ES21
□一度の許容、無限の免罪
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桜庭春人は浮かれていた。
ハードな練習から解放された久し振りの休み。
その上、芸能活動も運良く休み。
それはつまり、つれない恋人とのデートを意味する。
一応が付いてしまうところが悲しいが、進清十郎は一応彼の恋人だった。
そのはずだ。
彼は萎えそうになる心を奮い立たせて、携帯を握った。
進の明日の予定を確認しなければいけない。
恋人の浮気が発覚してからの、初めてのデート――気弱な性分でなかったとしても、断られはしないかと心配になるものだ。
「進?俺だけど…」
数度のコールで出てくれたことにまずはホッとする。
携帯の扱いに不慣れな進を、連絡が取れるまでにしたのは桜庭だった。
付き合い始めの頃の話だが、今でも携帯を見るとたまに思い出す。
あの頃は幸せだったなぁと、まるで今が不幸せであるかのように懐かしんだ。
進に憧れ、妬んでいた頃に比べれば、他の男の存在があるとはいえ、今は天国のようなものだ。
恋人という名の、側にいられる特権はプライドを売ってでも手放さなかった。
桜庭は、その判断が誤りだとは感じていない。
それほどまでに、進清十郎という男は、桜庭から遠いところにいる男だ。
「俺では誰だか分からんぞ、桜庭」
「分かってんじゃん」
そんな古典的なやりとりでも、進相手だと間違えて呼ばれることもあるから気が抜けない。
「明日、どっか出掛けない?仕事が久し振りに休みなんだ」
「ああ、構わない」
部活を除けば、忙しいのは桜庭の方だ。
これといった用事がなかった進は、桜庭が拍子抜けするほどあっさりと頷いた。