Glassノ器

□瞳.-Eyes-.
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夏音がそのまま上着を脱ごうとしたので止めた。

「夏音…頼むから…辞めよう?」

「なんで…?」

「なんでって…」

「アタシはいいよ?セフレでいいよ?」

「ダメだって…夏音にはそんなことして…」

「今までそうだってじゃん?」

夏音に突かれて櫻は溜息をついて頭をかいた。

「そうだけどさ…そうなんだけどさ…ごめん」

「何?バンちゃんそんなに大事?」

櫻は顔も見れないまま頷いた。

「好きなんだ…すっごく…だから悲しませたくなっ…」

スタジオにパシンッと大きい破裂音が響いた。叩かれるのはわかっていた。だから歯も食いしばらなかった。口の中が切れて血なまぐさい臭いがしても仕方ないと思えた。でも夏音の次の行動はわかったので…走り出す前に手首を掴んで止めた。

「離してよ!!!」

「離さないよ…」

「嫌!離して…嫌…嫌…」

泣き崩れる夏音を優しく抱きしめた。夏音は何度も胸を叩いて来た。なので背中を優しく撫でた。

俺はなんて自分勝手なのだろう…。

その日胸の中で眠る夏音を抱きしめたまま眠りについた。

俺は誰を守ってやれるのだろう。絆のことも夏音のことも守ってやれることは出来ないのかもしれない。


「ふーん♪彼は多すぎるね?足を引っ張る物が。」

帰って来ない櫻を迎えに来た暖琉がスマホで櫻と夏音を撮影した。

「…まぁ。総長さんほど面白いものはないけど…」

暖琉はクスクスと笑いながらスタジオを出た。カーテンの間から太陽の光が櫻の目に当たって覚めた。胸の中で眠る夏音は少し肌蹴ていたので、優しく整えさせた。すると彼女は起きた。

