Glassノ器

□輝く.-Shine-.
3ページ/36ページ

櫻はムッとした顔をして絆を見た。

「絆ぁ…泊まろう?」

「ここに…?」

「うん!!!」

子供のように櫻は頷いた。絆の手を握ると彼女は不安な顔をしていた。

「絆?」

「ん?」

「嫌…?」

「嫌っていうか…」

黙っていると…。

「いいですよ?泊まっても」

誰かの声がした。櫻は絆の体を隠すように前を向いた。

「誰?」

「彪悟です。スタッフの宿泊室があるので。そちらに…」

「…あぁ…彪悟さんに言われなくてもそのぐらい知ってますよ」

「なんだか悩んでるみたいだったので」

「全然悩んでないです。さっさと帰って下さい」

「そうですか?では、明日」

彪悟の足音はどんどん遠くなって聞こえなくなった。

「なんなんだよ…」

櫻はそう言いながらシャワーを出した。

「熱い?」

絆に少しシャワーが当たる。絆はゆっくり首を振った。絆の手足が震えているように見えた。だから優しく抱きしめて泡を流した。

「絆?大丈夫か?」

彼女はゆっくり首を動かした。

「大丈夫…櫻…洋服貸してくれないかな」

「あぁ…うん!待って!」

櫻は自分の体についている泡を洗い流してからカーテンを開けて素早く閉めた。

「服…服…絆。ちょっと待っててもらっていい?換え多分スタジオだから」

「…うん。わかった」

裸のまま放置されるのは怖かった。体育座りをしてシャワーからこぼれる水滴の音が…怖さと寂しさが増した。

「こんばんわ」

声が聞こえて顔を上げると壁がノックされた。

「こっちです。櫻くんも唯くんもなかなか隙を見せなくて。でも…櫻くんは少し甘いね。沢山の弱点を持ってる。それをカバーしてるのは唯くん。いつボロが出るのか…楽しみです」

「辞めて…下さい。そういう言い方…あんた…私に恨みがあるんでしょ…だったら私にだけ何かをすればいいじゃない!なんで櫻たちにまで手を出すのよ…」

「…恨みですか?そんなもんじゃない…」

「はぁ?私、あんたのことちっとも覚えてなんかっ…」

『あぁいやぁぁぁぁぁ!!!辞めてぇぇぇぇぇl!!!やだぁぁぁ!やぁぁぁぁぁっぁぁ!!!辞めてぇぇぇぇぇ!!!いやぁぁぁっぁぁぁあぁぁl!!!!』

絆の体がビクッとなり…トンネルのような環境に…声が響く。

「辞めて!消して!!!」

壁をバンバン叩くと声が止む。

「辞めて…下さい…辞めて…辞めて辞めて辞めて辞めて!!!」

「じゃ…今日はちゃんと泊まって下さいね?」

暖琉はそう言って出て行った。絆は涙を流しながら床に座った。

「絆!洋服ちょっと大きいかもしれ…」

カーテンが少し空いたシャワールームで彼女は眠っているような気がした。櫻は駆け寄って絆の体を揺さぶった。

「絆…絆?」

絆はピクッと起き上がり顔を上げた。

「あ…櫻…ごめんね?」

「え…何が?どうしたの?」

絆は濡れた体のまま櫻に抱き着いた。

「櫻…好き…大好き」

「え?うん…」

絆に何があった?

そう思っても何も出来なかった。タオルで絆の体を拭いてから洋服を渡した。

「櫻…北海道ライブ終わったら…帰って来るの?」

洋服を着ながら絆が言った。櫻は棚を漁りながら返した。

「北海道終わったら…ラジオがあって生番組もあって…収録とかなんだかんだあるから…どうなるか…」

「帰って来ないの?」

櫻は着替え終わった絆を連れてスタジオに行った。行く道でずっと絆は『ねぇねぇ』と子供のように言っていた。スタジオについて櫻は手に持っていたドライアーをコンセントに刺した。

「絆?座って?」

「ねぇ…帰って来ないの?」

櫻は溜息をついた。

「わかんないって…帰って来るかもしれないし…帰れないかもしれないし…そのまま福岡公演行く可能性もあるし…」

「なんで…北海道終わってから福岡まで12日ぐらいあるよ!!!」

「あるけど…ラジオと生放送は決まってるし…収録撮り溜めしないと…」

「…明日はもういないの?」

絆はいきなり泣き出した。髪の毛も濡れたままで顔も涙で溢れていた。櫻は慌てるように絆を抱きしめた。

「なんだよ…いきなり駄々こねないでよ…」

「こねたかったんじゃないもん…だって櫻…明日からいないじゃん…いないじゃん…」

「なんで泣くの?寂しくなった?」

「寂しいよ…櫻…櫻…」

櫻は絆の背中を優しく撫でて落ち着かせた。絆が泣き止むまで抱きしめて…落ち着いてから膝に座らせて乾かした。

「動かないのー!俺の目が乾くでしょ!」

「だって…櫻見たい…」

「後でたっぷり見せるから!」

「今見てたい!」

「ダメだって!ほら、前むいて!」」

完全に絆の髪を乾かすと今度は絆が櫻の頭を乾かし始めた。

「動いちゃダメー」

「わかってますよー…なんでそんな甘え口調なの?」

「櫻…嫌?」

「え?」

「…嫌?」

上目使いをされるとドキッとした。

「嫌じゃないよ?」

「よかったぁ…」

絆はそう言いながら前から櫻の頭を乾かした。大きすぎる櫻のレッスン着からは絆の胸がチラチラ見える。それをニヤニヤしながら見ていると絆がドライアーを止めて胸に櫻を埋もれさせた。

「ん…」

「気持ちいい?」

「うん…」

耳が赤くなった。ギューとしてると…

「お願いが…」

「ん?何?」

「頭…挟んで…」

絆はニヤニヤしながら胸で櫻の頭を挟んだりした。

「もう少し大きかったらよかったなぁ…」

そう言うと櫻が顔を少し上げた。

「なんで?いいよ…大きくなくて」

「だってそしたらもっと挟めるよ?」

絆にそう言われて…夏音のことを思い出した。


アイツの胸は…大きかったな。

「櫻?」

「ん?」

背筋がビクッとして思わず体を起こした。

「櫻…どうしたの?」

苦笑いをしているのが凄くわかる。だから抱きしめた。

「ううん…絆の全部が好き…大好き」

「うん…私も好き…」

抱き合っているだけなのに…天に上るような気がした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