Glassノ器
□輝く.-Shine-.
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櫻はムッとした顔をして絆を見た。
「絆ぁ…泊まろう?」
「ここに…?」
「うん!!!」
子供のように櫻は頷いた。絆の手を握ると彼女は不安な顔をしていた。
「絆?」
「ん?」
「嫌…?」
「嫌っていうか…」
黙っていると…。
「いいですよ?泊まっても」
誰かの声がした。櫻は絆の体を隠すように前を向いた。
「誰?」
「彪悟です。スタッフの宿泊室があるので。そちらに…」
「…あぁ…彪悟さんに言われなくてもそのぐらい知ってますよ」
「なんだか悩んでるみたいだったので」
「全然悩んでないです。さっさと帰って下さい」
「そうですか?では、明日」
彪悟の足音はどんどん遠くなって聞こえなくなった。
「なんなんだよ…」
櫻はそう言いながらシャワーを出した。
「熱い?」
絆に少しシャワーが当たる。絆はゆっくり首を振った。絆の手足が震えているように見えた。だから優しく抱きしめて泡を流した。
「絆?大丈夫か?」
彼女はゆっくり首を動かした。
「大丈夫…櫻…洋服貸してくれないかな」
「あぁ…うん!待って!」
櫻は自分の体についている泡を洗い流してからカーテンを開けて素早く閉めた。
「服…服…絆。ちょっと待っててもらっていい?換え多分スタジオだから」
「…うん。わかった」
裸のまま放置されるのは怖かった。体育座りをしてシャワーからこぼれる水滴の音が…怖さと寂しさが増した。
「こんばんわ」
声が聞こえて顔を上げると壁がノックされた。
「こっちです。櫻くんも唯くんもなかなか隙を見せなくて。でも…櫻くんは少し甘いね。沢山の弱点を持ってる。それをカバーしてるのは唯くん。いつボロが出るのか…楽しみです」
「辞めて…下さい。そういう言い方…あんた…私に恨みがあるんでしょ…だったら私にだけ何かをすればいいじゃない!なんで櫻たちにまで手を出すのよ…」
「…恨みですか?そんなもんじゃない…」
「はぁ?私、あんたのことちっとも覚えてなんかっ…」
『あぁいやぁぁぁぁぁ!!!辞めてぇぇぇぇぇl!!!やだぁぁぁ!やぁぁぁぁぁっぁぁ!!!辞めてぇぇぇぇぇ!!!いやぁぁぁっぁぁぁあぁぁl!!!!』
絆の体がビクッとなり…トンネルのような環境に…声が響く。
「辞めて!消して!!!」
壁をバンバン叩くと声が止む。
「辞めて…下さい…辞めて…辞めて辞めて辞めて辞めて!!!」
「じゃ…今日はちゃんと泊まって下さいね?」
暖琉はそう言って出て行った。絆は涙を流しながら床に座った。
「絆!洋服ちょっと大きいかもしれ…」
カーテンが少し空いたシャワールームで彼女は眠っているような気がした。櫻は駆け寄って絆の体を揺さぶった。
「絆…絆?」
絆はピクッと起き上がり顔を上げた。
「あ…櫻…ごめんね?」
「え…何が?どうしたの?」
絆は濡れた体のまま櫻に抱き着いた。
「櫻…好き…大好き」
「え?うん…」
絆に何があった?
そう思っても何も出来なかった。タオルで絆の体を拭いてから洋服を渡した。
「櫻…北海道ライブ終わったら…帰って来るの?」
洋服を着ながら絆が言った。櫻は棚を漁りながら返した。
「北海道終わったら…ラジオがあって生番組もあって…収録とかなんだかんだあるから…どうなるか…」
「帰って来ないの?」
櫻は着替え終わった絆を連れてスタジオに行った。行く道でずっと絆は『ねぇねぇ』と子供のように言っていた。スタジオについて櫻は手に持っていたドライアーをコンセントに刺した。
「絆?座って?」
「ねぇ…帰って来ないの?」
櫻は溜息をついた。
「わかんないって…帰って来るかもしれないし…帰れないかもしれないし…そのまま福岡公演行く可能性もあるし…」
「なんで…北海道終わってから福岡まで12日ぐらいあるよ!!!」
「あるけど…ラジオと生放送は決まってるし…収録撮り溜めしないと…」
「…明日はもういないの?」
絆はいきなり泣き出した。髪の毛も濡れたままで顔も涙で溢れていた。櫻は慌てるように絆を抱きしめた。
「なんだよ…いきなり駄々こねないでよ…」
「こねたかったんじゃないもん…だって櫻…明日からいないじゃん…いないじゃん…」
「なんで泣くの?寂しくなった?」
「寂しいよ…櫻…櫻…」
櫻は絆の背中を優しく撫でて落ち着かせた。絆が泣き止むまで抱きしめて…落ち着いてから膝に座らせて乾かした。
「動かないのー!俺の目が乾くでしょ!」
「だって…櫻見たい…」
「後でたっぷり見せるから!」
「今見てたい!」
「ダメだって!ほら、前むいて!」」
完全に絆の髪を乾かすと今度は絆が櫻の頭を乾かし始めた。
「動いちゃダメー」
「わかってますよー…なんでそんな甘え口調なの?」
「櫻…嫌?」
「え?」
「…嫌?」
上目使いをされるとドキッとした。
「嫌じゃないよ?」
「よかったぁ…」
絆はそう言いながら前から櫻の頭を乾かした。大きすぎる櫻のレッスン着からは絆の胸がチラチラ見える。それをニヤニヤしながら見ていると絆がドライアーを止めて胸に櫻を埋もれさせた。
「ん…」
「気持ちいい?」
「うん…」
耳が赤くなった。ギューとしてると…
「お願いが…」
「ん?何?」
「頭…挟んで…」
絆はニヤニヤしながら胸で櫻の頭を挟んだりした。
「もう少し大きかったらよかったなぁ…」
そう言うと櫻が顔を少し上げた。
「なんで?いいよ…大きくなくて」
「だってそしたらもっと挟めるよ?」
絆にそう言われて…夏音のことを思い出した。
アイツの胸は…大きかったな。
「櫻?」
「ん?」
背筋がビクッとして思わず体を起こした。
「櫻…どうしたの?」
苦笑いをしているのが凄くわかる。だから抱きしめた。
「ううん…絆の全部が好き…大好き」
「うん…私も好き…」
抱き合っているだけなのに…天に上るような気がした。