「ん…櫻ぁ?」

「おはよう…夏音」

櫻はゆっくりキスをして来た。

「ん…おはよう櫻」

トロンッとした目の夏音を見るとなんだか安心出来た。

「夏音…今日は家でゆっくり休みなよ?昨日お酒飲みすぎ」

「え?そうなの?アタシ…どうやってここきたの?」

「え!?覚えてないの!?」

「うん…?なんか言った?アタシ…」

心配そうな顔をしていたので櫻はゆっくり首を横に振った。

「大丈夫だったよ?」

優しく頭を撫でると夏音は幸せそうだった。タクシーを呼んで夏音の家まで向かってもらった。櫻はそのまま走って家に帰った。早朝の日差しはとても気持ち良かった。


ー『こんにちわぁ!!!Withです!!!』

公開ラジオが開催された。

唯『はい、今日は渋谷公会堂に新しく出来たNスタジオさんでやらせて頂いてます!』

櫻『はい!渋谷公会堂ではライブをしたり、イベントをしたり沢山お世話になってます!そこになんと!新しーぃ!ラジオが出来ちゃう場所が出来ちゃったんです!」

唯『なので、新しいっていうのを記念して!ファンの子たちも一緒におじゃましてまーす!』

櫻『皆元気ー?』

窓越しにいるファンの子たちに向かって手をすると何百人いるファンの子たちが一斉に手を振っていた。

唯『ここに来てくれる皆は押さないように!前の子を潰しちゃダメだよ?』

櫻『お仕事の子!遠くて来れなかった子!色々な事情があって来れなかった子は!沢山メッセ待ってるよ?』

唯『そうそう!もうドシドシ来ちゃってるからね!スタッフの人が大変そう!』

櫻『そうだね!でも俺がさっきから目に着くのは香川県にお住まいのメイプルさん『唯くん!眼鏡外してー』だね!』

唯はそう言われて外した。するとその場にいたファンたちが『キャー』と叫んだ。

唯『眼鏡外してもいいけど、ラジオだと全く見えなくない?つか、俺も見えないよ?』

櫻『唯、視力どのぐらいになったの?』

唯『前とかわらないよ?』

櫻『前が知らないって!』

ニヤニヤ笑う2人は最初のコーナーに入った。

唯『では最初のコーナーは…質問コーナー』

櫻『イエーイ!ぱちぱちぱち!』

唯『では、ファンの子たちが思ってる僕らへの質問に答えて行きましょう!ではと…俺からでもいい?』

櫻『いいよー』

唯『神奈川県お住まいのまいぷにさんからです『櫻くんはスタバの画像をよく載せていますが、スタバの飲み物の何が一番好きですか?』だそうでーす!』

櫻『そうね、俺結構スタバファンだね!』

唯『だね?この間も朝食行くって言うからガストとか行くのかと思ったらスタバでまったりしてたもんね?』

櫻『うん!えーっと…んー。今はダークモカかな?疲れた時は甘いの好き!』

唯『あぁ!生クリーム?櫻甘いの好きだな?』


櫻『そうだけど、辛いのも食べれるよ?』

唯『ふーん…んじゃ次!』

櫻『はいはーい!おっ!これは俺も気になる!山口県お住まいのななたんさん『唯くんはなんでイベントとかの時は僕って言うのに違う時は俺っていうの?』だってー!気になる!気になる!』

櫻が唯の腕を引っ張った。唯は面倒そうな顔をした。

唯『櫻に気になられたくない!ってか、司会者さんとかあとはこういう決まりきったモノの流れ?の時に自出したら話しにくいじゃん?』

櫻『そこなの?…あぁでも俺も司会者さんの前だと僕かも』

唯『だろ?つーこと!』

唯が紙をペラペラ捲って手紙を選んだ。

唯『次ぃー!岡山県お住まいの明日香さんから『櫻くんはいつも夜はどうやって過ごしますか?私はDVDを見てから過ごします』って!』

櫻『唯は?』

唯『え?俺…んー明日香さんと一緒でDVDも見るけど…本読んだりも好きだな!櫻は?』

櫻『俺はバー行ったり、DVDも見るな!唯はどんなん見る?』

唯『ほぼ洋画かな?サスペンスアクションとか!』

櫻『あぁ!アクション系いいよな!俺もいいなぁって思う!邦画もアニメも好きだな』

唯『色々見るよな…今度一緒に映画行くか?』

櫻『おっ!いいね!行こう!』

そんな会話をしながら質問コーナーで10通読んで、次のコーナーでも10通読み、すべてのコーナーで合計100通の手紙を読んだ。ラジオも3時間立つと体が疲れてくるモノだった。

唯『あぁ…そろそろってかもう疲れた』

櫻『スペシャルとか言ってこんな長く話すの嫌じゃない?』

ファンの子にフルとファンは『そんなことなーい!』と言った。櫻は笑いながら準備運動をした。

櫻『んじゃ!ちょっと運動しますか?』

唯『そうだな!では、ラジオの皆は聴いて下さい!俺たちのニューシングル!!!』

櫻『Voice-届恋-!!!!』

唯『Peace!!!』

櫻の曲がかかると2人はNスタジオの部屋でダンスを披露した。悲鳴と歓声と手拍子…そして数十名のジャンプで会場は地震のように揺れた。

ミニライブが終わると2人は慌てて席に座った。

櫻『ハァハァハァー…』

唯『櫻うっさい!マイクに息吹くな!』

櫻『しょうがないこと言わないの!ダンス結構激しめなんだから!あぁ…俺はもっと走るか!』

唯『おう!おう!走れ!!!俺も負けないから』

櫻『唯は少し休んでよ!』

楽しく会話をしつつもやっぱりライバルなんだなとファンは思っているのだろうか。ライバルだと思ってくれるのだろうか。

ラジオが終わったのは19時だった。ファンを会場から返すのは大変でなかなか帰ろうとしなかった。スタッフが怒鳴り声をあげても…。

「このままここに居座られると!もうここでラジオ出来なくなるよ!それでもいいのか!?」

色々文句を言ってファンは帰って行く。櫻は楽屋でスマホをいじっていた。

櫻『絆!会場の駐車場のA3の6番の車のバックのいて?」

絆『多分…無理な気がするよ?私がそっち行けば皆着いて来るんじゃないかな?』

櫻『上手くまけないかな?』

絆は『やってみる』と返して来た。櫻は鞄から汗拭きシートを取り出して顔や体を拭いた。鏡で身だしなみをチェックすると唯が笑った。

「櫻ってわかりやすいな?」

「はぁ?何が?」

「絆ちゃんに会いに行くんだろ?」

櫻は少し顔を赤くした。

「うっさい!黙れ」

「まぁいいけど…打ち上げは21時だぞ?あんまイチャつけねーぞ?」

「…わかってる!!!車でイチャつくなら気をつけろよ?」

「だからうっさいって!!!」

「…俺が皆を引き留められるのは20時半までだからな?」

唯の真剣な目を見て櫻は恥ずかしそうに『ありがとう』と言った。櫻は走って楽屋を出て駐車場に急いだ。
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