ES21
□禁煙宣言
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とある日。
今日は今日とて、阿含は管理人不在の安アパートで適度にだらけていた。
普段なら手頃な女とぶらついているのだが、虫の知らせか、その日は煙草を片手にニュース番組を流していた。
ギィ…。
突然、チャイムもなく、立て付けの悪いドアが開く音がした。
それを聞いて阿含は、慌ててベッドから身を起こす。
“彼”が玄関から部屋に進み入る僅かな時間で、寝乱れた髪型を整えた。
――おしっ。今日も俺様、完璧!
涙ぐましい努力である。
内心の阿含の気合いが終わると同時に、予想通りの男が堂々と入ってきた。
「よぉ、進」
挨拶された方は、驚きに軽く目を見張る。
「…いたのか」
本来なら家主の阿含が驚く場面だが、双方それは気にしていない。
以前から進は野良猫の風情で、ふらりとこのアパートに寄ることがあった。
大体において、それは阿含の留守中の出来事であり、ある時覚えなく部屋が整頓されていることに気付づいた阿含は、本気で幽霊の存在を信じかけた。
合鍵を渡したわけではないから、何らかの不正な手段によって入っているらしい。
躾の行き届いた軍用犬のような進だが、なぜか阿含限定で礼儀を欠く行動が目立つ。
――特別に思われているのか、単に人間扱いされていないのか。
前者としか思えない阿含は、それなりの注意を持って気ままな進の来訪を心待ちにしている。
(さすがに小便中に全裸で入ってこられたのはビビったけどな!)
ユニットバス故に、用を足していた阿含とシャワーを浴びようとした進が鉢合わせしたわけである。
その時は、動揺して指に引っ掛けた阿含とは対照的に、『いたのか、阿含。シャワー借りるぞ』と進は平然と目的を遂げていた。
明らかに、人間扱いされていない…気がするが、誘ったんだと阿含の脳内では処理されていた。
そんなわけで、阿含がいても存在を無視して、したいようにしている進なのに、その日だけは違った。
じっと阿含の顔を見つめ、大股で側に寄ってくる。