの哀れな叫び声が聞こえた


「触らぬ神に祟りなしってな」


マルコはそれを聞きながら「あの二人にちょっかい出したのが間違いだよい」と呟き、再び海に向かって泣き叫ぶサッチを見て肩を竦めて笑った














(サッチ、事情は聞いたぜ)
(な、何のことだ?)
(しらばっくれるんじゃねぇ!)
(待て、エース!ほんの冗談じゃねぇか!)
(うるせぇ!骨も残らねぇと思え!!)

(うわっ、あちっ、待て、エース!うぎゃぁぁぁ!)

(サッチ、安らかに眠れよい)

end


●あとがき●
なんとなく思いついたネタ(´∀`)
エースはきっとエロ本とか興味ないけど健全な男子の知識は持ってるって信じてる←
サッチはこの後丸焼きになりましたとさ♪
20110921

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