時を超えて

□ずっと一緒に
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一年を締め括る宴が始まった




ずっと一緒に



「だぁ!食いすぎたっ!」

12月31日、今年もあと僅かになった頃、新年になる前に既に俺の腹は満たされていた

昼ごろから始まった宴は辺りが真っ暗になっても依然、勢いは衰えることなく、俺達の縄張りである島へ停泊しているので、酒も料理も続々とやってきて、その勢い止まらず喉に通していれば、ふだんは滅多にやってくることの無い満腹感がやってきて甲板に仰向けになっていれば、同じように隣に寝転がったミユ

「エース隊長、食べすぎですよ」

「お前も人のこと言えねぇだろ」

「エース隊長よりは食べてないですもん」

「元の胃袋のでかさが違うだろ」

満点の星空が広がる空を見上げながらそう言って笑い合う俺達

「っても、今日はさすがに食いすぎた…腹が苦しい…」

「エース隊長が苦しいなんて相当…って、顔が真っ青ですよ!!」

笑っていたのも束の間、徐々にやってくる腹の苦しさにミユはこちらを向いて目を丸める

それを見て「大丈夫だ」と言おうとしたが襲ってくる吐き気に俺は瞬時に立ち上がりトイレ…ではなく海へと身を乗り出した









「はぁ…もったいねぇことした」

「何言ってるんですか!こんなになるまで食べるエース隊長が悪いんです」

「しかたねぇだろ!肉が俺を呼ぶのが悪ぃ」

「何ですかその理屈は」と言いながら笑うミユの膝に頭を預け、俺は吐いたことによってスッキリした胃の辺りに手を乗せ息を吐く

「今年もあと少しですね」

「ん…あぁ、そうだな」

そんな俺を見てミユは微笑みながらそう言って、俺の髪を撫でた

「今年も色んなことがありましたね」

「あぁ」

「毎年色々あるけど、今年は特別色々ありましたね」

ふふっと少し照れくさそうに微笑んで言うミユの言いたいことが何となく分かったが、俺は視線を泳がせて「そうだな」と言うだけに留めた


ミユが海に落ちて

俺の餓鬼の頃へタイムスリップして


そして俺達はやっとスタートラインに立つことが出来た気がする



今こうやってミユの一番近くにいられることがすげぇ嬉しい、何てガラにもなく感じている俺がいる



「この先何年も、きっと色んなことがあって色んな想いをして、色んな出逢いがあって、色んなことを感じるんですよね」

「…あぁ」

そんな物思いに耽っていれば、ミユは空を見上げながらどこと無く嬉しそうに呟くので、俺は少しだけ不安と寂しい気持ちになった


今こうして一番近くにいる俺だけど、これから先もずっと一番近くにいられるのだろうか


ミユの言うように、毎年何かあって、何か想って、新しく出逢って…そんな繰り返しの中でミユは果たして俺を一番に想い、今のままの気持ちでいてくれるのか

情けなくもそんな気持ちが出てきた




「エース隊長」

「ん?」

空を見上げるミユを見ながら、そんなことを想っていると、不意にミユがこちらを見て視線が交わった

意識が浮ついていた俺は少し驚いたが、それよりもミユの表情が少し悲しそうに見えて、俺は戸惑いながらもその目を見据え返した


するとミユは、悲しそうな表情のまま少しだけ笑うと、ゆっくりと口を開いた



「これから先、どんなことがあってもエース隊長はあたしの一番近くにいてくれますか?」




紡がれたその言葉に、俺はただただ目を丸めることしか出来なかった

その瞳は不安に揺れ、俺の言葉を縋るように待つその姿に、自分自身を鏡で見ているような感覚になった


「はっ…」

「な、何で笑うんですか!」

そして思わず出た笑い声に、ミユは驚いたように、不貞腐れたように声を荒げたが、俺は暫く声を上げて笑った


なんだ

そうか


ミユも同じ気持ちだったんだな




それが分かっただけで、先程までの重い気持ちが嘘のように軽くなり、俺は笑うのを止め起き上がった


「エース隊長?」

「なぁ、ミユ…」

「はい…?」

いきなり起き上がった俺に相変わらず不貞腐れたような声を飛ばすミユ

俺はすぐにミユに向き直り、そして自然と緩む頬をそのままに口を開いた



「そんなん、当たり前だろ」



自然と出たその言葉に、ミユは大きく目を見開き放心していたが、すぐに満面の笑みを浮かべた


「ふふっ、1年の終わりにすっごく幸せになれちゃいました」

「そりゃ良かったな」

ニヤニヤしている頬を押さえながら、少し赤くなった顔でそう言うミユに、俺まで頬が緩んだ

幸せそうな顔をするミユを見ると自分まで幸せな気持ちになるから不思議だけど、それさえ嬉しく感じる



そうして互いに笑いあっていれば、甲板の方からカウントダウンをする声が聞こえてきた


「え!?もうそんな時間!?」

「んじゃ、俺達もカウントダウンしに行くか!」

「はいっ!」

驚いているミユの腕を引いて立ち上がり、俺達はカウントダウンの始まった甲板へと足を動かした



「3・2・1…ゼロー!!」



しかし甲板に着く直前、カウントダウンが終わり辺りでは盛大に酒を開ける音が鳴り響いていた


「あー…間に合わなかったな」

「そうみたいですね」

ポカンと二人で立ちすくみ、そして目の前で再び盛り上がりを見せる宴を見て、また笑いが込み上げてきた

「ま、仕方ねぇな。とりあえずまた食うぞ!」

「はいっ!…っと、その前に」

「何だ?」

勢いよく宴会へ向かおうとすれば、腕を引かれたので何事かと振り返った瞬間


唇に触れた温もりに俺は目を見開いた






「エース隊長、お誕生日おめでとうございます」


「あと、あけましておめでとうございます」と言って目の前で照れ臭そうに微笑むミユ

驚いた俺は数秒目を見開いたまま停止していたが、「じゃ、宴会行きましょー!」と言って俺の腕を引くミユの腕に我に返り、今度は自分から腕を引いた


「わっ!」

そして驚くミユをそのまま近くの階段の裏へ誘い、壁を背に立たせた





「あれじゃ、足りねぇなぁ」

「え、あ…それは失礼しました」


壁に片腕を付き、もう片方の手でミユの顎を掴んで言えば、恥ずかしそうに視線を泳がせ照れ笑いするミユの唇へ自分の唇を押し付けた






これから先のことは分からねぇ


だけど


毎年こんな風に年を重ねてぇ、と心から思いながら俺は思う存分ミユとの時間を堪能した











(早く行かないと食べ物なくなっちゃいますよ?)
(今日は目の前にごちそうがあるから良いんだよ)
(えっ?あたしですか?!)
(安心しろ、まだ理性は残ってる)
(へ??)

end

●あとがき●
このエース君の強固な理性が2012年はどうなるかお楽しみを(笑)
今年もよろしくお願いします\(^^)/
 

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