Brotherhood☆ミ
□時間
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-「ひぃくん!ひぃくん!」
公園の砂場でお山を作りながら女の子が言う。それに対し男の子がお山の上に木の棒をさして答えた。
「なんだよぉー朝瑞…おぉ出来たぞぉ!」
「すごーい!!!これ!これ、ひぃくん?」
木の棒をさして女の子が言う。面倒臭そうな顔をして男の子は返す。
「ほっそくねーもん!俺はこの山に住んでんの!」
「そうなのー?あさも住むぅ!」
「え?ダメー!朝瑞はここ!」
砂場の端っこを刺されて女の子が大声を出した。その騒音に耳をふさいで大声で男の子も打ち消すと2人の母親たちが声をはる。
「陽多?お兄ちゃんでしょ?」
お決まりの言葉をぶつけられて『何がお兄ちゃん』なのか男の子にはわからない。そんな中で女の子は笑っている。
「ねぇ!ひぃくん!ひぃくん!」
「ん?」
うるせーよと言わんばかりの眉間のシワも女の子に向けられた目線は怪訝そのものだった。
砂場にお絵かきを始めた女の子が手を泥だらけにして笑う。
「大きくなったらね!ひぃくんのお嫁さんになるのぉ!」
「ひぃくんは嫁はいらないの!」
「えーなんでー?」
男の子は笑顔で返した。
「俺、かしゅぅになる!」
「かしゅぅ?」
「うん!お歌を歌って!1番になる!」
「あさもぉ!」
「朝瑞はダメ!」
「えーーーーー」
「じゃー、俺のファン第一号にしてやる!」
「うん!1号になるぅ!」
子供たちは笑い合いながら母親のもとに行った。
これは歌を歌うことが好きな男の子の物語です。…なんてね!
-時は過ぎて13年後。
「朝瑞ぃー!起きなさいよ!いつまで寝てるの?」
1階にいる母親が大声をはる。その声が耳触りだった。
「もう起きてるっつーの!この時間まで寝てたら遅刻だよ。バカじゃないの?」
『あさぁ?』
「もうわかった!聞こえてる!…本当にうっさい!」
朝瑞は高校3年生を終わろうとする年になっていた。階段を降りて、テレビがある居間に行くと食べるわけもない朝食が用意されていた。それを無視してテレビの前にあるソファに座った。
「朝瑞?早く食べちゃって!」
「言ってるじゃん。朝はいらないって。なんで一度で覚えててくれないのかな」
「何言ってるの?朝食べないともたないでしょ?」
「…」
親の声は本当に面倒だ。それもムカつく。はぁ。
「あら!陽多くんじゃない!」
あからさまな高音を出して朝瑞の隣に来た。テレビのCMに出ている彼は…小学3年の時にスカウトされて高学年になる頃にデビューした。
デビューしてからも彼は変わらず一緒に学校に行ってくれたし、中学も1つ上だったのに2年間は毎日一緒に学校へ行った。
彼が進学すると決めた時、ドラマも決まっていた。殆ど行けなくなるというのに彼はそのまま通っている。陽多は秀才だった。勉強も運動神経も1位2位という場所にいた。それなのに芸能活動もちゃんとしている。そんな彼に人気が出ないわけもなく、案の定…ジャニーズも跳ね除けて、子供の頃から夢だった歌手で大成功している。それと比べて私は…
小学生の頃は運動も勉強も人並み。本当に平均。無難になんでもこなせる。だから、『今一つ』と言われる。そんなこと言われたって私は私なんだし、先生にそんなことを評価されたくもない。
中学の頃は道をはみ出す友達が羨ましかったが、それを止めたのは陽多だった。陽多と付き合っているとも言われていたが、陽多と比較されるのが嫌だった。アンバランスだと周りから言われるのが…辛かった。赤点を取っているわけでもないのに『バカと秀才』とか言われる。先生たちからも『彼は出来るのにね?』とか言われちゃう。ムカツク。
陽多が中学を卒業するとともに彼女は髪の毛をオレンジにした。カラーコンタクトもいれ、化粧もいつも以上に濃くした。周りがびっくりしても…記憶を換えたかった。
「いいわねぇー!ママ、陽多くんも好きだけど、同じグループの優羽くんもいいなぁ!」
陽多は同じ事務所に所属していた優羽という同い年の少年とダンスユニットを組んでいた。優羽は静か系で可愛い顔をしている。スウェーデンのハーフなのでブロンドの天然パーマに青い目が特徴だった。
「はぁ?優羽?面食いだねー」
「何言ってるの?陽多くんもかっこいいでしょ!?」
「はいはい。じゃ、行くね!」
「え?ご飯は?」
あぁうるせっ。
親の言葉を無視して玄関に行くと…ピンポーンとチャイムが鳴った。
「あらあら♪誰かしら!」
わかりきった声で母がドアを開けた。この時間にたまにアイツが来る。
「おはようございます!」
「おはよー陽多くん!CM見たわよ!」
「あぁ…ありがとうございます!おはよう!朝瑞!」
陽多は用事がない時は朝瑞を学校まで送ってくれるのだ。それもウザイ。
