短編夢

□恋のハプニング
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「最悪だ」

友達と遊びに行った帰り道、夕方だと言うのに暑すぎる帰路に堪らずコンビニに立ち寄りアイスを頬張りながら歩いていたところ、突然足元がぐらつき足首を捻って壁に手を付いた

「これ気に入ってたのになぁ」

足元を見れば、かかとが外れたお気に入りのサンダルの哀れな姿と、反動であたしの手元から落ちたアイスが地面の上でその暑さを物語るかのように溶け出していた

あたしは壁に体を預けながら残念すぎるその光景に盛大にため息をついた

家まではまだ結構な距離があって、この状態のサンダルで、しかも足を捻っているため帰る気力が一気になくなった


「何やってんだ?」

「あ、ナイスタイミング!」

壁にもたれながらどうしたものかと腕を組んで思案していれば、そんなあたしの顔を覗きこむそばかすの見知った顔

そのエースの顔を認識した瞬間、思わずそう言って満面の笑みを向ければエースは一瞬嫌そうな顔をした

「何よその顔」

「や、嫌な予感がしたんでな」

「失礼な、まだ何も言ってないじゃない」

「まだってことは何か言うつもりなんだな」

「うん!エース、家まで荷物持ちして!」

「は?」

うん、我ながら名案だ!と思ってエースに鞄やら今日買った服の入った袋を突き出せば、エースは意味が分からないと首をかしげたのであたしは先ほどの経緯を簡単に説明した


「と、言うわけだから・・・って、そこ!爆笑しすぎ!」

「いやー、お前太ったんじゃねぇの?」

「お黙り!」

お気に入りのサンダルだから、ちょっと履き過ぎただけで…決して太ったわけじゃないんだから!と心の中で思いながら未だに爆笑続けるエースを睨みつける

「ほら、もう笑ってないで荷物持ちお願いね!」

「おいおい、まだ引き受けるなんて一言も言ってねぇだろ?」

「今度駅前の新作アイス奢ってあげる」

「さっさと荷物をよこしな」

さっきまでゴネてたのが嘘のようにキリっとした表情で手を出すエースに、チョロいな、と思いながらも駅前の新作アイスは学生のあたし達にとっては中々の高級品のため代償はでかい

ちなみにエースとあたしは同じ高校の同じクラスってだけで特別親しいわけでもましてや恋人同士でもない、ただ単に他の男子より少しだけ気の合う友達って程度で、エースにとっても同様だろう

まぁ、あたしはそれ以上の気持ちを持っているんだけど


「でも、エースがたまたま通りかかってくれて本当に助かったよ」

「おう、感謝しろよ」

「感謝しておりますエース様」

「何かいいな、エース様って」

「そこじゃなくて棒読みで言ったことに突っ込みなさいよ」

そんなどうでも良い会話をしながらエースに持ち物を全て渡し、さぁ、家まで頑張って歩くぞ!と意気込んだ瞬間だった


「何やってんだ、早く乗れよ?」

「・・・えっ、何?」

目の前に現れたのはあたしに背を向けて片膝を突くエースの姿で、両手には先ほど渡した荷物を持っていて、呆然とするあたしを見てエースはキョトンとした

「何って・・・荷物持ちだろ?」

「あ、うん、そうなんだけど・・・その格好をみるとまるで背中に乗れといわれてるみたいで」

「その通りだろ?」

「えぇ!?」

首だけをこちらに向けて当たり前だとでも言うように見据えてくるエースにあたしは思わず声を上げてしまった

確か荷物もちを頼んだのであって、あたしまで運べとかそんな図々しいことまで言っていない(荷物持ちの時点で図々しいのは置いといて)

「荷物だろ?」

「喧嘩売ってんの?!」

唖然と立ちすくむあたしを見て、エースは馬鹿にしたように笑ってあたしを指差して呟くので、腹が立ったあたしはもうこうなったらあたしを背負うと言ったことを後悔させてやる、と思いエースの背中に乗ってやった(あたしの重さ馬鹿にすんな!)

「うわっ、重っ!」

「乙女に向かって言う台詞か!」

「乙女?」

「首を傾げるな!」

「アイス楽しみだな〜、やっぱトリプルだな!」

「話逸らした上に、何さりげに一番高いの望んでんのよ」

「トッピングはイチゴソースとチョコチップで…」

「女子か!エース君、話を聞こうか?だれもトリプルのトッピング付きを頼んでいいなんて言ってないから!」

あたしを背負って立ち上がったエースは新作アイスに夢を膨らませるので、そんなことされたら破産する!と思い抵抗すれば「ケチケチすんなよ」的な顔を向けられた(シングルでも十分ボリュームあるんですけど!)

