RKRN駄文

□雪柳(留伊)
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伊作にとって留三郎は不思議で、迷惑な男だった。

留三郎は性格も明るく社交的で、成績も良い上に見かけも良く、目立つ存在だ。
たまに世話を焼きすぎる面もあるが、当然のように友達も多く、いつも周りには人影があった。

なのに何故だろうか。
成績は落ちこぼれで、この学園では不運の代名詞にされている保健委員に所属し、避けられる対象となりやすい自分に事ごとく構ってくる。

忍として目立たないために落ちこぼれを演じ、避けられる為に不運を装っている伊作にしてみれば、そんな目立つ留三郎に隣にいられたのでは、自分の目的が果たせなくなるのではないか。
そう思うと、留三郎の優しさは伊作にとって、煩わしいものでしかなかった。

伊作の実家は代々優秀な城仕えの忍を輩出してきた家柄で、彼の父もそれに違いなかった。
そんな家系に生まれた伊作に、忍を目指す以外の夢など語る事も許されるはずもなく、彼は本来目指したいはずの医者になる夢をひたすら胸の内に隠したまま、今迄生きてきたのだった。

忍術学園に入学するように言われた時も、本当なら嫌だと言いたかった。
けれどそれを口に出来る状況は勿論の事、一番必要な勇気が伊作には欠けていたのだ。

一度入学してしまえば、落ちこぼれて学園から退学を申し付けられ追い出されるか、六年生まで進級し、無事に卒業するかのどちらかしかない。
伊作の能力の高さは既に家の者には知れてしまっている。ならば退学は明らかな怠慢の結果であるとすぐにばれてしまうだろう。
ならば無事卒業は出来たものの忍としての就職口が見付からなかった事にするのが一番怪しまれずにことなきを得るだろうと伊作は考えていたのだ。

六年間。これからの長い人生の中でたったの六年間を堪え凌げば自分の目指す医師への道が拓けるかも知れない。

その希望を胸に伊作がこの学園ですべき事は、目立ちすぎる事なく落第せずに済むギリギリの成績を取り続け、それを不自然なくやってのける事。それだけだった。

万が一ボロを出したり、見抜かれたりする訳にはいかない。
だからこそ親しすぎる友人も作らず、嫌われる事もなく広く浅く付き合っていきたいと考えている伊作にしてみれば、気が付けば隣にいる留三郎の存在は内心穏やかではなかった。

こんな内情がなければ心から仲良くなれたであろうとは思えても、彼を疎ましく思う気持ちはどうする事も出来ずに、常に伊作の胸の中に燻り続けていた。




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