靴を履いて、いない者として前を通り過ぎた。
「あ、おい!朝瑞!!!ちょっと待てよ!」
陽多はペコッと頭を下げてから追いかけて来た。
「朝瑞?どした?不機嫌?」
走って来て隣に並んで歩く。深くかぶった帽子から優しい目が見える。
無視をしようとしてると…
「ふふふーん♪」
「ちょ!鼻歌辞めてよ!アンタ目立つんだよ!わかってる???」
大声を出すがここの通りはなかなか人が通らない。
「目立つ?そうか?そうでもないぞ?」
「目立つって…てかいつまで来んの?学校は?仕事は?」
「今日は優羽が呼ばれてて!俺は昼から!大学はなし!単位足りてるからな」
この…ムカツク。
はぁとため息をついてから曲がり角で止まった。
「悪いけど!アタシこっちだから!」
「え?学校こっちだろ?」
「友達と行くの!じゃーね!」
そのまま振り返りもせずに陽多と別れた。今日は朝からムカツクことだらけだ。
数分歩くと…
「朝瑞ぃ!遅いっ!」
大きな時計台の前で同じ学校の杉野萌々瀬が待っていた。
紹介
「あ、ごめん!変なのに掴まってさ!」
「え?朝からナンパオヤジ?」
嫌そうな顔をする萌々瀬は陽多と幼馴染だと知らない。この辺に住んでいるというのは知っているらしいが『どこ』までは知らなかった。だから、『陽多がさー』とかは言えないし、萌々瀬は陽多のファンだった。2年の最後に転校して来た萌々瀬はチラっと見れた陽多に興奮したと3年の春に語っていた。それを遠目から呆れて見ていた相手が今では悪仲間の友人だ。
「う、うん!本当にキモイ!」
「だよね!お前らの目の癒しのために制服着てるわけじゃねーよ!とか言いたくなる!」
「そうそう!わかるぅ!」
2人でオジサンの貶しあいをして、公園のトイレに行った。そして、鞄の中に忍ばせていた洋服に着替えた。
「萌々瀬着替えた?」
「うん!大丈夫ぅ!」
「「せーの!!!」」
バーンッと効果音がしそうな感じで2人は着た洋服を見せあった。
「おぉ!朝瑞、制服っぽーい!チェックが可愛い!それ、ワンスポ?」
「そうそう!この間出たばっかでさ!萌々瀬はスポーティーだね!」
「うん!だって!早稲田だよ!行くでしょ!」
「だね!じゃー行こうか?」
今日は学校だ。だが、二人にとっては早稲田大学の生徒と合コンだった。
「後の二人は?」
「あぁ今日はね?2人!」
「え?2人なの?」
「うん!相手も2人だし!」
「へぇ」
電車に乗り…バスに乗って早稲田大学に着くと…生徒がいっぱいいた。
「ちょっと!大学入るの?やばくない?」
「大丈夫!わかんないって!」
萌々瀬と手を繋いで大学に足を踏み入れた。引っ張られるがまま学食に着いた。
「確かね…」
キョロキョロとして…また引っ張られた。時計が近くにある席に座った。
「萌々瀬…本当に大丈夫?」
「朝瑞って心配し過ぎぃー」
「え…だって」
「あの?萌々瀬ちゃん?」
名前を呼ばれて揃って顔をあげるとイケメンの男性3人が目の前にいた。萌々瀬はどこから出してるのかわからない声を出して立ち上がった。
「あ、はい!そうでーす!」
「こんにちわ。そちらは…」
腕をいきなり引っ張られて朝瑞も立ち上がった。
「朝瑞!同い年なの!」
「そうなんだ!俺、幸太!コイツが…」
朝瑞も慌ててペコッとした。幸太と言った人が他の2人を紹介してくれた。でも全然声が入ってこなかった。そのまま大学を一回りしてから開店したカフェに行った。合コンは初めてではない。寧ろ沢山やっている。学校に行きたくない日や暇になった日。他の友達も含めて沢山出会ったけど、付き合うまでになる人は一人もいなかった。
萌々瀬は幸太と親しげに話していた。その横で名前を覚えられなかった男性2人と話さなければならなくなってしまった。
「あさひちゃん、可愛いね?」
「そんなことないですよー!」
…。
「あさひちゃんは何が好き?」
「なんだろー」
…。
「あさひちゃん…」
会話が膨らまない。どうすればいいのかわからない。それも一人はマシンガンだが一人は深く帽子をかぶって、なぜここに来たのか…という態度だった。
「おいぃ!想真ぁ!お前もなんか話せよ!」
「は?いいよ。俺は時間潰しなだけだし」
「ごめんね?コイツ態度悪くて」
「あ、いえ。大丈夫です!」
ガタッと音を立てて萌々瀬と幸太が立ち上がった。
「じゃ、俺たちちょっとそこら歩いて来るから!」
「はぁぁぁ!なんだよそれー!」
「じゃーなー!」
萌々瀬は小声で『ごめん』と言って幸太の腕にしがみ付いて歩いて行った。よく喋る方は羨ましいという声を上げていたが、そうでない方は今にも寝そうだった。
「あさひちゃん!」
「え?はい!」
名前を呼ばれて勢いよく声をあげた。
「びっくりしたぁ!どうしたの?そんな声だして!」
「あ、ごめんなさい!ちょっとびっくりして…」
すると男は朝瑞の手を掴んだ。