そんな会話をしながら、エースはしっかりとした足取りで歩き出すので、標準体重ではあるが、人一人と荷物を軽々と持って歩くエースはやっぱり男の子なんだな、と思ったら瞬時に意識してしまって体が固まった

い、いかんいかん!黙ってたら意識しちゃう


「で、エースは一体これから何しに行くつもりだったの?」

「あぁ、マルコん家でゲームやるつもりだった」

「へぇ、暇だね」

「おまっ、その暇人のおかげで助かってる奴の台詞かよ」

「暇人なのは否定しないんだ」

「嘘は言わねぇ」

「無駄にカッコつけんな!あーマルコん家があたしの近所でよかった」

「感謝するポイント違うだろ!」

「でも、エースって意外と優しいんだね〜。あたし絶対見捨てられると思ってた」

「話変わってるしよ…つーか、お前から見た俺ってドンだけ鬼だよ」

「大丈夫、今は子鬼に見えるから」

「どっちみち鬼かよ!」

学校の時のようにふざけあっているあたし達だけど、あたしとしてはとっても会話に集中できる状態ではない

だってエースの思ったより広くて逞しい背中とか、少し汗ばんだ肌とか、いつもより近くに見えるその癖ッ毛とか・・・今までこんなこと無かったから本当に心臓がやばいぐらいドキドキしてて、エースにも伝わっちゃうんじゃないかって心配になる

「まぁ、あそこで見捨てなかったエース君に感謝してあげてもいいよ」

「何で偉そうだよ。つーかさ・・・好きな奴見捨ててく奴なんているかよ」

「あーそりゃいないね、好きな人だったら真っ先に助けるね」

「だろ?」

「うんうん・・・ん?」

照れ隠しに会話をしていたのはいいけど、ちょっと待てよ・・・今、エースは何て・・・

「好きな奴って言った?」

「・・・お前って、案外鈍いよな」

恐る恐る尋ねてみれば、エースは顔だけをこちらに向け心底呆れた表情でそう呟いてため息を吐いた

え、ちょ、何・・・それってもしかして


「エースってあたしのこと好きだったの?」


思わずそう呟けば、エースは一瞬目を見開いた後、顔を前に向けると「悪いかよ」と言って照れくさそうに呟いた

それを聞いた瞬間、あたしはまた唖然としてしまって、だけど次の瞬間には体中が熱くなって

「えぇぇ!嘘、ほんと?!何で!?」

「・・・本当、お前って雰囲気っつーか、色々台無しにしてくれるよな」

パニックのあたしにエースはそう言って苦笑すると、「ま、そう言うとこも好きなんだけどな」とサラッと言うので、あたしはもうこれは本当なんだと確信して、嬉しいやら恥ずかしいやらで無駄に視線を泳がせた


「好きな女じゃなかったら背負うどころか声さえかけねぇっつーの」


そして、決定的なこの言葉にあたしは必死にこれが夢じゃないことを祈った

あまりに突然の出来事に、あたしが何も答えずにいれば、照れ隠しなのかゆっくりと歩き出したエースが「で、返事は?」とぶっきら棒に問いかけてきたので、あたしはそこで意識を取り戻し、ふつふつとこみ上げて来る喜びに頬が緩んだ


「エース!」

「おわっ!」

そして、あたしはその喜びの勢いのままエースの首に腕を回して抱きついて、驚くエースを無視して口を開いた



「あたし、何とも思ってない男の背中には乗らないことにしてるの」

「!」

そう言って、照れくささのあまりギュッとエースの首を絞めるように抱きしめその首筋に顔を埋めれば、エースの足が止まった




「じゃあ一生、俺の背中しか乗れねぇな!」

「どうかなー?」

再び嬉しそうなエースの言葉に間髪要れずにそう言えば「そこは素直にうんって頷けよ!」と突っ込まれたが、あたしがそんな素直に可愛くするわけがないだろう、と内心思いながら「以後気を付けます」と言って舌を出してやった



「ま、そんなお前に惚れた俺も俺なんだけどな」

その呟きに、あたしは驚きながらも照れくさくって、笑みを携えながら「お互い様だよ」と呟けば、優しい微笑のエースがこちらを向いた







それは恋のハプニング




















(マルコに報告しに行こうか)
(ははっ、そりゃあさぞかし迷惑顔されるだろうな)
(だから行くんじゃん!)
(だなっ!)
(ついでに新作アイスも奢ってもらおっか)
(お前ってさ…いい根性してるよな)
(ありがとう!)
(ほめてねぇから!)

end

あとがき
お気に入りのサンダルが壊れたのでエースに元気付けてもらおうと思いました(^^)←え

20110729

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