RKRN駄文
□雪柳(留伊)
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ああ、またか。
伊作は心の中でため息をつく。
もうあと数十メートル先に、塹壕の掘り跡があると言うのに、周りにいる誰もが気付かないなんて。
しかもその塹壕は、表向き埋められてはいるものの、上から土を掛け入れただけに過ぎず、誰かが一歩踏み入れれば落とし穴の如くその主を誘い込み、多少なりとも傷を負わすに違いない。
自分を含めここに居る者は皆、まだ卵とは言えども忍であると言うのに、何故気が付かないのだろうか。
忍術学園に入学して暫くの間は不思議に感じていたが、さすがに何度も同じ場面に出くわすと呆れが生じ、学年が上がった今では笑顔の裏で冷ややかな眼差しを浮かべる事しか出来なくなった。
「早く食堂に行こうよ。お腹すいちゃった」
思ってもいないそれらしい台詞を口にして、伊作が駆け出すと、皆口々に言葉を発した。
「いつもみたいにこけても知らねえぞ」
「また落とし穴あったらどうするんだよ」
笑いを含んだ声を背後に受けながら、伊作は振り返る事なくそれらを無視して、勢いを落とす事なく塹壕の掘り跡に足を乗せた。
伊作が足を乗せた場所から表面を覆っていた土は崩れ落ち、彼を道連れとばかりに地中に落ち込んだ。
「………ふぅ」
誰かが傷を負わないようにと、こんな風にわざと先に罠に嵌まったのは、これで何度目だろうか。
怪我をしないように受け身の姿勢で落ちた穴の底で伊作は、面倒くさそうに深いため息をついてから、わざと忍装束や顔に土を塗り付けてから、助けを求める声を上げた。
「だから言ったのに…。お前は一人で行動しちゃダメだって」
「大丈夫?」
「さすがは不運と言われる保健委員だな」
伊作がわざと穴に落ちた事に気付きもしない者達は、知らぬうちに伊作に救われていた事も知らずに、心配しつつも口々に思うままを語り、笑い合う。
「…大丈夫だよな?」
ただ一人、心配も笑う事もせず、穴の底に座る伊作の無事を、その姿を見るより先に確信しながら手を伸ばした者。
「ありがとう。留三郎」
食満留三郎、ただ一人を除いて。
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